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掃討作戦

 第88機甲旅団は進軍を一時停止している。まあ旅団に限った話ではなく、ゲルマニア軍のほぼ全てがそうであろう。どこからともなく神出鬼没に現れるヴェステンラント兵を警戒して、すっかり動けなくってしまったのである。


「オステルマン中将は手をこまねいているだけなのか……?」


 普段は勇猛果敢に積極的な命令を下すオステルマン中将が、特に命令も出さずに各々の部隊に任せっきりにしている。それでは流石に困る。


「ヴェロニカ、中将閣下に繋いでくれ」

「は、はい!」


 シグルズは痺れを切らしてオステルマン中将に直接通信をかけた。


『――シグルズか。要件は言わんでも分かる。この状況を何とかしろと言いたいのだろう?』

「はい、その通りです。撤退でも突撃でも、何でも構いませんので、とにかく何かご命令がないと困ります」

『上司に命令を要求するとは、偉くなったものだな、シグルズ』


 オステルマン中将は声を低くして。


「そんなつもりは……」

『冗談だ。怒ってはいない。私もお前と同じことを考えていたところだ 』

「そうでしたか。では何か問題が?」

『ああ。私だって指をくわえていた訳じゃない。他の師団からの報告で、敵の体制は何となく掴めてきた』

「と言うと?」


 オステルマン中将が語ったのは、どうやらルテティア・ノヴァのそこら中に地下壕が存在し、敵がそこから出撃していること。そしてその掃討が非常に困難であることであった。


「敵が地下に籠るというのは、ダキアで散々目にしてきたのでは?」

『まあな。とは言え、ダキアの時みたいに欲しいものを何でも用意出来る訳ではない。それに重歩兵が地下に立て籠っていた場合、制圧は困難を極める』


 ダキアで敵が地下壕に立て籠った時は戦車の装甲から切り出した盾を用意して制圧したが、それはゲルマニア本国からすぐ近くのダキアだったから出来たことだ。貴重な戦車を解体して盾にするというのは考えにくい。


「なるほど。ですが、それを制圧しなければ、話になりませんね」

『まあそれはその通りだな。どうにか出来ないか?』

「そうですね……取り敢えず、敵の様子を見てみます」

『そうか。頼む』


 シグルズはその地下壕とやらと戦ってみることに決めた。それが単なる地下壕ではなく巨大な地下都市であることは知らず。


「で、どうするんだ、師団長殿?」

「まずは地下壕への入口を探そう。瓦礫の下に埋もれている筈だ。十分に警戒しつつ、全軍でそれを捜索する」

「了解だ」


 第88機甲旅団は瓦礫をどかしながら、あるのかも分からない地下壕への入口を探した。先程敵が出てきたところにはそのようなものはなかったが、人が入れるほどの穴を見逃すほどゲルマニア兵は馬鹿ではない。10分ほどで、家屋の残骸の下にそれと思しき地下へ続く階段を発見した。


 その報告を受け、シグルズとヴェロニカはすぐにその場に向かった。


「確かに、それらしいな」


 真っ暗闇に続く土の階段。一般市民の家の地下にあるようなものではない。


「気を付けろよ。敵がすぐそこにいるかもしれない」

「は、はい……」


 こちらから敵は見えないが、向こうからは丸見えだろう。取り敢えず階段を包囲するも、次の日行動に移せない。


「シグルズ様、次は……どうしますか?」

「まあ取り敢えず、手榴弾でも投げ込んでみようか」


 兵士達に顔は出さないように注意しつつ、手榴弾を階段の下に投げさせた。何も見えない闇に溶けた手榴弾は、数秒の間を開けて地面を揺らす爆発を起こした。地下壕から黒い煙が立つ。


「…………反応は、ありませんね……」

「その、ようだな。やっぱりこちらから仕掛けないと尻尾を出さないか……」


 敵がいるとしたらなかなか忍耐強いようだ。こちらが姿を晒さないと撃っては来ないだろう。兵士を突入させれば敵がいるかいないか分かるだろうが、それは兵士に死ねと言っているようなもの。簡単には命じ難い。


「敵の総数が分からない限りには作戦も立てにくいし、思ったより面倒だな……」

「やっぱり、戦車をバラして盾にしますか?」

「それは最後の手段だ。……だけど、戦車を使うのは悪くない」


 シグルズは一つ思い付いた。


「戦車ですか? こんな狭い階段に戦車は入れないと思いますが……」

「戦車で突入する必要はないよ。地上から地下に砲弾をぶち込めればいいんだ」

「しかし閣下、戦車の俯角では、ここまで下を撃つことは不可能ですが……」


 人間相手が前提の戦車の主砲は、ある程度水平より下を狙い撃つことが出来る。とは言え、流石にこの地下壕の下に向けるまで砲身を下げるのは不可能だ。


「ああ、確かに。だが、だったら戦車そのものを傾ければいいんだ。ちょうどいい瓦礫が大量にあるじゃないか」


 瓦礫で斜面を作って戦車そのものを傾かせるというのが、シグルズの思い付きである。なかなか雑な作戦ではあるが、上手くいけば流石の魔導兵もただではすむまい。


 という訳で、兵士達は早速瓦礫を集めて戦車の重量に耐えられそうな台を作り、戦車がやって来た。斜め後ろに下がりながら戦車の後ろ半分を台に乗り上げ、砲身を地下壕の先に向けることに成功した。

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