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大砲撃Ⅱ

 最初の斉射の時点で、効果は明らかであった。ルテティア・ノヴァのあちらこちらから煙が上がり、整然と整理されていた都市に穴が開いている。最近はあまり出番がなかったが、ゲルマニアの野戦砲も着々と進化しているのである。


「これで、一体何人死んだかな」

「中将閣下……」

「ははっ、そんなことを気にしていても仕方がないな。こうなることは最初からわかってたことだ。諸君! こんなもので終わりではないぞ! ルテティア・ノヴァに一軒の家も残らなくなるまで、撃ちまくれ!!」


 オステルマン中将は僅かに引け目を感じる声で、しかしそれを打ち消すように大声で命令した。砲兵隊は再度砲弾を装填し、そして準備が整い次第、次々と砲弾をルテティア・ノヴァに撃ち込んだ。その一撃の度に数十人が死ぬであろう砲撃を、何度も何度も繰り返した。そしてこのような砲撃が、半日に渡って続けられた。


「もう、ノフペテン宮殿を除けば、建物という建物はほとんど残っていませんね」


 ヴェッセル幕僚長は言った。ノフペテン宮殿だけは無傷であるが、その周りにあるのはひたすらに瓦礫、瓦礫、瓦礫である。まあゲルマニア軍がやったことだが、瓦礫の海に浮かぶ大層立派な宮殿は異様な姿に見えた。


「そうだな。砲撃止めっ! もう十分だ!」


 市街戦を展開出来る環境は完全に破壊された。これで条件は野戦と同じになった筈だ。


「全軍、全ての準備は整った! これより我々は全軍でルテティア・ノヴァに突入し、ノフペテン宮殿を制圧する! 進めっ!!」

「「「おう!!!」」」


 ゲルマニア軍はついに、王都へ進軍を開始した。


 ○


 一方その頃、ノフペテン宮殿に複数ある塔の一つにて。黒い外套を身に纏った幼き女王ニナは、ゲルマニアの軍服を着た若い女性――ヒルデグント大佐を拘束もせず、一緒に眼下の焼け野原と化した都市を見下ろしていた。


「ふははっ。ゲルマニア軍もなかなかやるではないか。これを見て、お前はどう思う?」

「我が軍の大砲の威力は素晴らしいですね。いくらあなたのような魔女でも、これが直撃すれば一溜りもないでしょう」


 ヒルデグント大佐はヴェステンラント女王相手に全く怯むことなく、いつもの調子で応えた。


「まったく、お前には人の心はないのか? 普通は市民が何万と死んだことについて話すだろうに」

「ヴェステンラント人は全て、もちろん女王陛下も、我が総統に弓引く愚か者です。そのような者はこの地上から抹殺されなければなりません。ただそれだけです」

「余はお前をいつでも殺せるのだぞ? それでもそんな大口を叩くか?」

「私は我が総統の為だけに生きています。私個人の命など、どうということはありません」

「面白い奴だ」


 ニナはヒルデグント大佐の狂信的な忠義を気に入っていた。だからいくら非礼があっても殺すことはしない。まあ元より礼儀など気にしない性分であるが。


「しかし女王陛下、こんなところに陛下自身や大公の方々がいてよろしいのですか? 我が軍はすぐにこの宮殿を包囲し、あなた方をとっ捕まえますよ」

「心配は無用だ。例え百万のゲルマニア軍に包囲されようとも、宮殿から脱出するなど容易いこと。王族の魔法を甘く見ないことだ」

「なるほど。とは言え、王都を敵に奪われるなど、いくらヴェステンラントでも、ただでは済まないのでは?」

「王都など、戦争には何の役にも立たん。ただ無駄に広い会議室があるだけだ」

「確かにそうかもしれませんが、国威に大きな傷が付くとは思わないのですか? 特にあなた方のような権威主義国家では、その影響は大きいでしょうに」


 ヴェステンラントの政治体制はあくまで中世のままだ。つまり、国家への忠誠とか愛国心とかそういうものは全体的に見ればかなり薄く、女王を頂点とした主従関係で国が成り立っている。それには女王の圧倒的な権威が必要な訳で、その都であるルテティア・ノヴァが陥落したとなれば、ニナもただでは済まない筈。


 ヒルデグント大佐はニナがまた余裕ぶると思ったが、彼女は神妙な顔をして黙り込んだ。


「……おや、どうしたんですか? 怖くなってしまいましたか?」

「まさか。ただ、我が国に権威などあるものかと思っただけだ」

「? まあ、あなた方は所詮、白人の癖にエウロパを裏切った盗賊の徒党に過ぎませんからね。最初から権威などないと言えばないですね」

「まあな。我々は所詮そんなものだ」

「……やけに素直ですね。本当にどうされたんですか?」

「どうでもよいことだ。ともかく、お前はここから戦争を見物しているがよい」

「ええ。我が軍があなた方を蹂躙する姿をしっかりと見ていますよ」

「そうなることを祈っているよ」


 ニナはそう言い残して立ち去った。ヒルデグント大佐は捕虜なのに何故か王宮の内外をうろつき放題であり、特にやることもないので宮殿を散歩することにした。


 〇


 一方その頃、ゲルマニア軍30万はついに王都の領域に足を踏み込んだ。オステルマン中将は全体を統括すべく、ルテティア・ノヴァからは少し離れた司令部で諸々の報告を受け取っている。


 戦闘が開始され、僅か10分ほど後のこと。


「閣下! 第108師団長、シュタイナー少将、戦死とのこと!」

「何? 師団長が死んだだと? 本当か?」 「間違いありません!」


 どうも雲行きが怪しくなってきた。



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