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ヴェステンラントの対応

 ACU2315 1/12 ヴェステンラント合州国 陽の国 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン王宮


「メヒクトリ港が敵軍に制圧されたと聞きましたが、間違いありませんか、オーギュスタン?」


 ノフペテン宮殿の大会議室の円卓。宰相エメは赤公オーギュスタンに、信じられないと言わんばかりの口調で尋ねる。


「ああ、間違いない。メヒクトリ港はゲルマニア軍にくれてやった」


 アトミラール・ヒッパーでの激戦を制したゲルマニア軍。ヴェステンラント軍はそれ以降反撃を行うことはなく、メヒクトリ港は自然とゲルマニアの手に渡った。かなり損壊しているとは言え、ヴェステンラント最大の港が敵国の手に渡ったのである。


「何を余裕気にしているのですか! メヒクトリ港が陥落すれば、この王都は敵軍の目と鼻の先。何としてでも防衛すると言っていたではありませんか!」

「そんなことを言ったかな。すまないが記憶にないな」

「……では、敗北したことは認めるのですか?」

「それはものの見方によるな。事実として、我が軍はゲルマニアの戦艦アトミラール・ヒッパーを戦闘が不可能になるまで破壊した。これでゲルマニアが使える戦艦は一隻だけとなった訳だ」


 アトミラール・ヒッパーは第一、第三主砲塔を失い、舷側装甲に大穴が開いている。とても戦闘に耐えうる状況ではなく、ゲルマニア軍は早急にこれを本国の軍港に帰還させるだろう。そして使用可能な戦艦はプリンツ・オイゲンただ一隻となる訳だ。


「……それがどうしたと言うのですか?」

「戦略的に見て、我が方が圧倒的に有利になった。戦艦さえなければ、壊滅寸前の我が海軍であっても、枢軸国艦隊を殲滅するのは容易だ」

「ええ……つまりどういうことですか?」

「敵の海上補給線を切断出来るということだ。エウロパからの補給がなければ、ゲルマニア軍は戦えん」


 確かに、輸送船団を三隻の戦艦で護衛するゲルマニア軍の計画は完全に破綻した。輸送船団は戦艦の護衛なしで広大な大洋を航らざるを得ないだろう。これを襲撃することは、死に体のヴェステンラント海軍でも容易なこと。


「つまり、敵の戦艦を削れたのだからメヒクトリ港が失われても構わないと?」

「ああ、そうだ。大体、メヒクトリ港を守りきったとしても、ゲルマニア軍は何度でも攻撃を仕掛けてくる。あまり意味があるとは言えんな」

「まあいいでしょう。それで、王都で決戦を挑むのですね」

「ああ。だが、大したことはない。敵の補給が切れるまで時間を稼いでいればよいのだ」

「一応言っておきますが、王都を捨て石にすることは許されませんからね。ルテティア・ノヴァは必ず守りきってください」


 オーギュスタンなら王都も捨て石にしかねないとエメは心配していた。


「ははっ、それは無用な心配だ」

「その言葉、お忘れなきように。いざとなったらあなたを解任してオリヴィアにでも指揮を頼みますから」

「好きにするといい」


 本国の危機とあって、大八洲と戦争していた部隊が一部呼び戻されている。大八洲方面は取り敢えず黄公ドロシアに任せ、青公オリヴィアが戻ってきていた。オーギュスタンに王都を守る気がないのなら、指揮権をオリヴィアに移す。


「それで、作戦はあるんでしょうね?」

「無論だ。もっとも、王都が無事で済む保証はないがな」

「……まあ、それくらいなら許容範囲です。何が何でも勝ってください」

「私は負けぬ。最後に立っているのは必ず私だ」


 オーギュスタンはただただ負けず嫌いなのである。


 ○


 ACU2314 1/15 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 王都ブルグンテン 総統官邸


 上陸部隊が無事にメヒクトリ港を確保、ヴェステンラント大陸の地に橋頭堡を築いたとの報告が総統官邸にも入った。


「取り敢えず、作戦の第一段階は順調なようだな」


 ヒンケル総統は報告に一先ず安堵した。上陸作戦が一番の山場であることは、文民である総統でも理解している。


「ええ、流石は我が優秀な部下と海軍の方々です。オーベルヘーア作戦は順調の推移しつつあります」


 ヴェステンラントの上陸、王都ルテティア・ノヴァを落とす作戦は、ザイス=インクヴァルト大将によってオーベルヘーア作戦と命名された。訳すと大君主といった意味になる。


「だが、戦艦が一隻、使い物にならなくなったそうじゃないか」

「はい、残念ながら、アトミラール・ヒッパーは本国に帰港し、大規模な修理を受けなくてはならなくなってしまいました」

「大丈夫なのか? これで稼働中の戦艦は一隻だけになってしまったではないか」

「ご安心ください。ヴェステンラント海軍は既に壊滅しております。我が軍の海上補給線を脅かし得る敵は存在しません」

「本当か? 戦艦がなかったら、敵の小規模な艦隊相手にも太刀打ち出来ないようだが」

「ヴァルトルート級魔導戦闘艦のような規格外の戦艦相手には確かにその通りですが、それ以外の小型船ならば、甲鉄艦で十分に相手出来ます。何も心配することはありません。それと、新型戦艦の増産の必要性は理解して頂けましたかな?」

「……がめついな。いいだろう。予算はいくらでも出す」


 ゲルマニア軍は早くもアトミラール・ヒッパー級戦艦に見切りをつけ、新戦艦の建造を始めているのだ。

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