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最終局面

「ふう。そろそろマキナが艦橋を制圧しているところでしょうか」

「何だって?」


 睨み合いと殺し合いを続けているシグルズとクロエ。クロエはふと呟いた。


「言った通りですよ。今回はマキナに頑張ってもらっています。彼女は、こういう戦いでは真価を発揮できるでしょうね」

「透明になって艦橋に侵入しようとでも?」

「それは無理でしょう。魔導探知機に引っかかります」

「まあね」


 マキナ独自の魔法である透明化だが、案外使い勝手は悪い。当然ながら常に魔法を発動し続けることになる為、その仕掛けを知っている者が魔導探知機を使えば、簡単に察知することが可能なのである。そしてちょうどその条件を満たすヴェロニカが艦橋にいる。


「だったら、どうするつもりなのかな? マキナの魔法は確かに強力だけど、戦況を一人でひっくり返せるとは思えないな」

「彼女は文字通りの不死身なんですよ」

「不死身? 馬鹿な。魔法の不死身はエスペラニウムを使い切るまでの限定的なものに過ぎない」


 眉唾物だと、シグルズは真面目に取り合おうとしない。


「確かに、その認識は正しいです。青の魔女シャルロット、そして女王陛下も、エスペラニウムなしには簡単に死んでしまいます」

「ああ、そうだ――」

「ですが、マキナは違うんです。彼女の魔法は無限と言ってもいい」

「それは…………」


 シグルズには心当たりがなくもなかった。何せ、彼自身がそれなのだから。エスペラニウムを必要とせず、いくらでも魔法を使い放題。それと再生能力を掛け合わせれば、本当の不死身が完成するのかもしれない。シグルズには無理そうだが。


「ああ、そうだ、あれか、イズーナの心臓か。あれで無限に魔法を使っているということだね」

「さあ、どうでしょう」

「それ以外考えられない。そして、それなら、心臓を抉り出せば終わりだ。艦内には賢明な人達がいる。すぐに気付くだろうさ」

「そうであったらいいですね。応援していますよ」


 クロエは余裕綽々とした表情でシグルズと言葉を交わしていた。不気味なほどに。


 ○


 その時、アトミラール・ヒッパー艦橋のすぐ下では、マキナとヴェロニカとオステルマン中将が終わらない殺し合いを続けていた。


「なあ、いい加減に消え失せてくれよ。そろそろ飽きた」

「それは出来ないな。お前達のような化物を解き放つ訳にはいかん」


 そう言うと、マキナは長剣をオステルマン中将に投げつけた。が、ヴェロニカのナイフがそれを叩き落とした。


「はぁ……」


 オステルマン中将は面倒臭そうに引き金を引く。マキナの左腕の肉を骨が丸見えになるまで吹き飛ばした。


「そちらこそ諦めて降伏したらどうだ? この程度では、いや、その何倍の威力を持った武器があったとしても、私は殺せない」

「やなこった。貴様みたいな気持ち悪いやつに降伏なんてする訳ないだろ」


 殺気立った言葉を交わしながら銃弾と剣を交換する二人。ヴェステンラント軍とゲルマニア軍、それぞれが切り札級の魔女を拘束されていることになる訳だ。


 だが、そんなことをしている後ろでは、大変な報告が次々と届いていた。


「第一主砲塔、制圧、されました……」

「クソ……。何てことだ……」


 艦内の戦況は、残念ながらヴェステンラント軍優位であった。マキナが艦橋目指して突っ込んで開けた防衛線の穴から魔導兵が奥深くに侵入し、防衛計画を狂いに狂わせていたのである。そして、戦艦の命と言ってもいい主砲塔の一つが落ちた。


「オステルマン中将! そいつを早く殺すんだ!」

「あぁ? 私に命令するな。それに私は中将じゃないし、こいつは殺せそうにないよ」

「う、うむ……」


 シュルヴィになったことで上官に一寸たりとも敬意を払わないオステルマン中将であった。しかし、軽口を叩きながらマキナに銃弾を叩き込んでいる姿には、安心感すら覚える。シュトライヒャー提督は彼女のことは放っておくことにした。


「落ち着こう……。取り敢えず、彼女がここで戦ってくれている限り、あの化物が野に放たれることはないようだな。それは気にしなくていい。防衛線の再編はどうなっている!」

「順次部隊を後退させておりますが、敵に回り込まれないようにするには大幅に下がらざるを得ない状態となっております」

「仕方あるまい。確実に守れる場所に籠城するんだ! それ以外は捨てても構わん」

「はっ!」


 かつてのブリュッヒャーのような状態だ。艦内の部隊は散り散りになり、袋小路の防御陣地に逃げ込んだ。戦いの主導権は完全にヴェステンラント軍にあると言わざるを得なかった。


 と、その時であった。


「閣下! 第一主砲塔が、動いています!!」

「何? 奪還に成功したのか? いや、だとしても……」

「い、いえ、敵が動かしている模様です!!」

「やっぱりか」


 不思議と驚きは少なかった。戦艦の主砲塔はそれぞれが装填から照準まで独立して稼働しており、制圧を受けたのならば敵が動かさない道理もない。


「しかし、まずいぞ、これは……」

「ど、どういうことでしょうか……?」

「分からんのか? アトミラール・ヒッパーの主砲が向いている先には我が軍の兵士達がいるんだぞ?」

「あっ……」


 乗っ取られた主砲で味方を撃たれるという最悪の展開が見えてしまった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヴェステンラント軍、どうやって砲塔動かしてるんだろ 捕虜にでもやらせてるのかな。
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