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アトミラール・ヒッパーへの急襲Ⅱ

 アトミラール・ヒッパーと陸地の間にかけられた橋は、上甲板ではなく中甲板に繋がっている。つまり水際防衛に失敗した場合、いきなり艦内に侵入されるということだ。


「撃てっ!!」

「「おう!!」」


 簡易的な陣地を構築したゲルマニア軍は、橋を駆け上がってくる重騎兵に対し、全力の一斉射撃を開始した。対人徹甲弾は惜しみなく使う。たちまち敵勢の最前列の兵士達は撃ち抜かれ、馬から落ちてそのまま海に落ち、或いは味方に蹴飛ばされる。


「野蛮な連中め……。誰一人として近付けるな!!」


 オーレンドルフ幕僚長も自身で突撃銃を撃ちまくりながら、兵士達に号令をかける。次から次へと迫り来る魔導騎兵を銃弾は貫くが、それ以上に無数の兵士が代わる代わる突撃してくる。徐々に両軍の距離は詰まる。


 ――厳しいか……


 ゲルマニア軍が陣地を張っているのは元は廊下だった場所だ。陣地は狭く、ゲルマニア軍の物量を活かすことが出来ない。


「む、無理です! 奴らどれだけ殺しても湧いてきます!!」

「泣き言を言うな! 撃ちまくれ!!」


 だが、オーレンドルフ幕僚長の発破も虚しく、敵軍はついに彼らの目前まで迫った。


「く、来るなっ!!」


 魔導騎兵の一人がバリケードに全く減速せずに突っ込み、馬は機関銃を構えていた兵士の頭を蹴り飛ばし、重騎兵がバリケードの裏に入ってしまった。


「死ねっ!! ゲルマニア人どもっ!!」


 魔導兵は四方に狂ったように剣を振り回す。普通の剣ならそんな軽い一撃で人体を切断することは出来ないが、魔導剣は周囲のゲルマニア兵の体を次々と両断する。


「そいつを殺せっ!」


 魔導兵が周囲の人間を粗方斬り伏せたところで、オーレンドルフ幕僚長は彼を殺すように命じた。兵士達は一斉に魔導兵に銃口を向け、容赦なく引き金を引いた。いくら重歩兵と言えども全方位からの銃撃には耐えようもなく、兵士は蜂の巣になって血の池に倒れ込んだ。


「ふう。だが……」


 もう防衛線の決壊まで時間はないだろう。まあ考えてみれば、第一防衛戦での迎撃に成功した試しがないし、それはそういうものだろう。やはりゲルマニア軍の得意は持久戦だ。


「全軍、後方の防衛線に後退せよ! 急げっ!」

「大佐殿はどうさせるのですか!?」

「私と第88機甲旅団は殿軍を務める! 急げっ!」

「はっ!」


 オーレンドルフ幕僚長は兵士達を撤退させることに決めた。幕僚長は剣を抜き、迫り来る重騎兵に逆に斬りかかった。


「消え失せろっ!!」

「何!?」


 彼女の剣は馬上の敵を突き刺し、そのまま隣の兵士に向かって投げ飛ばした。いきなり飛び出してきた狂気的な兵士に、ヴェステンラント兵達も気圧され、前線は僅かに押し返された。同時に彼女の部下達も突撃銃を両手に持って突撃する。


「1分だ! 1分だけ食い止めるぞ!!」

「「おう!!」」


 オーレンドルフ幕僚長は次々と敵を斬る。しかし兵士達は馬上から振り下ろされ剣に切り裂かれ、馬の足に踏み潰された。それでも、兵士達は決死の覚悟で敵を撃ち、何とか敵を食い止めた。


 そしてその間に、他の部隊の兵士達は艦内に設けられた防御拠点にまで撤退したのであった。


「これでいい! 総員撤退!!」

「「おう!!」」


 目的は達成された。オーレンドルフ幕僚長自身は最後尾に、第88機甲旅団の兵士達は艦内に撤収する。半分以上が死んだが、それも想定内である。


「大佐殿! ご無事でしたか!」

「そういうのはいい。敵が来るぞ」

「はっ!」


 敵が侵入してくることを前提に改造されたアトミラール・ヒッパーの艦内。仮設の防衛線と違って狭い廊下を塞ぐように重機関銃や火炎放射器の配備された防衛線に、兵士達は銃を構えて詰める。


 それから間もなく、敵兵が姿を見せた。


「撃てっ!」

「「おう!!」」


 隠れ場所の一つもない廊下に入った魔導兵を、機関銃の無数の弾丸が貫いた。やはりこれが原点にして最良の戦術であることは間違いないだろう。数人が死ぬと、敵はすぐに息を潜めた。


「さて、今度はどう来るか……」

「奴らが何を出してきても、負ける気がしませんよ!」

「――そうだな。私が敵の立場だったら、ここを突破出来る気がしない」


 機関銃と火炎放射器の組み合わせは、ヴェステンラント軍のあらゆる戦術を粉砕してきた。オーレンドルフ幕僚長は、敵が今度は何をしてくるのかと武者震いしていたが、敵は来なかった。


「き、来ませんね……」

「その、ようだな。本当に怖気付いたとでもいうのか……?」


 いくら待っても敵は一向に現れなかった。しかし、ヴェステンラント軍は彼女の目の届かないところで手を打っていた。


 ○


「あ、あれは?」

「何だあいつ? ふざけてるのか?」


 機関銃の銃口の先に、場違いにも程があるメイド服を着た端正な顔の少女が一人、立っていた。その手には長剣が握られている。少女はゲルマニア兵の武器に何の感情も抱いていないかなように、平然と歩き始めた。


「こ、こっちに来ます」

「敵であるのは間違いなさそうだしな……。撃つ、か」

「はっ! 撃てっ!」


 兵士達は困惑しながらも、廊下の先に立つ少女を撃った。無数の銃弾が彼女の身体を貫き、その服はたちまちボロ切れのようになり、壁と床に飛び散った血が塗りたくられた。


「な、何……」


 しかし、少女は立っていた。

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