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メヒクトリ港上陸作戦Ⅳ

「何だ……何が起こった?」

「シグルズ様! 船着場です! 船着場が吹き飛びました!」

「何? ……そう来たか」


 ついさっきまで枢軸国艦隊の輸送船が着けていた船着場が、なくなっている。数十の船が巻き込まれ、装甲艦は中破程度で済んだが、多くの木造帆船が巻き込まれて沈んだ。そこから上陸しようとしていた兵士達も同様であろう。


 枢軸国軍は一瞬にして、20隻ほどの軍艦と3,000以上の兵力、そして貴重な港を失ってしまったのである。


「クッソ……最低だ!」

「落ち着け、師団長殿。我々は我々で、最善の行動を取るのだ」

「……そうだな。すまない。とは言え、僕達に出来ることなんて何もないが」


 兵士の救助くらいしか思い付かないが、爆発に直接巻き込まれた兵士はまず死んでいるだろうし、生きている兵士ならば直に艦隊が助け出すだろう。元は港だ。海は穏やかである。


 結局、第88機甲旅団は何も出来ず、呆然としていただけであった。


「師団長殿、敵はどうしてこんなことをしたと思う?」


 オーレンドルフ幕僚長は唐突に尋ねた。


「どうしてって、そりゃあこっちの兵士を殺しつつ、港を封鎖する為だろう?」

「確かにそのように見えるが、長期的な効果は薄いし、多少の時間稼ぎにしかならない」

「まあ、確かにな」


 一度の攻撃で殺した人間の数では史上最多かもしれないが、所詮1万人に満たない数字だ。加えて、船着場を破壊した程度では、港の機能を全く無効化することは出来ない。復旧にそう時間はかからないだろう。


「幕僚長は、敵の狙いは他にあると言いたいのか?」

「そうでなければいいがな」

「……そう言われると不安になるじゃないか。ヴェロニカ、一応周辺の魔導反応をよく警戒しておいてくれ」

「は、はい」


 何となく嫌な予感がしたシグルズは、兵士達に警戒を続けさせた。しかし、その日は何も起こらなかった。流石に兵士を四六時中警戒させておく訳にも行かず、そこら辺にあった建物を接収して兵士達に休息を与えた。


「閣下、港の状況はどうでしょうか?」


 さて、シグルズは何度目かの通信をシュトライヒャー提督にかけた。


『どういうことだ? 港は君の目の前だろう』

「僕は陸軍の人間ですから、海の勝手は分からないのです。閣下の目から見て、この港を使用可能にするのたは出来るように思えますか?」

『ふむ。港というのは、何も船着場は整備場が全てではない。港全体の地形や海流こそが本質だ。だから、再びこの港を動かすのはそう大変なことではない。まあ3日もすれば、ガレオン船程度ならば発着出来るものが整うだろう』

「流石は提督閣下。それでは僕達は、暫くここでのんびりとしていますよ」

『それは流石に不憫というものだ。戦艦に戻ってくるといい』

「とても戻れる感じではありませんが……」


 船着場だったものや船だったもの、その他の残骸が港湾を埋めつくし、とても船が着けられる状況には見えない。


『戦艦から地上に橋を掛けよう。ああ、そうだ、そうすれば戦艦がすぐに港の代わりになれるじゃないか』

「は、はあ」


 シュトライヒャー提督は話しながら妙案を思いついたらしい。すなわち、戦艦と陸地との間を結んでしまえば、戦艦を経由して物資や人間を送り込むことで、実質的に港を復旧させられるのではないかと。


『そうと決まれば実行あるのみだ。シグルズ、手伝ってくれたまえ!』

「はっ。承知しました」


 シグルズは白い翼を羽ばたかせると、海に浮かぶ瓦礫を払い除け、細かいところは兵士達に任せながら、鉄材を並べて戦艦と陸地を繋ぐ簡素な橋を造った。所要時間は半日程度であった。実に素早い工事である。


「よくやってくれたな、シグルズ」

「はっ。これで兵士達を迅速に収容、もしくは展開することが出来ます」


 ガレオン船や輸送艦はアトミラール・ヒッパーに横付けし、兵士や兵器を送り込んで、それが橋を通してヴェステンラント大陸の地に送りこまれる。


「さて……これで地上側に物資を送り込める。港の復旧はすぐに終わる、か……」


 魔法の使い過ぎで流石に疲れたシグルズは、アトミラール・ヒッパーの艦内で休んでいた。第88機甲旅団も艦内で待機である。


「まあ、あれほどの魔法を使ったら、疲れるのも無理はないだろうな」

「分かってくれると嬉しいよ。ゲルマニアには魔法の使える人がほとんどいないからな」


 そんな気の抜けた会話をしていると、見知った顔が近寄ってきた。


「シグルズじゃないか。こんなところで何をしてるんだ?」


 オステルマン中将である。


「こ、これは中将閣下。僕はかなり働いたので休んでいるところですが、閣下は何を?」

「アトミラール・ヒッパーを通って港に入ろうとしたところだ。そろそろ私も地上に上がろうと思ってな」


 今回も上陸部隊の総司令官はオステルマン中将であり、戦況も落ち着いてきたところで地上に腰を据えようとするのはおかしなことではない。


「上陸したかったらアトミラール・ヒッパーを通るしかないですからね」

「ああ。戦車や装甲車を運べないのが不満だが」

「それは流石に無理で――」

「シグルズ様!!」

「何!?」


 その時、ヴェロニカが大声で叫んだ。

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