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メヒクトリ港上陸作戦Ⅲ

 先程まで激闘が繰り広げられていた――実際少し遠くを見れば焼け焦げた海が見えるのだが――メヒクトリ港は、嘘のように静まり返った。聞こえるのは戦艦を揺らす穏やかな波の音と、草木の揺られる音だけである。


 敵地とは思えない余りにも静かな状況に、シグルズは逆に落ち着かない。いや、シグルズでなくとも、少しでも戦場に慣れている者ならば、凄まじい違和感に苛まれていることだろう。


「どうなってるんだ……」

「師団長殿、このままでは埒が明かないぞ」


 オーレンドルフ幕僚長は言う。


「分かってる。だが、敵の居場所が分からないんじゃ、手出し出来ない」

「そんなことはないのではないか? 我々の物量で、敵を炙り出せばいい」

「敵に奇襲を受ければ損害は避けられない。出来れば先手を打ちたいんだ」

「敵もそれを望んでいるだろう。であれば、永遠に戦況は動かんぞ?」

「……クソッ」


 この戦い、先に動いた方が負ける。しかし守備側であるヴェステンラント軍には動く必要がなく、ゲルマニア軍は動かないと勝利出来ない。嫌でも地の利というものを実感させられる。


「敵を動かす方法は、ないのでしょうか……?」

「敵に砲撃させる方法、か。それがあれば苦労はしないんだが……。いや、なくはないか」


 シグルズは一つ閃いた。


「師団長殿、何か策が?」

「ああ。敵に強制的に砲撃させる方法は、艦隊で上陸を仕掛けることだ。大量の兵士が上陸してくるとなれば、奴らも撃たざるを得ないだろう」

「味方を囮にするということか。しかし、それでは犠牲を最小限にしたいという本来の目的に反するのでは?」

「もちろん、船には最低限の人間しか乗せない。いや、人間すらいらないかもな」

「なるほど」


 迷っている暇はない。シグルズはシュトライヒャー提督にその作戦を進言した。


『――つまり、船を生贄に捧げよ、ということか』

「はい、その通りです。そうして敵の位置を割り出し、僕達が殲滅します」

『そう簡単には言うが、旧式の帆船でも、ここでは貴重な船なんだぞ?』

「メヒクトリ港を安全に制圧出来ることと比べれば、大した損害ではないかと思いますが」

『はあ……君もなかなか言うじゃないか。分かった、よかろう。船を囮にすることを許可する』


 シュトライヒャー提督はすぐ折れた。そして暫くして、装甲も施されていないブリタンニア製の帆船が10隻ほど、メヒクトリ港に向けて進み始めた。真っ直ぐに船着場を目指す針路である。


「撃ってくるならここだ。ヴェロニカ、魔導反応を見逃すなよ」

「は、はい……」

「…………」


 沈黙は、突然に破られる。何の音もなく、帆船の1隻が大爆発を起こして四散し、瞬く間に轟沈したのだ。


「魔導反応を確認しました! 複数です!」

「よし来た! ヴェロニカはここで引き続き、敵の魔導反応を監視。他の部隊は直ちに敵砲台の制圧に向かえ!!」

「「おう!!」」


 兵士達はヴェロニカが発見した砲台に向けて、建物の間を縫いながら迅速に前進。大砲を隠す地下壕を見つけると、砲門に手榴弾を投げ込み、内部に突撃銃を乱射した。中にいた兵士達は銃弾の雨に貫かれるか、或いはゲルマニア兵に投降した。


「シグルズ様、作戦は順調です。敵の砲台はどんどん無力化出来ています」

「よかった。このまま制圧を続けさせよう」


 かくして、数隻のガレオン船だけの犠牲で港の防御機能を大幅に削ぐことに成功したのである。


「これで、魔導反応の確認された砲台は全て潰しました」

「とは言え、全てを潰した保証はないか。結局は威力偵察しかなさそうだ」


 発砲せずに息を潜めていた砲台があるかもしれない。それを見つけ出すのは困難だ。故にシグルズは、更なる揺さぶりをかける。


「――閣下、港は概ね制圧し終えました。もうこれ以上敵の砲台を見つけ出すのは困難ですので、本格的な上陸作戦を開始し、敵の様子を見るべきかと」

『なるほど。相当な砲台は潰したようだし、これ以上の安全を求めるのは無理、か。よかろう。枢軸国艦隊は、メヒクトリ港への上陸を開始する』


 シュトライヒャー提督は本当の上陸作戦を開始した。一応は甲鉄艦を前面に出しつつ、輸送船が港に迫る。シグルズはその様子を固唾を飲んで見つめていた。


「撃てるものなら撃ってみろ……」


 敵がこれに恐れを成して砲撃を行えば、すぐさまその位置はヴェロニカに捕捉される。最低限の犠牲は出てしまうが、必勝の布陣は整っている。


「上陸が開始されたぞ」

「ああ、そうだな……」


 特に何の障害もなく輸送船は港に付き、兵士達が上陸を開始した。これで安堵していいのか、シグルズには分からなかった。


「幕僚長、どう思う?」

「最大限の嫌がらせをするのなら、我々がされたように、兵士が上陸したところに大砲を放って吹き飛ばすだろうな。もっとも、それで消せる兵士などたかが知れているが」

「そうだな……あまり意味があるとは思えない」


 そんな最後の悪足掻きなようなことを敵がするだろうか。シグルズは否だと思う。そしてその予感は、斜め上の方向に的中してしまうのであった。


「何だっ!?」


 戦艦の主砲斉射を甲板で聞いたような爆音が、港を包んだ。

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