メヒクトリ港上陸作戦Ⅱ
「クッ……今度はどこを撃たれた!?」
「5番副砲が吹き飛びました!!」
「左から撃たれているのか……だが、それが分かったところでな」
どこから撃たれているのかすら分からず、一方的に破壊されていくアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン。反撃することも出来ず、その場で主砲をもたげて立ちすくんでいることしか出来ない。
「どうする……。こんな一方的な展開は認められんぞ……」
「閣下、こうなれば、強硬手段に出るしかないかと」
シグルズは言う。
「強硬手段、か。港を消し炭にしろと言うんだな?」
「はい。敵は少なくとも、戦艦の舷側を一直線に撃ち抜いてきています。これは敵の対艦砲が比較的近くにある証拠でしょう」
敵が遥か遠くから砲撃してきているのならば、砲弾は斜め上から降ってくる筈だ。だが被弾した場所を見てみると、砲弾は極めて直線的に飛んでくるように見える。いくら魔法の力があるとは言え、一直線に砲弾を飛ばせる距離には限界がある筈だ。つまり、この港のどこかに隠された砲台がある。
「敵は我が方から見て左側から砲撃してくるようだ。狙いは定められるが……」
「それでやるしかないでしょう」
極めて大雑把だが、どこから撃たれたかは分かる。
「だがいいのか? せっかくの港を破壊してしまうのは」
「半分を消し飛ばしても、この規模なら十分です。やりましょう」
「……分かった。全艦、敵のいそうな辺りを砲撃!! 建物を片っ端から吹き飛ばせ!!」
シュトライヒャー提督は決断した。港の半分ごと敵の砲台を吹き飛ばすのだと。既に砲撃の準備は整っており、彼の命令と同時に直ちに攻撃が開始された。大量の榴弾が降り注ぎ、美しい港の景観を破壊し、立派に整備されていた施設を破壊していく。あちこちから炎が上がり、メヒクトリ港は燃え上がった。それでもなお、敵軍が地下壕に潜んでいることを危惧し、砲撃の手は緩めない。
砲撃が開始され、1時間程度が経過した。メヒクトリ港の半分は完全に破壊され、港としての機能は完全に失われた瓦礫の山と化した。
「全艦、砲撃止め!」
シュトライヒャー提督は砲撃を止めさせる。その頃には敵軍からの砲撃は全くなくなっていた。
「これでいいのか……?」
「敵の砲台は沈黙したようです。このまま残った半分に上陸しましょう」
「ああ。全艦、警戒しながら進め!」
戦艦は前進を再開した。だが、次の瞬間であった。
「っ!? 砲撃か!?」
「――右舷に被弾! 損害は軽微ですが、敵の新型砲であることは間違いありません!!」
「クソッ! やってくれたな!!」
おかしいとは思っていた。ヴェステンラント軍の砲台が港の半分にしか設置されていないというのは。結局、この港は何の武装もない平穏なものに見えて、そこら中に砲台が隠されていたのだ。
「シグルズ……やるか? 港をほとんど吹き飛ばすことになるが」
「陸軍としては……港が残っていないと、ここに直接乗り込んだ意味がありません」
「だよなあ。…………だったら、このまま突撃しよう。歩兵隊を無理やり乗り上げ、制圧させる。これでどうだ? 行けるか?」
「――はい。何とかします」
敵の砲台に撃たれながら港に無理やり上陸し、陸上兵力でそれを制圧する。荒業だし不確定要素も多いが、これしかない。シグルズが何とかするのである。
「よし、決まったな。全艦、敵の攻撃には構うな! 全速前進!!」
アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンは、全速力で船着場に向けて進み始めた。
「被弾! 6番砲塔大破!」
「今ので10人以上死にました!!」
「クッソ……進め進め! 足を止めるな!」
あちこちから炎を上げ、多くの兵士を失いながらも、両戦艦は船着場に突撃し、そして無理やりタラップを降ろした。
「では、僕は行きます」
「ああ、死ぬなよ」
「ご安心を」
シグルズは艦橋から飛び降り、港に大急ぎで揚陸する第88機甲旅団の兵士達と合流した。本来は戦艦の護衛部隊として乗り込んでいた為、戦車や装甲車の装備はなしである。
「よし! 僕達は港を制圧し、艦隊への脅威を取り除く! すす――っ!?」
その時、シグルズのすぐ後ろが爆発した。船着場が抉ら取られ、多くの兵士が吹き飛ばされ海に落ちた。
「クソッ。ここにいたら蜂の巣だ! 港に乗り込め!!」
「「おう!!」」
兵士達は港の建造物群に向けて一目散に逃げ込んだ。敵の視界から逃れることが出来れば、狙い撃ちにされることはない筈だ。
「そ、それで、シグルズ様、どうしますか……?」
ヴェロニカは声を震わせなから問うた。
「それは君の仕事だろう? 魔導反応を探してくれ」
「あ、そ、そうですね!」
ここまで近づけば魔導反応で敵の精確な位置が分かる筈だ。ヴェロニカは敵が砲撃する時に備え、魔導探知機を睨みつける。しかし――
「あ、あれ……撃ってきませんね……」
「ああ……本当だ……」
さっきまで盛んに砲弾を放っていた砲台が、シグルズが接近きた途端に砲撃をすっかり止めてしまった。
「敵はここまで読んでいたっていうのか……?」
「て、敵は手強いですね……」
「赤公オーギュスタン、が指揮しているかは分からないけど」
シグルズには打つ手がなくなってしまった。