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メヒクトリ港上陸作戦

 ACU2315 1/10 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン宮殿


「レリア様、どうやら、ゲルマニア軍がこの王都に狙いを定めたようです」


 レリアの主治医、メンゲレ医師は、王都を駆け巡る噂を陽の魔女に伝えた。


「そうですか。いずれそうなるとは思っていましたが、早かったですね……」

「私には戦争は分かりませんが、ゲルマニア軍は艦隊を既に集結させているとか。一刻の猶予もありません。すぐに王都から脱出すべきと思いますが」

「あなたもそう言うのですね。ですが、私は逃げません。ここに攻め込んで来た敵は返り討ちにしてやります」

「レリア様の侍医としては、断固として反対せざるを得ません。ですが、所詮は平民に過ぎない私に、レリア様をお止めすることは出来ません」

「……勝手にしろ、ということですか。もう下がっていいですよ」

「はっ」


 メンゲレ医師はレリアの部屋を退出した。好きにしろとは言ったものの、レリアの考えは一応シモンに報告しておいた。


 〇


 ACU2315 1/13 陽の国 メヒクトリ港近海


 王都ルテティア・ノヴァと経済的な首都テノチティトランに近しいこのメヒクトリ湾には、ヴェステンラントで最も巨大な、世界でも最大級の港が建設されている。まあ南北ヴェステンラント大陸の大半を領有する超大国の王都への玄関口ともなれば、大層な港があるのも当然ではあるが。


 中型のガレオン船なら一度に100隻近くを収容出来る規模、ゲルマニアの戦艦であっても15隻くらいは軽く停泊出来そうな港であり、面積だけなら22世紀の地球の有名な軍港と比較しても遜色ないものである。


 そしてこの巨大な港こそ、枢軸国艦隊の攻略目標である。ザイス=インクヴァルト大将は上陸をとっとと遂行する為に港を直接確保することを決定したのであった。


「流石は世界一の港と噂されるだけはある。枢軸国艦隊をすっぽり収容出来そうな規模だな」

「ええ。しかし防御はさして考えられていないようです。戦艦で直接兵士を送り込む方針で問題ないかと」


 シュトライヒャー提督とシグルズはいつも通り、アトミラール・ヒッパーの艦橋から戦場を眺めている。


「見たところは、そのようだな」


 数十のガレオン船が停泊しているものの、ゲルマニア軍にとってはないようなもの。そして今回の目標は整備された港であり、強襲揚陸艦を出さなくても艦隊に兵力を陸揚げすることが出来る。


 しかし、シュトライヒャー提督はあまりにも作戦が簡単に進むことに違和感を覚えていた。それはシグルズも同じである。まあ不安だからと言って作戦を中断することは出来ないのだが。


「全艦に通達。戦艦で港に乗り込む。全速前進せよ!」


 戦艦で港に突入するという大胆な作戦。普通ならそんな馬鹿はしないが、敵には戦艦に打撃を与えられる武器は存在しない。二隻の戦艦だけが艦隊から突出し、港に突撃した。


「閣下、この辺で敵に降伏勧告を出しましょう」

「分かった。その辺は任せるぞ」

「はっ」


 またしてもシグルズが敵軍に降伏を促す。確かに、シュトライヒャー提督よりシグルズの方がヴェステンラントでは有名なのである。


「――メヒクトリ港のヴェステンラント軍に告ぐ。我々はこれより、この港に突入する。戦艦に踏み潰されたくなければ白旗を挙げるなどして降伏の意志を示されたし。賢明な判断を期待する」


 などと呼び掛けるも、港には何の動きもない。停泊した軍船は降伏する素振りも逃げる素振りも見せず、まるで無風だ。それはそれで不気味である。それでも戦艦はゆっくりと、港との距離を詰める。


「まるで人間がいなくなってしまったようだな……」

「ええ、本当ですね。しかし、この港を完全に放棄するなど考えられないです」


 抗戦せずに捨てるのならば徹底的に破壊しておく筈。何もせずに放置するというのはあまりにも違和感がある。と、その時であった。


「何だっ……!?」


 突如として艦橋が激しく揺られる。シュトライヒャー提督はその衝撃に覚えがあった。


「まさか、敵の対艦砲か……?」

「閣下、左舷側に穴が開けられました!! 間違いありません! 敵の新型砲です!!」

「リヴァイアサンだけではなかったか……」


 この港にも、戦艦の装甲を貫ける大砲が配備されているようだ。シュトライヒャー提督は直ちに戦艦をその場で停止させ、戦闘の用意を始めさせる。だが、そこであることに気付く。


「敵は、どこから撃ってきたんだ……?」

「そ、それは……分かりません……」


 ゲルマニアのように火薬を使う大砲であれば、どこから撃たれたかなど明白だ。だがヴェステンラントの魔導砲は、煙も爆炎も何も出ない。こちらからその位置を確認することはまるで不可能なのである。


「し、シグルズ、何か考えはあるか?」

「被弾箇所から弾道を割り出すことは、不可能ではないかもしれませんが……いえ、こんな戦場でやれる芸当ではありません」


 シグルズもこの事態は想定していなかった。何の音も光も出さずに撃てる大砲など、地球には存在しないのである。

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