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戦略の転換

「シグルズ様! 友軍より通信が入っています!」

「繋いでくれ」


 どうやら前方の基地で両軍が交戦を開始したようだ。それに関することだろう。シグルズはすぐに通信機を手に取った。


「第88機甲旅団長のハーケンブルク少将です。そちらは?」

『オステルマン中将だ。シグルズ、生きてるか?』


 オステルマン中将は全く遠慮と言うものを知らないらしい。


「ええ、僕は生きています。しかし、多くの部下を失ってしまいました」

『そうか。まあ、お前達の状況は大体把握している。無理もないだろう。そして本題だが、見ての通り、お前達の目の前にある基地への攻撃を行っている。すぐに落とせるだろう。お前達はそこで休んでいていい』

「はっ。ありがとうございます。本当に、助かりました」

『味方を助けるのは当然のことだろう』


 オステルマン中将が救援に駆けつけてくれた。これで、シグルズが率いて来た兵士達は救われる。今はただただ安堵していればいいのだろう。


 オステルマン中将は大軍を以て総攻撃を仕掛け、彼女の第18機甲旅団の力も合わせ、2時間程度で補給基地を奪還、大半の敵兵を捕虜としたのであった。なお、たまたま街道を塞いでいたシグルズの戦車隊を見て、多数の兵士が降伏した。


 兵士達は基地に収容され、ようやく気を休めることが出来たのであった。が、兵士達を休ませ、シグルズは一番にオステルマン中将の許に向かった。


「おう、シグルズか。どうした?」

「はっ。閣下、単刀直入に申しますと、僕達はどうやら作戦を変更する必要があるようです」


 そう言うと、オステルマン中将の視線がさっと鋭くなる。


「ほう? 具体的には?」

「敵の、魔導兵によるゲリラ戦は、想定以上に我々の脅威です。敵が魔法を封鎖して近寄れば、僕達にそれを察知する手段はなく、頑丈な魔導装甲に守られた敵を速やかに殲滅することは困難であり、襲撃を受ける度に大きな犠牲が出てしまいます」

「つまり、奴らの作戦に屈すると言うことか?」

「有り体に言ってしまえば、そうなります。敵地で戦う以上、地の利は圧倒的に敵にあります」


 通常兵力によるゲリラ戦ですらゲルマニア軍を大いに苦しめていたのに、それが魔法を使い始めたらもう手に負えない。ゲルマニア軍はマトモに進軍することすら出来なくなるだろうと、シグルズは確信していた。


「そうか。であれば、やはり化学兵器を使うしかないんじゃないか?」

「それはあり得ません。そのような非人道的な行為に閣下が手を染められるのならば、第88機甲旅団はクーデターを起こします」

「はははっ。言うじゃないか。だが、対案がないのなら、お前を粛清してでも私は作戦を実行するぞ?」


 オステルマン中将にも、勝たねばならないという信念がある。例え悪魔と誹られても。


「……もちろん、代案はあります。まず第一に、戦略の転換が必要です」

「戦略?」

「はい。我々はクバナカン島を完全に制圧してから王都に攻めこもうとしていました。ですが、その必要はありません。クバナカン島に我々が拠点として使える土地さえ確保しておけば、こんな島は放置して進軍すればいいのです」

「なるほどな。確かに理にかなっている」


 大東亜戦争で、日本軍はフィリピンに抵抗するアメリカ人を残したまま、更に南へと進軍した。それと同じことをすればいい。必ずしも島の全てを確保する必要はないのだ。


「しかし同時に、今の状況で進軍するのは厳しいかと。敵の戦力をある程度削ぎ、我々の拠点に反撃することが不可能な程度には弱らせなければなりません」

「ふむ。サン・クリストバルでも落とすか?」

「え、ええ、その通りです」


 クバナカン島における最大の都市。ヴェステンラント軍の司令部も置かれているその都市を落とそうと言うのがシグルズの案である。


「だが、あそこは民間人も大くいる都市だ。戦闘になれば多くの民間人を巻き込むことになるだろう。お前はそういうのは嫌いなんじゃないか?」

「もちろん巻き添えで死んでしまう民間人は出るでしょう。しかし、可能な限り犠牲は避けつつ、都市を破壊したいと思います」

「破壊が主目的なのか?」

「はい。サン・クリストバルは破壊されれば、多くの人々が路頭に迷うことでしょう。軍人も民間人も含めて。帰る家を失えば、敵は我々を攻めるどころではなくなる筈です」


 例え人が死ななくとも、サン・クリストバルを失えばクバナカン島のヴェステンラント軍は立ち行かなくなる筈。そうなったら敵は放置して、ゲルマニア軍はヴェステンラント王都ルテティア・ノヴァに進軍すればよいのである。


「やってみる価値はありそうだな。クバナカン島攻略は予定より遅れているし、これなら一気に予定を繰り上げることが出来るだろう。私からザイス=インクヴァルト大将に話を通しておこう」

「はっ。ありがとうございます」


 オステルマン中将は早速、本国にいるザイス=インクヴァルト大将に通信をかけた。そして10分程度で戻ってきた。


「早いですね。どうでしたか?」

「好きにやれとのことだ」

「大将閣下は職務を放棄しているのでは……?」

「さあな。だが、本国から補給物資は遅滞なく届いている。まあともかく、やってやろうじゃないか」


 オステルマン中将はやる気である。

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