表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
804/1122

反攻作戦Ⅱ

「最後の部隊が敵拠点を突破しました!」

「作戦は成功、か」


 がむしゃらに突撃するという単純極まるシグルズの作戦は、逆に敵の意表を突くことが出来たようだ。ゲルマニア軍は無事に敵に制圧された拠点を突破することに成功した。


「上手くいったが……大きな損害が出てしまったね」

「はい……。戦車は40両ほどが失われました。歩兵隊も3千人以上が脱落しました」

「全員が死んだ訳ではないけど……僕達にとっては死んだも同じか」

「そうですね……」


 負傷兵は置き去りにした。その為、死者自体は500人程度なものだろう。それがせめてもの救いだ。


「師団長殿、こんなところで安堵している暇はないぞ」


 オーレンドルフ幕僚長は強い口調で言った。


「ああ、分かっている。まだ敵の拠点は残っているからな」


 まだ敵の基地を1つ突破しただけ。しかし友軍と合流するには残り2つの基地を突破しなければならない。


「敵は我々に警戒しているし、我々の戦力は減少している」

「だが、それでも進むしかない……」


 あんな死に物狂いの突撃を後2回もしないといけないのは気が滅入る。だがシグルズは進まねばならない。犠牲になった者を無駄死ににしない為に。


「全軍、進め! 味方の元に辿り着くまで、足を止めることは許さん!!」


 〇


 歩兵を死ぬ気で歩かせ、シグルズは次の補給基地の目前に到達した。敵はやはり、先程の基地と比べてしっかりと守りを固めているようだ。


「……それでも、ここで止まる訳にはいかない。全軍、突撃!!」


 戦車は突撃する。ヴェステンラント兵は無数の矢を放ち、戦車は次々と撃破される。それに耐えながら接近し、戦車は機関銃で敵を薙ぎ払う。


「進め進め! 敵を突破せよ!!」


 塹壕を乗り越え柵を倒し、戦車隊は再び敵陣に突入することに成功した。そして歩兵部隊が一気になだれ込む。ここまでは作戦通り、順調である。


「これは……シグルズ様、歩兵部隊が襲撃されています!!」

「何? クッ……」


 ここは敵の只中だ。どこから攻撃されてもおかしくはない。後方の歩兵隊が側面から攻撃を受けてしまった。


「師団長殿、どうする? 戦車隊を救援に向かわせるか?」

「…………いいや、戦車隊はこのまま前進する」

「か、彼らを見殺しにするのですか……?」

「ああ、その通りだ。敵の撃退は突撃歩兵に任せ、それ以外は前進あるのみだ」

「師団長殿がそう決めたのだ。皆、従え」


 各師団に配置されている突撃銃と対人徹甲弾を装備した部隊が敵と交戦し、それ以外の兵士はひたすら走る。隣の戦友が体の一部を吹き飛ばされようとも胸を撃ち抜かれようとも、ただただ走る。それがシグルズの下した決断であった。


 突撃歩兵はよく戦ったが、走りながら射撃するのでは命中精度など期待出来ず、とても敵の襲撃を凌ぐことは出来なかった。多くの兵士が矢に貫かれ、佐官級の士官も次々と死んでいった。


「ほ、本当に、これでいいのですか……?」


 ヴェロニカは青ざめた顔で尋ねた。戦死の報せが次々に入るのは彼女である。


「…………ああ。これでいい。最大多数を生きて帰すには、これしかない。……敵にも味方にも構うな! 我々に前進以外の選択肢はない!!」


 ――ソ連式の縦深突撃……確かにこれは生きた心地がしないな。


 シグルズは心の中で笑った。味方の損害を一切顧みずに目標地点まで突撃するというのは、ソ連の戦術そのものである。まあソ連にあった物量がない以上、シグルズの行動はヤケクソの突撃でしかないのだが。


「基地の端が見えてきたな」

「やっと来たな。このまま進め」


 戦車隊は補給基地を突破した。歩兵達も後ろから続き、敵の陣中から抜け出した。それからも兵士達は死ぬ気で走り続け、深い森の中に逃げ込んだ。敵からの追撃はなかった。


「全軍、ここで止まれ。……休息を取ろう」


 まだ敵の勢力圏の中。しかしこれ以上走っては本当に死人が出る。兵士達は足を止め、周囲を警戒しつつも暫しの休息を楽しむのであった。


「今度は、一体何人脱落した?」

「5千人以上は脱落したかと……。もう最初の兵士の3分の1が失われてしまいましたね……」

「そう、かあ……」


 兵士が減れば減るほど、兵士は更に減りやすくなる。これは簡単な微分方程式から導かれる結果だ。敵が何ら対策を行わなくても、もう一度戦えば更に多くの兵士が失われるだろう。もう既に全滅寸前だと言うのに。


「師団長殿、まだ進むか?」

「進まない訳にはいかない。ここまで来て降伏なんてしたら、一生兵士の怨念に呪われ続けるよ」

「ははっ、それはそうかもな。兵士を休ませ次第、また突撃か」

「ああ。生き残る者の方が少なくなりそうだがな」


 それでも、誰かを生き残らせる為に戦った者の死を無駄にする訳にはいかない。


「さて、休憩は済んだかな」


 1時間ほどの休息を経て、ゲルマニア軍は進み出した。


「次の補給基地だ。これを突破すれば、友軍と合流出来るだろう」

「ああ。では行こう。全軍、突撃する――ん?」


 その時、ヴェステンラント兵の居座る基地から爆炎が上がり、激しい銃声と爆音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ