反攻作戦
ACU2314 12/15 ヴェステンラント合州国 クバナカン島中部
「師団長殿、無事で何よりだ」
「ああ。幕僚長も、よく耐えてくれた」
オーレンドルフ幕僚長が守る補給基地に合流したシグルズ率いる歩兵部隊。これで基地の戦力は3万程度になった。但し、第88機甲旅団を除けば装甲化率は低い。
「師団長殿、知っているとは思うが、この基地は今や、完全に孤立してしまった」
「分かってる。僕達は敵の真ん中に孤立しているって訳だ」
補給線は敵に制圧されてしまった。シグルズは今、敵中に放り出されたような状態なのである。
「ど、どうすればいいのでしょうか……」
ヴェロニカは不安そうに尋ねた。
「まあ、選択肢は事実上、2つしかないね。敵を突破して味方と合流するか、奴らに降伏するかのどちらかだ」
「いかにも。降伏しないのであれば、我々の戦力だけで敵陣を突破しなければならない」
「敵を突破、ですか……」
ヴェステンラント軍に降伏する気など毛頭ない。敵に制圧された基地を突破して友軍の元まで駆け抜けなければならないのだ。
「で、出来るのでしょうか……? 戦力は十分とは思えないのですが……」
「ああ、とても十分とは言えないね。だが、それを何とかするのが軍人の役目だよ」
シグルズは覚悟を決めた。この戦力だけでヴェステンラントの包囲網を突破し、友軍と合流するのである。
「兵士諸君!! これより我々は、敵陣を突破し、友軍の元に辿り着く! 多くの者が犠牲になるだろう。だが、それは友を生かす為の名誉の死だ!! 友を救う為、友を生きて帰す為、何としてでも作戦を完遂せよ!!」
「「「おう!!!」」」
引き下がることはもう出来ない。兵士達はありったけの物資を積み込み、総員が出撃した。
〇
先陣を切るのは第88機甲旅団。その後ろに2万以上の歩兵が続く。歩兵と行動を共にする以上、機甲旅団の機動力は封印されたようなものである。だが事前に道を整備しておいた甲斐があって、ゲルマニア軍は歩兵の行軍としては最速で進軍することが出来た。
シグルズと機甲旅団の士官達は、いつも通りに指揮装甲車に乗り込んでいる。
「お、思ったより静かですね……」
もっと敵が攻撃してくるかと思ったが、道中は全く静かであった。まあ戦車の駆動音のせいで物理的にはかなり煩いが。
「敵は僕達が出てくることを想定していなかった、と言ったところかな」
「そうなると、敵の戦力が基地に集中している可能性が大きいな」
「その通りだ。だから敵の基地を死ぬ気で突破しなければならない」
「不安になってきました……」
「大丈夫だよ、ヴェロニカ。敵を突破さえすればいいんだ。敵を殲滅する必要はない」
今回の勝利条件は生きて帰ることだけである。シグルズはそこに勝機を見出していた。
「間もなく補給基地が見えてくる筈だ」
「魔導反応を確認しました! 数は四千ほど!」
「それなりの戦力じゃないか」
野戦で戦うのなら悪くないが、敵が防衛する陣地に攻め込むとなると随分と分が悪い戦力比だ。だが、それで尻込みする訳にはいかない。
「総員、戦闘用意!!」
戦車隊が先陣を切り、森林を抜けた。ゲルマニア軍が防衛の為に切り開いたのだが、それを逆に利用され、その姿は丸見えである。ヴェステンラント軍は戦車が森から抜けたところでようやくその存在に気が付いた。
「敵軍、射撃を開始しました!」
ヴェステンラント兵は魔導弩による射撃を開始した。殆どは装甲に弾かれて無意味であったが、数量の戦車は燃料槽まで貫かれて大破炎上した。
「クッ……撃ち方始め!!」
負けじと榴弾を放つ戦車隊。榴弾で敵の隊列を乱し、遮蔽物を吹き飛ばすと、すぐに機銃での射撃も始める。戦車も魔導兵も次々と撃破される中、両軍の距離は急速に縮まる。しかしシグルズは、戦車隊への命令を変更することはなかった。
「このままだ! このまま敵を轢き殺す勢いで、敵陣に突っ込め!」
戦車は突撃の勢いを全く緩めず、機銃を乱射しながら、塹壕を乗り越えて柵を打ち倒し、ヴェステンラント軍の陣地に突入した。
「敵は轢き潰せ!! 進め!!」
戦車は魔導兵に文字通り突撃した。戦車の質量には流石の魔導装甲も耐えることは出来ず、逃げ遅れたヴェステンラント兵は次々と踏み潰された。
予想だにしない行動にヴェステンラント軍の防衛線は瞬く間に崩壊し、散り散りになった兵士達も機銃や榴弾に撃たれて死んでいった。
「師団長殿、完全に敵の防衛線は瓦解したようだ」
「作戦通りだ。歩兵隊は全力で、戦車に続いて突っ込め! ここを突破する!」
戦車隊が無理やり切り開いた道に歩兵が続く。兵士達は四方八方に銃弾をばらまいて敵を牽制しながら、必死に走る。敵陣に突撃し力で押し切るという、決死の一撃であった。
「まもなく基地の端だ」
「背後からなら簡単に突破出来る。進め!」
基地と言ってもそう大きなものではない。戦車隊はすぐに基地を縦断し、反対側の防衛線に到達した。そして砲撃と銃撃で、これを完全に破壊したのであった。