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一方その頃ヴェステンラントでは

 ACU2314 12/18 ヴェステンラント合州国 陽の国 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン宮殿


 王宮の隅に建つ尖塔。そこには一人の少女とその父があった。陽公シモンと、陽の魔女レリアである。レリアは寝台から上半身だけを起こすことが出来た。


「――お父様、敵は、ここに迫っているのですね?」

「そんなことはない。直にオーギュスタンがゲルマニアの奴らなんぞ追い返す」

「もう2ヶ月もクバナカン島を巡って戦っているのです。苦戦していることくらい、私にも分かります」

「そ、それは、反撃の機会を窺っていただけだ。何も問題はない」

「嘘をつかなくてもいいのです。既に海軍は全滅し、我が国の制海権は失われています。私達が劣勢なのは、分かっています」


 この塔から数日に一度しか出ないレリアが戦況をよく把握していることに、シモンは驚きを隠せない。


「お前……どこからそんな話を聞いたんだ?」

「メンゲレ医師が教えてくださいました」

「そうか……」

「彼を怒らないでください。私が無理を言って答えてくださったのです」

「分かった。それよりも、体の具合はどうだ? 幾分かよくなったようだが」


 体を起こすのは辛そうでもなかったし、顔色も優れている。暫く会っていない間に体調はかなりよくなったように見える。


「はい。メンゲレさんのお陰で、かなり楽になってきました。イズーナの心臓が、大分馴染んできたようです」

「それなら、いいんだ」


 エウロパから奪ったイズーナの心臓がレリアに埋め込まれている。その無限の魔法が、言わば生命維持装置のように働いているのだ。王族だけが享受出来る特権とも言えるが。


「お父様、もしも敵がこの王都に攻め込んで来たら、私は戦います」


 レリアは力強く言った。


「それは……いや、ダメだ。もしもの時は、テノチティトランまで逃げなさい。その為の魔法だ」

「私だけ逃げる為に魔法を使うというのですか? 他の五大二天の魔女達は、ずっと戦っているというのに」

「お前は訓練も積めていないんだ。戦うのは、体がよくなって訓練を積んだ後だ」

「そんなことをしていたら、老人になってしまいます」

「――そんなことはない。すぐに戦えるようになる」

「では、この王都を守らせてください」

「それは……」


 結局のところ、シモンはレリアを戦場に出したくないだけなのだ。レギオー級の魔女として強大な魔法が使える以上、体調が悪いなどと言い訳することは出来ない。


「と、とにかく、ここにゲルマニア軍が攻めてくることなど、万が一にもあり得ない。何も心配することはない」

「……我が軍の奮闘を期待しています」


 シモンは足早に娘の部屋を後にした。


 〇


 そのすぐ後、シモンは宮殿の大会議室に向かった。戦前であれば七公会議の開かれていた円卓の議場であるが、七公では宰相エメとシモンしかいなかった。


 女王ニナの実母であるエメは国内問題の担当であり、この戦争には大して関与して来なかった。


「それで、今日はどういう要件があるのかな?」

「今回は、外交の相談をしたく、あなたを呼び寄せました。詳しい話はルーズベルト外務卿から」

「はっ」


 恭しく礼をするルーズベルト外務卿。戦争を愛している狂人である。


「フランクリン・デラノ・ファン・ルーズベルト外務卿です。この度は、私から一つご提案があり、殿下に御足労頂きました」

「何だね?」

「我が国もまた、ゲルマニアが主導する枢軸国と同じく、我が国を中心とした大同盟を建設すべきと考えます」

「ふむ、つまりガラティアともっと強力な同盟を結ぶということか」


 ガラティア帝国とは事実上の軍事同盟を結んでいるが、その同盟を強化するのが狙いであるとシモンは理解した。


「それも含まれます。しかし、それだけに留まりません。我が国とガラティアの一対一の同盟ではなく、友邦を全て含んだ相互の同盟を建設するのです」

「友邦、か。従属国の間違いではないか?」

「それは考え方次第です。ともかく、我が国と周辺国の同盟だけでなく、周辺国同士での同盟を結ぶことは、戦争指導の効率化に繋がることでしょう」

「なるほど。しかしガラティアはゲルマニアと表立って対立することを避けている。受け入れてくれるとは思えんがな」


 ゲルマニアと大八洲が同盟を結んだ以上、ヴェステンラントと同盟を結ぶと、ガラティアは必然的にゲルマニアと敵対することになる。アリスカンダルはそれは避けたい筈だ。


「そうでしょうか。寧ろ、アリスカンダル陛下はゲルマニアと戦争がしたいのでは?」

「……根拠は?」

「ゲルマニアが潰えれば、大八洲は味方を失います。そうなれば戦争の終結はすぐそこでしょう」

「それはガラティアにも当てはまるのでは?」

「戦争とは、そういうものでしょう」


 ガラティアもゲルマニアも、お互いが消えてくれれば戦争に勝利することが出来る。戦争に突入する動機は存在するのだ。もっとも、自らが逆に滅ぼされる危険を冒してまで新たな戦争を起こすのは割に合わないが。


「まあ、同盟が結ばれれば、確かに我が国にとって利益となるのは確かだ。ガラティアと交渉でもすればよかろう」

「はっ」


 シモンはルーズベルトに自由にやらせることにした。どうせ成功しないだろうと思いつつ。

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