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一方その頃大八州では

 ACU2314 12/5 大八洲皇國 山城國 葛埜京


 大八洲の実質的な最高指導者である伊達陸奥守晴政であるが、その権力に具体的な根拠はなく、政権が不安定になる可能性を常に孕んでいた。だが、それも今日で終わる。晴政はついに、権威を獲得するのである。


「藤原晴政殿、天子様におかれましては、貴殿を従一位、関白に叙される。また、新たに豊臣の姓をお創りになられ、貴殿に授けられる」


 皇御孫命が見下ろす中、晴政はその宣下を受けた。


「ははっ。ありがたき幸せに存じます。豊臣晴政、身命を賭して、天子様にお仕え申し上げまする」

「うむ。大八洲のこと、頼んだぞ」

「御意にございます」


 以前シグルズが提案した奇策、新たな氏族を創始し、大八洲の大名をその中に組み込み、晴政がその家長として、また大八洲の君主の第一の家臣として、大八洲を纏めあげるのである。その計画は今、最も重要な局面を超えた。


 晴政は藤原から豊臣へと姓を変え、新たな氏族がここに誕生した。古代にその多くが創られて以来、新たな氏族が誕生するのは実に千年ぶりであった。


 そして同時に、晴政は更なる政策を展開する。


「大八洲の全ての者、いや、この天下の全ての者に伝え広めよ。これよりは、外地は全て独立するべし。枢軸国として、共に栄えようぞ、と」


 先代の支配者上杉家が大々的に進めた領土拡張政策。晴政はその全てを放棄するという大胆な計画を実行に移した。これにより、皇國の領土は神代よりの伝統的な領土、つまり秋津洲を中心とする列島と潮仙半嶋だけとなる。そして独立した国々は同時に枢軸国に参加し、新たな世界秩序の礎となる。もっとも、その多くはヴェステンラント軍の占領下にあるのだが。


 〇


 ACU2314 12/14 大八洲皇國 肥前國


 潮仙半嶋でヴェステンラント、ガラティアと交戦を続ける大八洲であるが、戦局の安定に伴い、晴政は前線を担当する者も含めた諸大名を招集した。場所は最前線に近い、地球で言えば九州北部に該当する筑紫嶋である。


「各々、このような大変な時局に、よくぞ集まってくれた」


 晴政とその周囲のものが一段高い場所に座り、その前に諸大名が居並ぶ。完全に上下関係が構築された証拠である。


「さて、この大戦の折、我らは今のままでは勝てぬ」

「今のままでは、とは?」

「我らの将兵はまるでバラバラだ。ゲルマニアなどは百万の兵を一人の男が率いているというのに、我らは一人で精々一万の兵を動かすことしか出来ぬ」


 大八洲の軍事力は極めて分権的である。中央にあたる幕府や朝廷は諸大名に出陣を命令することが出来るが、それらがどれほどの兵を動員するか、どのように戦うかまで指示することは出来ない。


 これは局地戦ならば寧ろ強みとなるが、数十万の兵力を動員するような大規模な作戦を実行に移すことは困難である。そしてこの世界大戦を通じて、戦争というものは決闘の域を遥かに超えた総力戦の様相を呈しつつある。大八洲はこのままではいけないと、晴政は強く考えている。


「ふむ、仰せになりたいことは分かり申した。では、関白殿下はどうなさりたいので?」


 嶋津薩摩守は問う。言いたいことはよく分かるが、だからと言って、今の大八洲の体制では解決策は望み得ない。そう、現行の体制では。


「嶋津殿も、言わぬだけで分かっておるのではないか?」

「いいや、この老いぼれにはちっとも分かりませぬな」

「まあよい。簡単なことだ。俺は、大八洲の全ての武士を天子様に直結させるつもりだ。諸大名には引き続き国内の政はやってもらうが、その将兵は全て大八洲のものとなる。どうだ?」


 内政については中世的な封建制を続投させるが、軍事においては皇御孫命を最高指導者とした中央集権的な制度を創設する。それが晴政の提案である。


 まあ彼は既に関白であるから諸大名の意見など聞かずに執行してしまってもいいのだが、わざわざ内乱に繋がりかねない波紋を呼ぶことはしない。


 諸大名は当然ざわつく。が、何名かは晴政の提案を深く理解し、考えを巡らせているようだった。そして謀略に長けた大名、毛利周防守が問いかける。


「天子様にお仕えするということは、つまり関白である晴政様に仕えること。つまり、大八洲の武士を全て貴殿が操れるようになると、そう考えてよろしいのですかな?」

「そう思ってもらって構わん。俺が、全ての武士を統率する」

「では我らはどうなりますかな? 我ら大名も、晴政様の旗の下に入ると?」

「いいや、諸大名の皆々においては、ゲルマニアの参謀本部のようなものとして奉公してもらうつもりだ」

「つまり、諸大名の合議によって大八洲六十万の武士を動かすと、そういうことですな?」

「いかにも。俺はこれを大本営と名付けようと思う」


 諸大名が大本営を構成し、それが全ての将兵を統率する。諸大名の不満を和らげつつも軍事の中央集権を実現する策であった。


「そして、晴政様が『参謀総長』になると?」

「いかにも。加えて、必要な時は貴殿らにも兵を率いてもらう。皆の者、これでよいか?」


 晴政は議論を尽くすということを知らない即断即決の男だ。諸大名が反対意見を思い付く前に提案を通してしまった。

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