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魔法の強襲Ⅱ

 迫り来るヴェステンラント軍の主力部隊に、ゲルマニア軍の戦車隊は砲撃と同軸機銃による射撃を開始した。榴弾は一撃で数人の魔導兵を吹き飛ばし、機銃から放たれる対人徹甲弾は歩兵用の中間弾薬より強力であり、かつ突撃銃の数倍の数を叩き込んだ。


 騎兵も歩兵も、たちまちに打ち倒される。だがヴェステンラント軍は、数百の死体の山を築きあげようとも退く気は全くないようだ。


「大佐殿、西から接近する敵部隊、食い止められません!!」

「戦車でも力不足か……。クソッ。残った歩兵を全て押し出せ!」

「……はっ!!」


 オーレンドルフ幕僚長は、接近戦には向かない小銃しか持っていない兵士達も全て、最前線に配置した。つまり死ぬ気で敵を食い止めろということである。


 〇


 そう指示を出す一方で、オーレンドルフ幕僚長もまた目の前の敵と戦わねばならない。


「総員、目前の敵を片付けるぞ!! 突撃!!」

「「おう!!」」


 オーレンドルフ幕僚長もなりふり構ってはいられない。戦力を確保する為、白兵戦用の装備などない兵士達に重歩兵への突撃を命じた。もちろんオーレンドルフ幕僚長が陣頭に立っての突撃である。


「な、何だこいつら!」

「ここから消え失せろっ!!」


 オーレンドルフ幕僚長は得意の剣術で魔導兵を次々と斬り捨て、歩兵達は捨て身の突撃を仕掛ける。多くの兵士が弩に貫かれ、剣で斬り裂かれたが、物量で押し潰す。


「て、敵が撤退するようです!」

「よくやった! では総員、西に向かえ! 急げ!」

「「はっ!!」」


 南方から襲撃を掛けた部隊を撃退した。そして次は、西から来る敵部隊の撃退が任務である。


 〇


 西側の状況は酷いものであった。既に敵兵は基地に侵入し、戦車を次々と破壊し、ゲルマニア兵を斬殺していた。白兵戦に持ち込まれてしまえば、ゲルマニア側は魔導兵の戦力の前に圧倒されるばかりであった。


「総員突撃!! 奴らを押し返せ!!」

「「「おう!!!」」」


 第88機甲旅団の精鋭歩兵部隊が、混沌とした戦場に突撃した。それとて白兵戦では不利だが、彼らの突撃銃は連射すら出来ない小銃よりは遥かに有力である。


「敵はこれまで通りの魔導兵だ。恐れることはないぞ!」

「「おう!!」」


 対人徹甲弾ならば数発で貫ける魔道装甲だ。一度勢いを取り戻せば、後はゲルマニア側が一方的に押す展開となる。


「これでいい……」


 ついにヴェステンラント軍は逃げ帰り始めた。


「戦車隊、追撃せよ!」


 逃げ帰る魔導兵の背中を榴弾が襲う。数十人が葬られ、彼らは密林の奥へと消えていった。かくしてゲルマニア軍は、ヴェステンラント軍の襲撃を退けたのであった。


「や、やっと、終わったのですか……?」

「ああ。長い戦いのようだった」


 客観的に見れば30分もしない戦いであったが、オーレンドルフ幕僚長には数時間に感じられた。僅かな間の戦闘であったが、両軍共に多くを失った。


「一体、何人死んだんだ……」

「指揮系統が混乱しており、集計には時間がかかりそうです。ですが大雑把に見て、二千人は死んでいるかと……」

「そうか。我が旅団にとっても、大損害となってしまったな。まあ、それが先鋒たる我々の常かもしれんが」


 第88機甲旅団だけでも十分の一以上の兵士を失ってしまった。


「だが……このような襲撃がここだけに来るとは思えない」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ。敵は我々の虚を衝くことが目的だ。一度どこかの部隊にそれをやってしまえば、効果は激減する。であれば、敵は我々を一斉に襲撃する筈だ」

「た、確かに……。と、なると……」

「大佐殿! 後方の補給基地が襲撃を受け、壊滅したとのことです!」

「やはり、そう来たか」


 オーレンドルフ幕僚長の予想は的中してしまった。


「しかしこれは問題だな。補給線が断ち切られてしまった。我々は今や、この深い森の中で孤立している」

「そ、それは……」


 考えたくもないが、つまりそういうことだ。補給線を構成する基地が潰され、そこから先に補給物資が届かなくなってしまった。


「で、では、我々はどうなるのでしょうか……?」

「ここは補給基地だ。それなりの物資はある。だが、長くは持たないだろうな。補給線を繋げなければ、我々は飢えて死ぬ」

「何と……」

「ともかく、各方面と連絡を取れなくては。オステルマン中将閣下と、我らが師団長殿とだな」

「はっ!」


 オーレンドルフ幕僚長はシグルズに通信をかけた。


 〇


『オーレンドルフ幕僚長、無事だったか』

「ああ、私と我が基地は無事だ。だが後方の補給基地がいくつか落とされ、今や補給線は完全に寸断されてしまった」

『そう、か。僕達と周辺の部隊は、君のところに収容させてもらうぞ』

「了解した」


 索敵殺害作戦を展開していた部隊は、オーレンドルフ幕僚長が立て籠る基地に戻るしかなかった。


「これで兵士は増えるが、その分物資の消耗も早くなるな」

「友軍が来援するまで待つことは……」

「期待しない方がいいだろう。我々の方から行動するしかなさそうだな」


 長期戦は困難である。事態の打破を自らが図るしかないのだ。

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