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魔法の反撃

 ACU2314 12/14 クバナカン島中部


 ゲルマニア軍の索敵殺害作戦はほぼ確実にゲリラを殲滅し、最後の援軍が到着した後でも50万の兵士の補給線を維持することに成功していた。攻撃こそ最大の防御とは、まさにこのことであろう。因みにザイス=インクヴァルト大将は結局本国に残ることとなった。本国からここまでの補給を司る方が優先だと判断したのだろう。


 さて、ゲルマニア軍の前線はオステルマン中将の予想より早く、既に島の中央にまで到達していた。索敵殺害作戦で敵の拠点を潰しつつ一定の間隔で補給基地を建設していく戦術で、確実に勢力範囲を広げているのだ。


 だがそんな順調な進軍の中でも、シグルズは相変わらず密林の中を歩かされていた。第88機甲旅団はオーレンドルフ幕僚長に任せっきりである。


「――まったく、どこまで進んでも同じような光景だ。気が滅入ってくるよ。ヴェロニカはどうかな?」

「そうですね……私もそろそろ飽きてきました。任務を交代してもらいたいです」

「ヴェロニカなら交代してもらい構わないよ。僕は魔法が使えるせいでずっとここを担当することになりそうだけど」

「で、でしたら、私もシグルズ様と一緒にいます!」

「はは、ありがとう」


 シグルズは乾いた笑い声を出した。代わり映えのしない索敵殺害作戦にいい加減飽き飽きしてきたところだ。


「閣下、前方に集落を発見しました」

「よし。行くぞ」


 大した緊張感もなく、シグルズの部隊は前方の村落に突入した。


「えー、諸君、我々は――」


 いつも通りに民心鎮撫と敵兵に投降を呼びかけ、シグルズは捜索を始めさせた。が、今日は勝手が違った。兵士達が集落に散らばった頃。


「シグルズ様! 魔導反応です!!」

「何!? どこだっ!」


 長きに渡って影も形も見せなかった魔法。それがこんな、何の変哲もない集落で姿を現したのだ。


「北です!」

「分かった!!」


 すぐに銃声が響き渡る。兵士達の悲鳴のような叫び声が聞こえる。シグルズは翼を広げ、大声の響く方に方に全力で飛んだ。


「クソッ……何てこった……」


 兵士達の間に魔導剣を持った数人の魔導兵が斬り込んで乱戦に持ち込まれ、一方的に蹂躙している。誤射を恐れて兵士達は銃を撃てず、銃身で魔導兵に殴り掛かるしかなかったが、そんなものでは魔導剣に一刀両断されるだけである。


「火力で押し潰すことも出来ない。剣で行くか」


 シグルズも銃を使うことが出来ず、敵と同じ魔導剣を作り出して地上に降下した。


「か、閣下!!」

「こいつらは任せろっ!!」


 シグルズに剣の心得はないが、乱雑に敵兵に斬りかかる。


「んなっ……」


 それを受け止めたヴェステンラント兵の剣は斬り落とされた。これが魔力の差である。


「悪いな」


 魔導剣を斬り裂いたシグルズの剣はそのまま魔導装甲に到達し、兵士を真っ二つに斬り裂いた。


「さあ来い!! 僕を殺してみろ!!」

「このっ!!」


 兵士達は勇んでシグルズを殺しにかかったが、彼らの剣はシグルズのそれの前には紙切れのようなもの。それに徴募兵である彼らも最低限の剣の腕しかない。シグルズは彼らを蹂躙した。


「死ねっ!!」

「っ……」


 最後に生き残った3人の兵士は呼吸を合わせてシグルズに一気に斬りかかった。シグルズは2人を一刀に斬り伏せたが、残りの一人に背中を上から下に斬り裂かれた。


「か、勝っ――」


 期待もしていなかった勝利に固まっていた兵士の胸を、シグルズの剣が貫いた。シグルズの軍服は派手に裂けたが、傷はもう塞がっていた。魔導兵は一人残らず血祭りに上げられたのであった。


「か、閣下、ご無事、ですか……?」


 自分から流れ出た大量の血の中に立つシグルズに、兵士達は心配そうに訊く。


「ああ、僕は大丈夫だ。僕の魔法を舐めないでくれよ」

「よ、よかったです……」


 軍服も魔法で修繕し、シグルズは本隊に戻った。


「シグルズ様!」

「敵は殲滅したよ。それよりも、これは、問題だ……」


 シグルズは魔導兵の出現を受けた時より深刻な声で呟く。


「ど、どうしたのですか……?」

「僕達はクバナカン島に来てから、魔導兵とマトモに出くわしていない。そのせいで、その存在を忘れていたんだ」

「そう、ですね。魔導兵と戦うことを、すっかり忘れていました」


 クバナカン島に上陸してからおよそ2ヶ月。ゲルマニア軍が戦ってきたのは魔法を持たないゲリラであった。6年以上も続けてきた本業の魔法との戦いを、たったそれだけの期間で忘れてしまったのだ。人間とはこうも簡単に忘れてはならないことを忘れてしまうのである。


「敵の狙いは、これだったのかもしれない。魔法との戦いを忘れかけている僕達に、魔導兵で急襲を仕掛けるというのが」

「も、もしかして、敵がそこら中を攻撃してくるのですか?」

「こんなことをしてくる敵なら、どこまでも最悪の作戦を立ててくる気がする」


 と、その時、ヴェロニカに通信が入った。実に嫌な予感がした。


「――後方の補給基地が襲撃を受け、陥落しました! 他にも各部隊が同時に魔導兵の襲撃を受けています!」

「ああ……やってくれたな……」


 ヴェステンラント軍はゲルマニア軍の広域に、同時多発的に強襲をかけたのだ。

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