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索敵殺害作戦Ⅲ

 処刑を認めないオステルマン中将の命令を、シグルズは認められなかった。シグルズは一人部屋に籠り、オステルマン中将と再度通信を繋げた。


「閣下、処刑を止めよというのは、どういう理由でしょうか?」

『理由は簡単だ。処刑はやり過ぎだから、だ。ゲルマニア軍がこれまで民間人を何人殺してきたと思っている? それを数十人程度で処刑していたらキリがない』


 確かに一連の戦争で多くの民間人が巻き込まれた。ゲルマニアによって殺された非戦闘員の数は、少なくとも数十万人に上るだろう。が、今回は話が違う。


「お言葉ですが、これまで我が軍が殺してきた民間人は、作戦を遂行するに当たって仕方のない犠牲でした。民間人が存在する場所で作戦を遂行する以上、巻き添えが出ることは仕方がありません」

『あ、ああ、そうだろう? だから今度も――』

「ですが、今回は違います。カリー中尉の行動には一切の必然性が存在しません。戦闘行為中の巻き添えは罰さないというのは、どこの国の軍隊でも普通のことです。しかし全く意味のない虐殺は、厳罰に処されなければなりません」

『うむ……。必要のない虐殺だったとは言え、兵士達もいつ殺されるか分からない状態に常に置かれているんだ。正常な判断が出来なくなることも、仕方がないんじゃないか?』

「確かに、多少は情状酌量の余地もあるかもしれません。しかし、それでもなお、何の罪もなく、敵軍に協力もしていない人々を虐殺したのは、死刑にしても余りある罪です」


 戦闘の巻き添えで村人に被害が出たことこそあれ、このような虐殺事件はカリー中尉以外誰もやらかしてはいない。やはりカリー中尉が異常な人間だったと言わざるを得ない。


『まあ確かに、重罪であることは確かだ。とは言え死刑はやり過ぎじゃないか?』

「繰り返しますが、これは戦争における仕方のない犠牲ではありません。ただの大量殺人です。帝国の法では死刑以外の選択肢があるとは思えませんが」

『帝国の刑事法の話をしているのなら、本国の裁判所に送り付けないとダメじゃないか?』


 オステルマン中将はこれだけ揶揄うように言った。まあ確かに、通常の殺人事件として処分するには裁判所での裁判が必要である。


「そ、それは……」

『冗談だ。まあ、軍法会議と通常の裁判の線引きが曖昧なのは問題だと思うがな』

「え、ええ、そうですね。ともかく、僕は軍法会議に定められた通り軍紀を維持する為、カリー中尉は処刑する以外あり得ないと考えます」

『……逆に聞くが、お前はどうしてカリー中尉を処刑したいんだ?』

「このような事態が今後二度と起こらない為の見せしめです。民間人を殺した者は自らが殺されると、兵士達に知らしめなければなりません」


 シグルズに迷いはなかった。ゲルマニアがアメリカと同じにならない為に、戦争犯罪は徹底して抑止しなければならない。


『…………』

「どうですか、閣下」

『分かった分かった。今回は、お前の好きなようにしろ。但し、今後兵士を処刑する時は事前に私に言え』

「閣下のご命令とあらば」


 シグルズは処刑の必要性を認めさせることに成功したのであった。そして再び処刑場に向かう。


「カリー中尉、待たせて悪かった。何も問題はない。君は決定通り処刑される」

「あっ…………」

「君にも君の家族にも、一切の名誉は与えられない。君は犯罪者としてその生を終えるんだ。せめて自らの罪を悔いて死ぬがいい。撃ち方用意!」


 そして、何か叫んでいるカリー中尉のことは無視し――


「撃てっ!!」


 銃声が鳴り響く。カリー中尉の頭部を数発の弾丸が貫き、彼は死んだ。


「死体は持ち帰る必要はない。その辺の川にでも捨てておけ」

「は、はっ……」

「それと、このことを全軍に伝えろ。民間人を虐殺する者には死があるのみだと」


 ――これでいい。これで、アメリカ人にならずに済む。


 これにて事件は幕を下ろした。見せしめの効果があったのか、その後同じような事件が起こることはなく、ゲルマニア軍は秩序を保って索敵殺害作戦を展開したのであった。


 〇


 ACU2314 12/4 クバナカン島西部 サン・クリストバル


 クバナカン島最大の(そしてほぼ唯一の)都市であるサン・クリストバル。ここにはヴェステンラント軍の司令部が置かれ、ようやく復帰した赤公オーギュスタンや赤の魔女ノエル、白の魔女クロエもここにいた。


「ふむ、ゲルマニア軍は効率的に我が軍の拠点を潰しているようだな。流石だ」


 オーギュスタンは報告に目を通し、ゲルマニア軍の行動をほぼ把握した。


「この様子では、ゲリラ部隊が殲滅されるのも時間の問題ですね」

「そうだな、セシル。これでは無駄に死者を出すだけだ」

「では、どうしましょうか」

「元よりこれだけでゲルマニア軍を激隊出来るなどとは思っていない。そして、ゲルマニア軍はいずれ増援を送ってくるだろう。その時に、次の作戦を伝える」

「ゲルマニア軍が増援を?」

「エウロパのほとんどを手中に収めたゲルマニア――いや、枢軸国とやらの輸送能力を考えれば、ここで展開出来る兵力は50万ほど。だが、ここにいるのはまだ30万程度だ」

「なるほど……」

「ともかく、今は待とう。時は我々の味方だ」


 戦争が長引くほど苦しくなるのはゲルマニアである。

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