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火炎放射戦車再び

 第89機甲旅団の遺志を継ぎ(別に死んではいないが)シグルズは数十両の火炎放射戦車を率いて進軍していた。今回は火炎放射器の試験運用ということで、シグルズの指揮装甲車にオステルマン中将も乗り込んできている。生きた心地はしないが、まあ仕方なかろう。


 一行は先に設置した拠点から数キロパッスス西の地点まで移動した。再び深い森の中である。


「ここら辺でいいでしょう。試験を開始します」


 シグルズはオステルマン中将に告げた。


「うむ。好きなようにやってくれ」

「はっ。火炎放射戦車隊、前方を焼き払え!」


 戦車が火を噴いた。炎はたちまち数十パッススの長さに伸び、その射程内の草木はたちどころに燃え上がった。大量の煙が押し寄せ、機甲旅団の視界は一気に悪化する。


 シグルズはハッチから頭を出したが、次の瞬間煙を吸い込み、大きく咳き込んでしまった。反射的に魔法で風を吹かせ、煙を払う。


「やっぱり、性能が低いせいで、煙が多いな……。仕方がないか」


 草木は燃え、熱風が吹き付ける。


「少将閣下! 炎の燃え広がりが予想以上に速いです! このままでは大規模な山火事になってしまいます!!」

「それもそれでありだな……。まあ、今はその時じゃないけど」


 前方がある程度燃えたことを確認すると、シグルズは翼を広げて飛び立った。上空から見ると派手な火事が一直線上で起こっているのがよく見える。シグルズはその真上に飛んだ。


「よし……。水だ。土砂降りのような水を降らせる」


 とにかく大量の水を生成する。そして燃え盛る木々にバケツをひっくり返したかのような勢いで叩きつけた。轟々と燃え盛る炎もいきなりそれを覆い尽くすような水を浴びせられ、それが幻だったかのように消滅した。


 残るは黒焦げの木々と、地面を埋め尽くす真っ黒な灰である。いくら派手な大火事を起こしても魔法で簡単に消火出来るというのは便利だ。


 シグルズは一部始終を見届け指揮装甲車に戻った。


「こんな一瞬で派手にやったな、シグルズ」

「はい。敵の隠れ蓑になりそうな草は焼き尽くすことが出来ました」

「敵が隠れていたらそれごと焼き尽くせそうだな」

「あまり気乗りはしませんが」


 敵が炎に直接焼かれなかったとしても、これだけの大炎上では酸素を奪われて窒息するだろう。自分がその立場だったらと考えると、絶対に嫌な死に方だ。


「とは言え、これじゃあ進軍の速度は大して変わらんな。寧ろ遅くなってすらいる」

「結果的には、安全性を重視した方法、ということになってしまいますね」


 個人携行の火炎放射器があればもう少し器用なやり方も出来るのだが、現状では森を焼いて消火してを繰り返して進軍するしかない。これでは周囲を警戒しながら普通に進軍するのより時間が勝ってしまうだろう。


「シグルズ、私が欲しいのは手早く進軍出来る方法なんだがなあ」

「……ご期待に沿えず申し訳ありません。しかし、ゲリラとの戦いを迅速に終わらせる方法など、存在するとは思えません」

「さっき言ってたじゃないか」


 枯葉剤や民間人ごと殺し尽くす索敵殺害作戦のことだ。


「それについては、検討の余地もありません。論外です」

「はは、言うじゃないか。しかし、我々は勝たなければならない。勝つ為には、敵国の民間人を犠牲にすることもやむを得ないとは思わないか?」

「そのようななりふり構わないやり方は、いずれ帝国の破滅を招きます」

「その根拠は?」

「ゲルマニアは世界からの信頼を失ってしまいます。孤立した国に待つのは滅びのみです」

「ゲルマニアが世界を圧倒する武力を持てばいい」

「その優位は、いつかは崩れます」


 これはシグルズがその目で目撃してきたアメリカの歴史だ。22世紀までのアメリカは圧倒的な軍事力を背景に帝国主義を押し進めていたが、孤立することはなかった。どれほど残虐な悪魔であろうと、それと手を組むのが世界の大半に国にとって最良の安全保障だったからである。


 しかし世界各国の軍拡に伴ってアメリカの優位が相対的に揺らぐと、世界は一気にアメリカを見放した。多少不利でもアメリカ以外の者と手を結ぶ方が賢明だと分かっていたからである。


 起こるとしても数十年後のことであろうが、ゲルマニアがこの道を進んで愚かにも破滅しない為にも、世界人民の信頼は常に第一に考えるべきである。


「そんな未来のことを考えて動くべきか?」

「軍とはその国の顔のようなものです。常に国家の大事を考えて動くべきです」

「そうか……。まあ、お前がそこまで反対するのなら、選択肢から外そう」

「ありがとうございます」

「結局、チンタラと進軍するしかないってことか」

「残念ながら。少しずつ安全を確保しながら進軍するしかありません」

「まあ、安全なだけまだマシか」


 オステルマン中将が求めるような迅速な進軍は叶わなかった。火炎放射戦車で道を切り開きながら、道中にいくつも拠点を構築しながら前進するのが最善の手段なのである。


「せっかくここまで来たんだ。もう一つ砦を造ってから撤収しよう」

「はっ」


 クバナカン島3つめの拠点を造ったところで、火炎放射戦車の実証実験は終了である。

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