表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
792/1122

対ゲリラ戦術

『えー、全軍に通達する。威力偵察はこれで終いだ。だがここまで進んだのを無意味にするのも惜しい。ここに拠点を設置して最初の前線基地とし、残った部隊は海岸に戻す。以上だ』


 敵の手の内はある程度分かった。そして一直線に進軍することの厳しさも。故にオステルマン中将は道を切り開きながら補給基地を漸次設置し、少しづつ前進する戦法を選んだ。敵軍に基地を攻め落とせるような戦力は残っていないだろう。


 幸いにして木材は腐るほどある。視界を確保する意味でも辺り一帯の木々を伐採し、簡易的な陣地を設営した。


「――とは言え、こんなちんたらと攻め込んでいたら埒が明かん。ゲリラ戦を打ち破る方法は何かないか?」


 オステルマン中将はまたしてもシグルズに無茶振りをしてきた。


「お言葉ですが、ゲリラ戦を根本的に無力化する方法は存在しません。これは断言出来ます」


 赤外線センサーなどが一般兵でも普通に使われる22世紀地球にあっても、市街地に潜むゲリラを完全に殲滅することは不可能だ。恐らく人類の技術がいくら進歩しても、ゲリラ戦は強大な軍隊に太刀打ちする唯一かつ最強の方法であり続けるだろう。


「いきなり諦めるなんて、珍しいじゃないか」

「まあ、もしかしたら画期的な方法があるかもしれませんが、少なくとも僕には思い付きません」

「うーむ……。シグルズ、お前何かを隠しているな? と言うか、作戦を思い付いてはいるが、言いたくない、そんなところだろう?」

「それは……」


 図星であった。確かにシグルズには、完璧ではないものの、かなりの確度でゲリラを撃退する手段がある。だが、オステルマン中将の言う通り、言いたくない。


「まあまあ、取り敢えず言ってみたらどうだ?」

「……安易に実行に移さないと約束して下さいますか?」

「……そんなロクでもない作戦なのか。まあ、それはそれで興味があるな」

「本当に大丈夫ですか?」

「ああ、安心しろ。私だって少しはマトモな人間だ」

「では。作戦は単純なものです。ゲリラ戦は隠れる場所があるから成り立つので、それを片っ端から排除します。そうすれば我が軍が敵を一方的に殲滅することが出来ます」

「具体的には?」

「一つは化学薬品を用いて樹木を枯らすことです。枯葉剤とでも言いますか。もう一つは物理的に森林を破壊すること、つまり火炎放射器で見渡す限りを焼き尽くすことです」


 かつてアメリカ軍が行った残虐非道。だがそれは、確かに有効な作戦でもある。


「そんなことをしでかせば、多くの民間人が巻き込まれて犠牲になる。お前はそれを嫌ったのか」

「その通りです。非戦闘員を巻き込むことが前提の作戦など、僕は決して採りたくありません」

「シグルズらしいことだ。とは言え、枯葉剤はさておき、火炎放射器ならば、民間人に犠牲を出さずに戦うことも可能ではないのか? 大量殺人が出来るような兵器でもあるまい」

「……ええ、まあ、そうですね」


 確かに火炎放射器は一般市民諸共殺すような兵器ではない。アメリカ軍の使い方の印象が強過ぎて、無意識に大量虐殺を思い浮かべていたようだ。正しい認識が妨げられたことは反省すべきだ。


「火炎放射戦車なら、第89機甲旅団が使う予定だったものがあるな。それで道を切り開いていけば、案外簡単にいけるんじゃないか?」

「炎を制御するのが大変そうですが……。何とか出来る気がします」


 こんなところに火を放てば味方も巻き込まれるに決まっている。火炎放射戦車を使うのなら、その辺を上手く制御するのは必要だ。


「他には何かあるか?」

「後は、敵の拠点を見つけ出して殲滅することが考えられます。こんな森の中で何もなしに滞在することは困難でしょう。必ず彼らの隠れ家がある筈です」

「確かにな。妥当な推論だ」


 ゲリラの拠点がこの森の中に点在している筈だ。そうでなければ自由自在に兵士を繰り出すことは出来ないだろう。


「しかし……これは我が方にとって不利益が大きいかと」

「どうしてだ? 敵の拠点って言っても、私達の敵ではないだろう」

「はい。戦力的な問題ではありません。民間人の虐殺に繋がる可能性が大きいからです」

「ほう?」

「この戦術の為だけに新たに村を建設したりするのは非合理です。ですから既に人が住んでいる集落を利用していると考えられます。これを襲撃した場合、どれだけ注意しても、多くの罪のない民間人が巻き込まれることは避けられません。そしてその事実がヴェステンラントに利用されるのは間違いないでしょう」


 ベトナム戦争でアメリカ軍は、何ら敵対していない民間人を無数に巻き込んでゲリラの掃討を図った。結果として、ベトナムのみならず、国際世論、国内の反発を招き、アメリカは撤退せざるを得なくなった。


 まあゲルマニアの場合国内の世論は大した問題でないが、国際的な印象が悪化するのは避けたい。


「なるほどな。そこまで含めて敵の策略なのかもしれんな」

「そうかもしれません。ですので、一先ずは侵攻経路の確保だけを最優先とすべきかと」

「分かった。その方針で行こう。もっとも、敵の根拠地を叩かざるを得なくなるかもしれんが」

「その時は、その時で考えましょう」


 オステルマン中将の中で作戦は固まったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ