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戦いの終息Ⅱ

「単刀直入に言おう。リヴァイアサンを失い、多くの魔女を失い、我が軍には最早、君達の戦艦と戦う力はないのだ」


 シモンは正直に告げた。今のヴェステンラント海軍に2隻の戦艦に抗える戦力は存在しないのである。


「そうですか。では私に降伏の斡旋でもせよと?」

「降伏などするつもりない。しかし、ここで手を打とうとは思っている」

「と言うと?」

「君達、つまり捕虜をゲルマニア軍に返還する代わりに、この戦いをここで終わらせて欲しいのだ」


 シモンはバツが悪そうに言った。


「つまり、捕虜を解放する代わりに見逃してくれと? そう言いたいのですね?」

「……ああ、そうだ。特に君だ。君はゲルマニア軍にとってなくてはならない人材のようだからな」

「……そうは思いませんが、しかし、私に拒否権はありませんね」

「強制するつもりはないが」

「ご冗談を」


 ヒルデグント大佐の生殺与奪の権はヴェステンラント軍が握っている。それに、仮にその要求を拒否しても、別の誰かがやらされるだけだろう。


「……で、どうなんだ?」

「いいですよ。ゲルマニア軍に連絡を取りましょう。もっとも、いい結果を約束することは出来ませんが」

「ああ、それはそうだろう。だが、拒否されれば君達の安全は保証出来ない」

「捕虜を殺すおつもりですか? まあ、それならそれでヴェステンラントの株が下がるので、私は一向に構いませんがね。では通信機をお貸しください」


 ヒルデグント大佐としても、一応は助けてもらった恩義がある。シモンから言われたことをシュトライヒャー提督に伝えるくらいのことはやってやった。


 〇


「――それがヴェステンラント側からの要求か」

『はい。要求を拒否すれば私達を殺すそうですが、どうでしょうね』

「分かった。とにかく、両軍の救助の為の休戦は認める。捕虜の交換については、考える時間をくれと、そちらに伝えてくれ」

『分かりました。それでは』


 ヒルデグント大佐から伝えられたヴェステンラント軍の要求。それを呑むのか呑まざるか、シュトライヒャー提督は決めかねる。


「――シグルズ、どうだ? 君はどうすべきだと思う?」

「陸軍としては、第89機甲旅団の中核を為す人材を是非とも取り返したいところです。しかし、ここでヴェステンラント海軍を完全に壊滅させられるのならば、それも悪くはないかと」

「ハッキリは言えないのか?」

「こればかりは何とも。余りにも天秤にかけ難いものです」


 正直言って戦艦の脅威にはなり得ないヴェステンラント海軍と、第89機甲旅団。どちらを取るべきか。これはそういう選択である。つまり一国の海軍と一部隊とを比べているのだ。


「うむ……海軍の視点からすると、ヴェステンラント海軍に有力な戦力が残っている限り、輸送船団の護衛に戦艦を動かし続けなければならない。これは国にとって大きな負担だ」

「そう言われますと、陸軍としては、機甲旅団が1つ欠けても、作戦の遂行に致命的な負担はありませんが……」

「情というものを抜けば、どちらを選ぶべきかはやはり明白か」


 やはり選ぶべきは、敵の軍を一つ消滅させること。


「味方を見捨てるというのは……どうにも受け入れ難いがな……」

「僕もですが……仕方がありません。彼らは自らの命を賭してリヴァイアサンを沈めに行ったのです」

「そうだったな。ここで選べないのは指揮官として失格か。ヴェステンラント軍に伝えろ! リヴァイアサンとブリュッヒャーの兵士の救助が終わり次第、戦闘を再開すると!」


 シュトライヒャー提督は、そう決断したのであった。


 〇


「――ということです。拒否されてしまいましたね」


 ヒルデグント大佐は少し楽しそうに、シモンにそれを伝えた。


「ゲルマニア軍の意図は、了解した。しかし君はどうしてそんな余裕そうなんだ? 殺されるかもしれないのだぞ?」

「さっきも申し上げたではありませんか。私を殺せば、あなた方はそういう連中なのだと世界が知るだけです」

「…………」


 そう、シモンは捕虜を殺すなどと大それたことを宣言したが、実際のところ、それをするのはヴェステンラント軍全体に取って大きな不利益となる。敵が降伏してくれなくなるからだ。故に、シモンはヒルデグント大佐を殺すことが出来ない。


「まあいいです。しかしどうするのですか? ヴェステンラントの船では、我が国の蒸気船から逃げ切ることは不可能です。結局全部の船が捕まって終わりなのでは?」

「いいや、それを我々を過小評価している。魔導戦闘艦でなくても魔法を推進力とする船はいくらかあるのだ。見た目は他の帆船と特に変わらないようにしてあるがね」

「ほう。そんなものはこれまで確認されていない筈ですが」

「隠しておくに決まっているじゃないか。今のような時の為にな」

「それも道理ですね。そしてその船で、私達をヴェステンラント本国まで連れ去るのですか?」

「連れ去るなど、人聞きの悪い表現をしないでもらいたい。捕虜を護送するだけだ。そしてさっきも言った通り、我が国は捕虜を人道的に扱う」

「期待していますよ」


 かくして、ベルムーデス沖海戦は、リヴァイアサンの沈没を以て、実質的に終わりを迎えたのであった。

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