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戦いの終息

 ブリュッヒャーはズブズブと水飛沫を上げながら沈んでいく。脱出したヒルデグント大佐はその辺に浮かんでいた木片に掴まり、可能な限りブリュッヒャーから離れていた。視界は木片と瓦礫で満たされている。


「この様子では、友軍が助けに来るのを待つしかなさそうですね。そこまで何とか生きていられるでしょうか……」


 生存を若干絶望視しながらも、大佐はプカプカと浮かんでいた。しかし10分もしないうちに、彼女の視界にただの残骸ではないものが映った。


「あれは、船でしょうか。小型船のようですが……」


 何隻かの50人乗り程度の小型船が、残骸を掻き分けて彷徨いていた。


「……そうか、なるほど。リヴァイアサンの中に小型船を格納していたということですか。確かにそれくらいなければ、あんな船には乗っていられないでしょうね」


 リヴァイアサンは魔法が切れたら勝手に崩壊する船だ。せめて救命ボートくらいはないと、魔導兵は安心して乗船も出来ないだろう。


 〇


「ああ、クロエか。無事か?」

「ええ、私は何ともありません」


 白の魔女クロエは大量の残骸の中に浮かぶ船の1隻に乗り付けた。陽公シモンの乗る船だ。実はクロエもリヴァイアサンに乗っていたのである。


「それはよかった。ところで、君ならあの戦艦を持ち上げられたりはしないのか?」


 シモンはブリュッヒャーを指差した。何とか自沈を阻止して鹵獲したいのである。が、クロエはすぐに首を横に振った。


「私でも流石に無理ですよ。質量が大き過ぎます。あれはもう、沈むしかないでしょうね」

「そうか……。なるば、自らを犠牲にして戦ったあの艦に、最大の敬意を払うとしよう」

「はあ……。まあいいですが」


 クロエはせっかくの戦艦に対抗出来る兵器を潰したような艦に敬意を表す気にはならなかった。


「ああいや、そんなことを話している場合ではないんだ。敵も味方も、多くの兵士が海に投げ出されている。我々が救助しなければな」

「そうですね。それは賛成です」

「敵を助けることには文句を言わないのだな」

「戦いが終われば敵も味方もないのは、当然のことですよ。そうでなければ、世界は永遠に戦い続けることになってしまいます」

「面白いことを言うじゃないか。まあ、君なら海を漂っている者を探し出すことも容易だろう。手伝ってくれるな?」

「無論です」


 クロエは黒い翼を広げて飛び立った。


 〇


 ヴェステンラント軍が救助活動を開始すると、ヒルデグント大佐のところにも小型船が近づいてきた。そして見張りを行っていた魔導兵が、海を漂う大佐を発見した。


「おーい! 生きてるか!? 生きてるならこれに掴まれ!!」


 魔導兵は長い縄を投げつけた。が、それを躊躇いなく受け取れるほど大佐の精神は成熟していない。


「どうして我々を助けるのですか! どうせ捕虜にして利用しようとしているだけでしょう!」

「敵でもない奴を助けるのは当然だろう!」

「私はあなた達の敵ですが!?」

「そんな格好で敵とは、笑わせてくれるな! だったら攻撃の一つでもしてみろ!」

「っ……」


 その言葉は効いた。今のヒルデグント大佐はまるで無力だ。銃は全部失ってしまった。


「しかし、虜囚の辱めを受けるつもりはありません」

「ここで死ぬよりは生きて復讐の機会を待った方がいいんじゃないか?」

「……どうして敵にそんなことを勧めるんですか」

「まあ、ヴェステンラント軍が敵の救援を行わなかった、というのは、我が国の体面を悪化させるからな」

「そうですか。そこは素直ですね。……まあ、いいでしょう。救援に感謝しますよ」


 ヒルデグント大佐は投げ込まれた縄を掴んだ。


 ヴェステンラントの船の甲板には、多くのずぶ濡れのゲルマニア兵と魔導兵が詰め込まれていた。まあブリュッヒャーから飛び降りた数千人を助けようとしているのなら、こうもなるだろう。


 と、その時、ヒルデグント大佐に魔導兵が呼びかけた。


「ヒルデグント大佐殿ですね?」

「……ええ、そうですが、何か」

「我が主がお呼びです。少しご一緒願えますか?」

「分かりました、いいですよ」


 ――我が主とは一体?


 魔導兵に連れられて、大佐は船内に入った。連れられた先には、高そうな衣服を纏った初老の男と、白いドレスを着た若い女がいた。


「……大層高貴な方とお見受けしますが」

「まあ、それは事実かもしれんが、私はヴェステンラントが陽公シモンだ」

「そして私は白公にして白の魔女、クロエです」

「これはこれは……。大公殿下が二人もいらっしゃるとは」


 敵の指導者だ。ヒルデグント大佐は強い敵愾心を持った。


「まあまあ、落ち着いてくれたまえ。君のことは国際法に則って捕虜として扱うつもりだ」

「そうですか。で、どうして私などを呼びつけたのですか?」

「君はこの辺りのゲルマニア兵の中では最も階級の高い者のようだからだ」

「それならばレーダー艦長を呼びつければよかったのでは?」

「艦長か。彼なら、船と運命を共にしたよ」

「……そうですか」


 そうなると、艦内を仕切ってきたヒルデグント大佐が最も高い階級を持つということになる。


「で、私に何をさせたいのですか?」


 シモンの口振りからして、ヒルデグント大佐を何かに利用したいのは明らかだ。


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