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海上特攻

「狙うは敵艦のど真ん中だ。あのデカブツを真っ二つにしてやれ!」


 多数の魔女を乗せながら、数百の砲弾に撃たれながら、ブリュッヒャーは一直線にリヴァイアサン目掛けて突進する。副砲がいくら吹き飛ばされようともう関係ない。この艦体そのものが武器なのだから。


「敵艦の速度は全く大したことありません。これなら追いつけます!」

「そうだろうな。あんな船がマトモな速度で動ける筈がないんだ」


 リヴァイアサンは逃げようとするが、ブリュッヒャーの速度の方が圧倒的に速く、たちまち追い付いた。既に艤装や装甲はボロボロになっていたが、機関は全く正常である。なんの問題もない。


 リヴァイアサンは巨大だが、高さはブリュッヒャーと大して変わらなかった。魔女達は流石に危険を察知したのか、いち早く逃げ出した。


「さあ、行くぞ! 突っ込め!」


 ブリュッヒャーはリヴァイアサンの中央部を切り裂くように、木製の艦体を割くようにして激突した。鋼鉄の艦体の方が強度は遥かに高く、熱した鉄を曲げるように、ブリュッヒャーの船首はリヴァイアサンに食いこんでいった。


 激しい衝撃が艦橋を襲う。流石の戦艦でも無傷という訳にはいかず、船首から艦体が歪んでいった。


「まだだっ! 機関全開! こいつを切り裂け!!」


 大量の木片が降り注ぐ中、ブリュッヒャーはスクリューを全速で回し、リヴァイアサンの奥へ奥へと突き進む。そして遂に、船首がリヴァイアサンの反対側の舷側を突き破った。


「貫通しました! これで真っ二つです!」

「よくやった! だが……沈むようではないが……」

「艦長! 敵は船を直そうとしています!」

「何? ま、まさか、この艦を呑み込んで修理しようというのか!?」


 魔女達はブリュッヒャーを包み込むようにしてリヴァイアサンを修復するつもりだ。真っ二つになっても修理は可能らしい。


「艦長、主砲を撃ちましょう! この至近距離ならば効果は絶大の筈です!」

「そうだな! 主砲、副砲、撃てるだけ撃ちまくれ!!」


 既に装填を済ませていた主砲は、リヴァイアサンにめり込んだ状態で、その前後に向けて砲弾を放った。その威力は凄まじく、リヴァイアサンは縦に真っ二つに裂ける寸前にまで抉り取られた。


 そしてその崩壊寸前の、瓦礫のような船体に、次々と副砲弾が叩き込まれた。これまでは副砲を防いでいたリヴァイアサンも流石に防ぎきれず、更に瓦礫を撒き散らした。


「修理される様子はありません! 我々の勝利です!」

「ああ、そのようだな」


 リヴァイアサンは4つばかりの残骸に破断され、メキメキと音を立てながら沈んでいく。遂にゲルマニア軍はこのべらぼうな戦艦を撃沈することに成功したのだ。しかし、犠牲も大きい。


「我が方の損害はどうなっている?」

「船底のあちこちに浸水が発生しています! 数は数え切れません!」

「船首が大きく抉られています! とても修理の仕様がありません……」


 体当たりなど仕掛けたブリュッヒャーは既に満身創痍。だが、それよりも悪いことは――


「魔女です! 魔女が再び侵入してきています!」

「船首から多数の魔女が次々と侵入している模様! これでは食い止められません!」


 ここは敵陣のど真ん中。魔導兵はかなりの数を葬り去ることが出来ただろうが、魔女達はブリュッヒャーに狼のように群がってきた。そしてブリュッヒャーには、人間が入れるほどの大穴がいくつも開いている。状況は絶望的だ。


「艦長、このままでは、ブリュッヒャーは敵に制圧されるでしょう。最早時間の問題です」


 ヒルデグント大佐は冷静にその事実を告げた。


「ああ。こうなるだろうことは分かっていた」

「では、やはり」

「そうだ。本艦は、自らの運命を自ら選ぶ。奴らになぞ渡してやるものか。すぐに全艦に放送を行うぞ。準備しろ」


 レーダー艦長は通信機を手に取り、艦内、艦の周辺にいる全ての人間に対して呼びかける。


『えー、ヴェステンラント軍の諸君、私は本艦の艦長、ラインハルト・レーダー中将である。ただ今より、本艦は敵に奪われることを避ける為、自沈する。死にたくないのならば、速やかに本艦から退去することをお勧めする。以上だ』


 奪われるくらいなら自らを沈めるまでだ。幸いにしてボロボロのブリュッヒャーは、少々手を加えればすぐに沈んでくれそうだ。


「艦内の魔女が一斉に逃げ出しました! 閣下のお言葉を信じたようです!」

「それでよい。大佐、君達も早く脱出したまえ」

「外は敵だらけですが?」

「奴らもマトモな軍隊ならば、捕虜の救出くらいする筈だ。さあ早く。退艦せよ」

「……分かりました。お先に失礼させて頂きます」


 ゆっくりと沈む艦内から、ゲルマニア兵は脱出するべく甲板へと出た。しかし救命ボートは破壊し尽くされ、一つも残ってはいなかった。


「こ、これでは……」

「海に飛び込みましょう。ブリュッヒャーの沈没に巻き込まれるよりは生存率が上がります」

「はっ!」


 兵士達は次々と海に飛び込んだ。もちろん、ヒルデグント大佐も。冷たい海は体温をみるみる奪う。果たして生きている間に助けなどくるだろうか。



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