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プリンツ・オイゲンの白兵戦

 ヒルデグント大佐が決死の防衛戦を展開し、シグルズがそこそこ余裕を持って敵を撃退している中、三番艦プリンツ・オイゲンも当然、敵の移乗攻撃を受けていた。


 ヴェステンラント軍は例に倣って艦内への直接侵入を試み、対してここを守るオーレンドルフ幕僚長は、シグルズと同様に事前に設置された陣地まで下がり、防衛線を張っていた。


「敵兵、艦内に侵入したようです」

「ああ。捨てる区画が少なくて済んでよかったよ」


 艦内の地図など持たないヴェステンラント軍は適当に穴を開けている訳だが、プリンツ・オイゲンの場合それは最初から想定された侵攻経路の真上であり、侵攻が多少早まるだけであった。


「火炎放射器、準備はいいな?」

「はい。万全です」

「よし。敵が見え次第すぐに放て」

「はっ!」


 火炎放射器の用意をする兵士達。やがて現れた壁を持った魔女達に炎を放ち、無事に撃退することに成功した。魔女達はすっかり攻めあぐねたのか、それ以降全く姿を表さなかった。


「正面戦闘ならば我々が優位か。しかし、こうなったら奴らは……」

「大佐殿! 敵軍は後方に侵入しようとしています!」

「やはりそう来るか」


 他の2隻と同じく、ヴェステンラント軍は艦橋付近に直接の侵入を試みていた。


「流石に師団長殿のように打って出るのは危険が大きい。やはり重要な区画に立て籠るのが最善か……」

「大佐殿! 機関に異常が生じ、有毒ガスが発生しているとのことです!」

「有毒ガス? おいおい、それは一大事ではないか。どこに漏れている?」

「はい。この区画です!」


 兵士は危険な箇所が示された地図をオーレンドルフ幕僚長に手渡した。まあ機関部からの発生であるから当然であるが、艦の中央部にガスが充満しているようだ。


「ん? 待て。これを放っておけば、奴らが入ろうとしている区画にも届くな」

「た、確かに……」

「それで行こう。機関部は修理するな。有毒ガスを発生させまくれ」

「はっ!」


 オーレンドルフ幕僚長は毒ガスで敵を殲滅する作戦を取ることにした。


「し、しかし、ヴェステンラント軍は既に毒ガスへの対処を確立したと聞きますが……本当に効果はあるのですか?」


 ヴェロニカはおずおずと尋ねた。


「恐らく、この類のガスならば、効果はある筈だ。ヴェステンラント軍の防毒装備は有機物にしか作用しない」

「な、なるほど……。私には全然分からないですが」

「ちょっとした化学の知識だ。お前も勉強しておくと役に立つぞ」

「は、はぁ……」


 その後、オーレンドルフ幕僚長は隔壁をいくらか閉じさせてガスの広まる経路を固定し、敵の襲来に備えた。


「まあ、艦橋がほぼ孤立したのは問題だが、何とかなるだろう」

「敵軍、甲板を貫いたようです!」

「来たか。通じるかな」

「ど、どうやったら効いているか分かるのですか?」

「奴らが出てこなかったら効いている」

「……そ、そうですね」


 もしも有毒ガスに効果がなかったら、魔女達は隔壁を破壊して艦橋に直行するだろう。そうなったらお終いだ。オーレンドルフ幕僚長も後は祈るしかない。


 さて、それから10分ほどが経過しただろうか。


「……こちらには何の反応もないな。艦橋の方はどうなっている?」

「艦橋にも、特に異常はないようです」

「うむ。どうやら、我々は勝ったようだな。ヴェステンラント軍の装備では、この毒ガスに対応出来なかったようだ」

「やりましたね! 奴らに目にもの見せてやれました!」

「ああ。この毒ガスは艦橋や機関室への最強の防壁となった。これで我々は負けることはない」


 かくして、偶然にも発生した有毒ガスという幸運によって、プリンツ・オイゲンはヴェステンラント軍を撃退することに成功したのであった。


 〇


 舞台はアトミラール・ヒッパーに戻る。


「――機関室の不調で生じた毒ガスか……。シグルズ、これはいいんじゃないか?」

「いえ、閣下。あれは艦の機能を半ば捨てざるを得ない最後の作戦です。それに、毒ガスが蔓延するであろう区域には多くの兵士がいます。やらなくて済むのならやらない方がいいですよ」

「じょ、冗談だ。しかしブリュッヒャーならどうだ? 既にかなりの部分が占領されているようだが」

「そうですね……。完全に否定はしませんが、既に多数の魔女に侵入されている以上、重要な隔壁が破壊される可能性が大きいです。そうなったら味方もろとも皆殺しにすることになってしまいます」

「そうだな……。ダメか。しかしブリュッヒャーは何としてでも救わなければ……」


 アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンは何とかなったが、ブリュッヒャーは追い詰められている。いつ負けてもおかしくはない状況だ。


「万一の際は……自ら手を下すよう、レーダー艦長には通達してあるが……」

「そうはしたくありませんね。とは言え、援軍を送ろうにも、甲板は魔女だらけで取り付く島がないありません」

「君が行けないのか?」

「行けなくはありませんが、あまり派手に暴れると、敵にいるであろうレギオー級の魔女が出てきます」

「うむ……」


 ブリュッヒャーを救う手立ててはなかなか思いつかないのであった。

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