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ブリュッヒャーの白兵戦

 天井に穴が開けられ、陽光が差し込んで来る。だが、敵は来ない。不気味な静寂に、兵士達は逆に恐れ慄く。


「い、一体、これは……」

「来ませんね……。そうなると、敵は……っ!?」


 その時、開けられた穴から粗製の木樽が投げ落とされた。


 ――そんなの爆弾に決まってるじゃないですか!


「逃げて! 逃げてくださいっ!!」

「は、はいっ!!」


 兵士達はすぐに状況を察し、突撃銃だけ持って全力でその場から走り出した。しかし、魔女はほんの数秒の間しか開けずに炎を放ち、木樽の中に詰め込まれていた火薬が大爆発を起こしたのであった。


「うあっ……うっ……」


 ヒルデグント大佐は爆風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。他の兵士達も同じ状況のようだ。そして壊滅した陣地に、多数の魔女が次々と降下してきた。


「わ、私達を……舐めるな……!」


 大佐は壁にもたれかかったまま、すぐさま魔女達を撃った。しかしそれが限界であった。いつものように魔女に殴り掛かることは、体の痛みが許さないのである。数人を殺せば、すぐに魔女は弩を彼女に向けた。


 ――さ、流石に、これでは無理ですね……


 大佐は静かに目を閉じて死を覚悟した。しかし――


「大佐殿、お逃げください!!」

「こいつっ! 何だ!!」

「え……」


 兵士達は次々に魔女に掴みかかり、殴りかかっていた。魔女達も咄嗟の事態に魔法も使えず、次々に組み伏せられている。


「早く逃げてください! ここはもうダメですっ!!」


 そう叫んだ兵士の胸は太い木の枝に貫かれた。魔女相手に銃もなしに勝てる訳がない。


「……分かりました。申し訳、ありません……」


 ヒルデグント大佐はそこから逃げた。もうここで敵を防ぐのが不可能であることは、明らかだったからだ。


 ○


「ご無事でしたか、大佐殿!」

「……私はそうですが、防衛線は陥落しました。すぐに第二防衛線、つまりここに敵が押し寄せてきます」

「な、何と……。ですが大佐殿、ここなら安心です。敵を通しはしません!」


 ここは事前に用意してあった、鋼鉄のバリケードと機関銃、火炎放射器で武装した陣地である。艦内の区画をいくらか放棄することになってしまったが、ここなら一先ず安心だろう。


「私は……指揮を誤ってしまいました。そのせいで、多くの兵士を犬死させてしまいました」

「大佐殿……。いえ、あなたは十分に勇敢で有能な指揮官です。我々はどこまでも、あなたについて行きますよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 少なくとも今は、反省している暇はない。ヒルデグント大佐は艦内防衛の指揮に集中するまでだ。アトミラール・ヒッパーと同じように壁を持った魔女達が攻め寄せて来たが、火炎放射器の力で簡単に撃退することが出来た。


 が、悪い報告が飛んできた。


「大佐殿! 敵が艦橋の目の前に侵入しようとしています! もし入られたら、既存の防衛線は役に立たなくなってしまいます!」

「……やはり、そう来ましたか。最悪ですね」


 シグルズがこれを艦内から打って出るという方法で撃退したのは知っているが、ヒルデグント大佐にはそこまでやる勇気はなかった。と言うか、敵もその対策くらいしているだろう。いずれにせよ現実的ではない。


「こうなったら、重要区画のみを防衛することに切り替えます。それ以外はことごとく、取られても構いません」

「な、何と……」

「艦橋、主砲塔、機関室さえ奪われなければ、他はどうなっても構いません。そのように、兵を再配置します。急いでください」

「はっ!」


 最悪それさえあれば、ブリュッヒャーの継戦能力を維持することは可能だ。どこから敵が入ってくるかも分からないこの状況では、最早そうするしかないのである。


「それと、艦橋から多少は敵の妨害を行いましょう。時間稼ぎです」

「はっ!」


 艦橋から徹甲弾を降らせておけば、多少は時間を稼げるだろう。ヒルデグント大佐の大胆な作戦は、これより開始される。


 〇


「ここを通せば終わりですよ! 各員の奮闘を期待します!」


 艦橋へと続く薄暗い階段の踊り場ヒルデグント大佐は陣地を敷いていた。ここが落ちれば艦橋も落ちる、背水の陣である。


「敵魔導反応、接近!」

「さて、どう来ますかね」

「あれはっ、やはり、壁ですね……」


 魔女達は引き続き、壁を作りながら接近してくる。が、階段を目の前にして止まった。あの壁を動かしながら階段を登るのはキツいだろう。こんなただの階段が、案外強力な防衛装置として機能していた。


「さて、これでどう来るか……」


 と、次の瞬間、壁は倒れ、人間大の鋼鉄の盾を持った魔女達が姿を見せた。


「そう来ますかっ。撃ち方始め!」


 ヒルデグント大佐がそう命じると同時に、魔女達は階段を駆け上がる。機関銃の銃弾はことごとく弾き返され、彼女らはたちまち陣地に斬り込まんとする。


「ひぃっ……!」

「その程度っ!」


 大佐は陣地に飛び込んできた魔女の盾を銃剣で叩き落とし、その腹に突撃銃の銃口を突き付けた。


「クッ……」

「さようならっ!」


 魔女は腹を数十の銃弾に撃ち抜かれ、階段を崩れ落ちていった。

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