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潜水艦隊Ⅱ

「至近距離で撃ちすぎた、かもね……。損害は?」

「各艦共に、大きな損害はありません! 問題なく動けます!」

「よし。このまま全速前進して離脱しよう。と、その前に、敵の損害はどうかな? そろそろ泡が消えて見える頃だよ」

「はっ。確認します」


 視界がようやく晴れ上がってきた。早速大量の魚雷を叩き込んだ成果を確認する。


「おお……船底に大穴が開いています! これならあっという間に沈むに違いありません!」

「うーん、沈んでる様子はないけど?」

「ま、魔法で修理しているようです! みるみるうちに穴が塞がっています!」

「……これでも足りなかったか。まあいいか。相当なエスペラニウムを消耗させれた筈だからね」

「はい。残念です……」

「残念がることはないって言ってるんだよ?」


 船底を丸々抉りとるような火力であったが、これでも撃沈には足りなかった。しかしそれを修繕するのに必要なエスペラニウムは膨大である筈。決して無駄ではない。


「それと、敵の潜水艦はどうなっている?」

「爆発に巻き込まれて沈黙しているようですが……いえ、動き出しました! こっちに来ます!」

「追いかけてくるかあ……。全速力で逃げよう」

「はっ!」


 対潜水艦用の装備などは積んでいない。畢竟、選択肢は逃げる以外にないのである。しかし――


「は、速いです! 敵潜水艦との距離、徐々に縮まっています!」

「それは驚きだね……。魔法でそんな推進力を生むことが出来るなんて」

「ど、どうすれば……?」

「ああ……どうしようね? 対抗出来る武器はないし、降伏する?」

「そ、それは……」


 ライラ所長だからこそ分かる。この状況では少なくとも、反撃する手段は存在しない。


「でも、敵にも攻撃手段はなさそうだからね。耐久力の差で勝てるかもね」

「た、体当たりですか……」

「それしかないでしょ。ともかく、やることは変わらない。全速力で友軍艦隊に向かって逃げるだけだよ」

「はっ!」


 とりあえず逃げるしかない。敵との距離はどんどんつまる。残念ながら逃げ切ることは不可能なようだ。


「て、敵が、すぐ後ろに!」

「さあ、どう来る……?」


 ライラ所長は潜望鏡で後方を覗き込む。何かしら攻撃手段があるのならこの辺で出してくる筈。が、敵にその様子はなかった。ヴェステンラントの潜水艦は木製の棺桶のような造りで、武器という武器を持っているようには見えなかった。


「敵は体当たりしてくるようだね」

「ほ、本当ですか……!?」

「うん。でも、それならこちらも勝機がある。全力で逆転! ここで止まる!」

「は、はいっ!」


 敵が体当たりしてくるというのなら全力で受けて立とうとライラ所長は決断した。潜水艦は主機を全開にしてスクリューを逆回転させ、一気に速度を落とす。敵はそれに対応出来ず、ついに潜水艦達は玉突き事故のように衝突したのであった。


 激しい衝撃と木材がへし折られる音、鉄の軋む音が響く。揺れが収まるまでは数十秒ほどかかった。


「おっと……魔導兵が穴を開けているね」


 水の魔女が水を跳ね除けて空間を作り、魔導兵達が潜水艦の上に立って外殻を貫こうとしていた。


「え、そ、それは、艦内に侵入しようとしていると!?」

「うん、そうだね」

「ぶ、武器がありません! 護身用くらいのものしか!」

「あー、大丈夫大丈夫。私がやるよ」


 と言うと、ライラ所長は機関銃を通路に向けて4つ設置した。


「お、おお……」

「敵が入ってきます!」

「見えたらすぐ殺そう」


 艦内に侵入した魔導兵はライラ所長などがいる指揮所に一直線に向かってきた。そして彼らが機関銃の射線に入った瞬間、ライラ所長は魔法でそれらの引き金を一斉に引いた。一瞬にして数百発の対人徹甲弾を浴び、魔導兵は全滅したのであった。


「はい、終わり」

「す、すごいですね……」

「敵の魔女は逃げていくようです!」

「そう。まあいいや。とりあえず潜水艦を修理しようか」


 ライラ所長と兵士達は人が通るほどの大きさに開けられた穴を塞ぎ、ヴェステンラント軍の攻撃はなんてこともなく退けられた。


「し、しかし、他の潜水艦は……」

「そうだね。連絡を取ろう」


 通信機で他の2隻に呼びかけるも、応答はなかった。つまり、ヴェステンラント軍に潜水艦を鹵獲されてしまったのである。もっとも、その技術を彼らが理解出来るとは思えないが。


「潜水艦に武器を積んでいなかったのは、明らかに失敗だったね。次からは気を付けよう。それと、私達も動ける?」

「だ、ダメです! 進みません!」

「スクリューを壊されたか。これは困ったね」

「ま、まさか、我々はここで死ぬのですか……?」

「浮上すればいいよ。死にはしない」

「あ、確かに」


 浮上、沈降を行う装置と操舵する装置は別物だ。海上に出るのはいつでも出来る。


「とは言え、徒に浮上するのも危険だね。本隊と連絡を取ろうか」

「はっ!」


 自身の窮状をアトミラール・ヒッパーに伝えたライラ所長。


「大丈夫。浮上しよう」

「何が大丈夫なのでありますか?」

「援軍が来てくれる。敵は問題にならないよ」


 援軍とはシグルズのことであった。シグルズは砲弾の飛び交う中で潜水艦を曳航し、潜水艦は無事に帰投することが出来た。

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