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潜水艦隊

「……誰か、一応、ライラ所長の様子を見てきてくれ」

「はっ!」


 ライラ所長が部屋で大人しくしている訳がない。そして探しに行かせると、案の定と言うべきか、彼女は消えていた。


「そ、そうか……。いや、そんな気はしていたんだ。艦内隅々まで探し回れっ! それと放送で呼びかけろ!」

「はっ!」


 などと懸命な捜索を行うも、結論はライラ所長はアトミラール・ヒッパー艦内にはいないということであった。


「ど、どこへ消えたんだ……」

「まさかアトミラール・ヒッパーにすらいないとは……。他の戦艦に移動する理由もないですし、となると、勝手に潜水艦を出したのでは?」


 シグルズは半ば呆れたような口調で言った。ゲルマニア艦隊は実は戦艦の下に吊るす形で潜水艦を連れてきているのである。潜水艦にまだ外洋を航行出来るだけの航続距離がないからだ。


「潜水艦か……。確かにあり得る気がする。すぐに潜水艦と連絡を取れ!」


 機密保持の為に潜水艦に積まれている機械式通信機と通信を繋ぐ。 すると――


『ん? あー、ごめんごめん、言ってなかった』


 シグルズの予想は的中し、ライラ所長は潜水艦に乗り込んでいた。これにはシュトライヒャー提督も苦笑いするしかない。


「ライラ所長、そういう時は事前に通達して頂きたい」

『ごめんって。次からはそうするよ。とは言え、この状況をひっくり返す方法なんて潜水艦しかないんじゃないかな?』

「……それは確かに。砲撃では一向に効果がなさそうですが、雷撃ならば或いは」

『うん。そういう訳で行ってくるね。いいよね?』

「ええ、分かりましたよ。くれぐれも死なないようにだけはしてください」

『もちろん』


 かくしてライラ所長の作戦が発動する。


 〇


「じゃあ行こうか。全艦、機関始動、ケーブル切断、出撃!」

「はっ!」


 戦艦から離脱し、スクリューを回し、潜水艦はゆっくりと進み始めた。潜水艦の技術はまだまだ発展の余地があるだろが、今のところはこれで十分だと判断されている。狭い艦橋からの悪い視界だけを頼りに、3隻の潜水艦は進む。


「まあ唯一の脅威は、敵にも潜水艦に類する兵器があることだね」

「ええ、ありましたね。我々も既に一度遭遇したます」

「あ、そっか。君達はその時の船員か」

「誰だと思ってたんですか……」

「人の顔を覚えるのは苦手でね」


 潜水艦の初陣、ルシタニア王国南端にヴェステンラント海軍の哨戒を潜り抜けて潜入した時に、潜水艦は運悪く敵の水中を進む船と鉢合わせたことがあった。ヴェステンラント海軍も本気だろうから、それが随伴している可能性は十分にある。


「どうかな? 何か見える?」

「今のところは巨大戦艦以外は見えません」

「他の艦も同じのようです」

「ならいいか。このまま敵艦の真下まで進んで」


 魚雷の技術は地上の兵器と比べるとかなり未発達であり、誘導装置が存在しない。もっとも、熱源もない木造船を狙う誘導装置を開発するのは難儀であるが。故に魚雷を叩き込む唯一の手段は目標の真下に入り込んで真上に打ち上げることだけなのである。


 数十分の航行で潜水艦は敵艦のすぐ側までやって来た。その巨大な影によって光が遮られ、視界が大きく悪化してしまった。


「やっぱり大きいね……この船」

「ええ、まったくです。木造でこんな大きさの船なんて、造れるものなんですか?」

「普通にやったら無理だろうね。木材の耐久性では、こんな巨大なものは造れない」

「で、では、これは一体……」

「魔法で支えてるんだろうね。つまり、エスペラニウムが尽きたら、この船は崩壊する。魔導戦闘艦っていうのは、つまりそういう意味なんだろうね」


 戦闘をせずともただ船を浮かべているだけで魔法を消費する。魔導戦闘艦とはそういう、ヴェステンラントにしか運用出来ない代物なのだ。


「なるほど……。エスペラニウムを削る戦法は間違いではないのですね」

「そうだね。ひたすら攻撃して相手を消耗させるのは正解だよ。もっとも、一体どれだけの量のエスペラニウムが積み込まれているのか、想像も付かないけど」

「そ、それは、確かに……」


 一体魔導兵何万人分のエスペラニウムを積載することか出来るのか、考えたくもない。そうこうしているうちに、潜水艦は敵艦のちょうど真下に入り込んだ。


「場所はこれでよいかと」

「うん。じゃあ魚雷発射管――」

「あ、あれは!?」

「え、何?」

「敵の潜水艦です! 敵戦艦の腹から出てきました!!」

「そ、そんな機能まであるなんて……驚きだね」


 木造船の船底が開き、中から3隻の木造潜水艦が海中に投じられた。とても信じ難いが、魔法ありきならあり得ないことでもない。


「ど、どうしますか!?」

「ひとまず魚雷全門発射! その後は全力で逃げる!」

「はっ! 魚雷、撃ちます!」


 1隻につき20本程度の魚雷が一気に放たれ、それを確認すると同時に潜水艦隊は全速力でその場を離脱する。潜水艦が進み始めた頃、魚雷が敵戦艦の船底に一斉に命中。膨大な泡が発生して何も見えなくなり、潜水艦も大きな衝撃に襲われた。

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