魔導戦闘艦リヴァイアサン
「……総員、何をボサってしている!! 主砲、副砲、全門撃ちまくれ!!」
「「はっ!!」」
シュトライヒャー提督がかけた発破は効果的だったようだ。ようやく士官達は状況を呑み込み、反撃に転ずる。
「閣下、それと、甲鉄艦では役に立たないでしょう。すぐに後退させるべきかと」
「ああ、そうだな。甲鉄艦は撤退! 戦艦で奴の相手をする!」
「主砲、射撃準備が整いました!」
「私の指示なんぞ要らん! 撃ちまくれ!」
3隻の戦艦が同時に全力で砲撃を開始した。36門の主砲が全て、敵の巨大戦艦を狙い、砲弾を放つ。そして10発以上の砲弾が命中し、目に見えて分かるほどの大穴を敵艦の舷側に開けることに成功した。敵艦は半ば吹き抜けのような状態である。
「やはり、我々の主砲は強いな……」
この地上で最強の火力を持つのはこの主砲だ。一瞬にしてあの巨大艦を見るも無惨な姿に変えたのだから。だが、それはまだ沈んでいない。それどころか――
「か、閣下! 敵艦の損傷が直っていきます!」
「何!? あんな大穴を直せるというのか!?」
「そのようです!」
今にも崩れ落ちそうな有様であった敵艦は時間を巻き戻すように修復され、みるみるうちに姿を整えていく。
「魔女が直しているんだ! ならば副砲で妨害しろ!」
「はっ!」
直りかけの大穴に向けて副砲の砲火が集中する。副砲とは言っても、それだけで普通のガレオン船なら簡単に沈められる代物だ。人間相手ならば後れは取るまい。が、いくら砲弾を叩き込んでも修復の速度が緩まることはなかった。
「な、何故だ……。奴ら死を恐れないのか?」
「い、いえ……。あれは、副砲の砲弾が防がれています!」
「何だと!? 戦車の主砲より大口径なんだぞ!?」
「し、しかし、間違いありません! あれは魔法による壁です!」
「何てことだ……」
主砲までは防げないようだが、副砲は魔法で展開された壁に防がれてしまった。これでは副砲が役に立たない。
「閣下、悲観することはありません」
シグルズは言う。
「何がだ?」
「副砲を防ぐともなれば、多量のエスペラニウムを消費する筈です。目に見えないだけで、敵艦の戦力を確実に削れているのです」
「それはつまり、奴らのエスペラニウムが尽きるまで戦えということか?」
「ええ。敵の魔法はこちらの攻撃を無力化するに十分な力を持っています。となれば、持久戦しかありません」
「そ、そうだな――っ!」
再び艦橋が地震のように揺れる。
「今度はどうした!?」
「2番副砲が吹き飛んだようです!」
「それだけか!?」
「それだけです!」
「どうやら、当たりどころが悪くなければ貫かれることはなさそうですね」
敵艦は数十の砲門を向けているが、損害の報告は1件だけ。敵の新兵器も戦艦の装甲を貫けるかどうかは運次第らしい。
「……こうなったら持久戦だ! 全門撃ちまくれ! 敵のエスペラニウムが尽きるまでだ!」
戦艦が航行不能になるまで破壊し尽くされるか、魔導戦闘艦がエスペラニウムを使い切って沈むか。それまで砲火の応酬は続くだろう。
「奴ら、全く損害を受けている気がしませんよ!」
「6番砲塔大破!」
「クッ……。分かってはいるが、厳しいな……」
傍目から見れば全く有効打を与えられていないゲルマニア艦隊が次々と武装を破壊されていくように映るだろうし、実際に戦っている彼らもそう思えてならなかった。
「皆さん、確実にヴェステンラント軍の戦力は削れています。今は辛抱を」
「分かってはいるんだが、そう簡単には割り切れんのだよ、シグルズ」
「まあ……そうなりますよね」
こちらは次々と損害を負っているが、向こうの損害は見えない。焦燥感が艦内を支配するのも無理はないことだ。
「シグルズ、君も船の損傷を修理出来たりはしないのか?」
「僕はそういう器用なことは出来ないのです。すみません」
「そうか……」
シグルズは無限の魔力と別に、知っている武器、兵器を造り出す能力を持っている。恐らく神とやらがこの世界での利便を考えて与えた力だろうが、逆に言うとそれしか出来ない。つまり、今すぐそこに新たな戦艦を造り出すことは出来るが、戦艦の一部だけを造ったり、損傷した箇所だけを造ったりといったことは出来ないのである。
「そうだ、修理と言えばライラ所長にやってもらうのはどうでしょうか?」
「確かに彼女なら出来るだろうが……万が一にも彼女を失うことは出来ないな。却下だ」
最悪、戦艦を全て失ってもいい。また建造すればいいのだから。だがライラ所長が死んでしまった場合、今後帝国は戦艦のような巨大兵器の建造、新兵器の開発がほぼ不可能になってしまう。だからシュトライヒャー提督はシグルズの提案を却下する。
「――しかし、ライラ所長は今どこに? 枢軸国艦隊についてきてくれるということでしたが……」
「彼女はこのアトミラール・ヒッパーにいる。安全なところで待機してもらっている」
「そうでしたか。一度も見かけていなかったので」
「そう、か……。大人しくしてくれているのか?」
シュトライヒャー提督は何故だが急に不安になった。何せあの所長、全く人の話を聞いてくれないのである。