対米上陸作戦
ACU2314 10/24 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
東では大八洲とヴェステンラント・ガラティア連合軍との戦争が膠着状態にある。ヴェステンラント軍は潮仙半嶋の橋頭堡を保持出来ているものの、大八洲軍にそれを包囲されて動けないでいる。北部国境では援軍を得た武田勢が山間部の城に立て籠り、山岳戦に不得手のガラティア軍を翻弄していた。
さて、そんな中だが、いよいよゲルマニアも動き出す時が来た。軍部と政府の要人が勢揃いした今日の会議で、ザイス=インクヴァルト大将は作戦の開始を宣言する。
「皆様、お忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます。さて本日は、帝国陸海軍より皆様にご報告がございます。我が軍は対米上陸作戦の準備を完了し、今や皇帝陛下の勅許あり次第、直ちに作戦を遂行することが可能となっております」
ヴェステンラント大陸への反撃、上陸作戦。およそ2ヶ月をかけ、その用意が整った。それが短いのか長いのかは何とも言えないが。
「陸軍としては引き続き主力として運用する3個機甲旅団を完璧に整備し、全ての師団に突撃大隊を配備し終え、半年以上の戦闘に耐え得る弾薬を確保致しました。また海軍としては、3隻目の戦艦プリンツ・オイゲンを完成させ、ヴェステンラント海軍を相手に圧倒的な戦力を用意することが出来ました」
「うむ。流石は西部方面軍だな。仕事が早い」
ヒンケル総統はザイス=インクヴァルト大将を賞賛する。
「いえいえ、これは物資の確保に協力して下さった東部、南部方面軍や、軍需品の一層の増産を可能にして労働省、それにルシタニア、ブリタンニア、キーイの協力があってこその結果です」
「それを取り纏めたのは君だろうに。まあ、では、作戦を説明してもらおうか」
「無論です」
ザイス=インクヴァルト大将は会議室の長机に巨大な地図を広げさせ、早速作戦の説明に入る。
「まず作戦の第一段階は、当然ながら輸送艦隊をヴェステンラント大陸にまで送り届けることになります。我々はエウロパに存在する船舶の大半をかき集めた大艦隊を結成し、抜錨の時を待ちわびております。即ち、枢軸国艦隊です」
最初は2ヶ国だけだった枢軸国であるが、シグルズの提案を受けたヒンケル総統によりその範囲は広げられ、今や世界唯一の国際組織と言ってもいい規模に拡大している。
「さて、この段階については、シュトライヒャー提督、ご説明をお願いします」
「うむ。大洋艦隊司令長官のシュトライヒャーです。えー、枢軸国艦隊は古今東西例を見ない巨大な艦隊ではありますが、その大半は武装がないに等しい輸送船です。旧来の戦列艦はヴェステンラント海軍に大して全く無力であると判断しましたので、海上で戦力となるのは3隻の戦艦、10隻の甲鉄艦のみとなります」
「そうか……。300隻を超える艦隊だと言うのに、たったのそれだけか」
「そういうことになります。しかし我が総統もご存知のように、戦艦は1隻で100隻のヴェステンラント艦隊を相手取れる船です。戦力に不足はないと、大洋艦隊は判断しております」
「そうか。では続けてくれ」
「はい。枢軸国艦隊は大洋に進出し、一直線にヴェステンラント大陸を目指すことになります。そこでは必ず、ヴェステンラント海軍は総力を挙げて迎撃してくるものかと思われます。それを撃退し上陸部隊を無事に送り届けるのが、我々の役目です」
「それで、勝てるのか?」
「敵がこちら側に差し向けることの出来る船は、最大で100隻程度です。大型船を建造中との情報もありますが、いずれにせよ枢軸国艦隊の脅威とはなり得ません!」
シュトライヒャー提督はそう断言した。これまでの実績からも、その判断に疑いを持つ者はいなかった。
「うむ。ここまでは問題なさそうだな」
「はい、閣下。それでは私から、上陸作戦の話を致しましょう」
ザイス=インクヴァルト大将は言う。
「上陸に当たっては、我々が一度に輸送出来る最大の人数、およそ15万の兵力で上陸を仕掛けねばなりません」
「15万か。相手は敵の本拠地だぞ? 出来るのか?」
「大陸に上陸するには些か兵力が不足しています。しかしながら、中央ヴェステンラント海の島々になら、可能かと存じ上げます」
「ああ、そういう話だったな。で、島ならいけるという根拠はあるのか?」
「ヴェステンラント軍の戦力は大陸から島々にかけて広く分散して配置されていることでしょう。大陸ならばそれらがすぐに合流するでしょうが、島嶼部ならば合流に時間がかかります。或いは戦艦で合流を妨害することも出来ましょう。また島であれば艦砲射撃の援護を得ることが出来ます。このような好条件を活かし、中央ヴェステンラント最大の島、クバナカン島に上陸、橋頭堡を築きます。一度拠点を築くことに成功すれば、後は時間をかけてゆっくりと、50万の兵力を上陸させればよいのです。そうした後、クバナカン島を進軍し、これを制圧します」
「なるほど。不可能ではなさそうな気がするな」
ここまではヒンケル総統のお眼鏡にかなったようだ。