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シャルロットの真価

「もう一度だ。放てっ!!」


 兵士達がシャルロット一人に向け、十本ほどの矢を一気に叩き込んだ。彼女の体は今度は腹から下がちぎれ落ち、綺麗に真っ二つになった。が、下半身と臓腑を地面に晒しながら、シャルロットは一瞬にして体の半分を再生させて見せた。


「相変わらずべらぼうな鬼道を使いやがる。確か、首だけでも体を生やせるんだったか?」

「ええ、その通りよ。それを知っているのに矢を無駄にするなんて、あなたも馬鹿なのかしら?」

「ちょいと確かめて見たかったものでね。とは言え、人の体を作るなど、生半可な鬼道では無理な話だ。相当な鬼石を使うんじゃないか?」

「間違ってはいないわね」

「ならば、お前が鬼石を使い切るまで切り刻めば、俺の勝ちって訳だ」

「ふふふ、やってみる? いいわよ、受けて立つわ。でもその前に、あなたが死ぬかもね!」


 シャルロットは昭弘に飛びかかり、短刀のような爪を振り下ろした。昭弘は軽々と受け止めて見せる。


「俺の老いた体にも勝てないとは、力は大したことないんだな」

「……こんなか弱い少女と力比べなんて、無粋なことをするものではないわ」


 珍しく不愉快そうな顔をするシャルロット。


「お前が弱かったら誰が強いんだか。……お前ら、今だっ!」

「「おう!!」」


 昭弘の後ろで好機を待っていた兵士達が一斉に槍を突き出し、シャルロットの全身に突き刺した。両腕はもげ、両手の爪と共に完全に切り落とされる。


「あらあら、大変だわ」

「そのままくたばれい!」


 昭弘はシャルロットの左肩から右の腰にかけて一刀両断しようと刀を振り下ろした。


「っ……」

「避けた……?」


 シャルロットは一瞬だけ焦った表情を見せると飛び退いた。また下半身が切断されたが、腕と共にすぐに再生される。シャルロットの行動に嶋津薩摩守は大きな違和感を持った。


 ――何だ。体を真っ二つにされても笑ってる奴が、さっきの一瞬だけビビった顔をしていやがった。


「なあ、普通、こんなに体を切り刻まれたら、いくら鬼石を隠し持っていても足りはしない。何か仕掛けがあるんだろう?」

「仕掛け? 何のことかしら?」

「いくらでも鬼道の使えるとなれば、一つしかない。イズーナの心臓とやら、お前が持っているんだな?」

「ふふふ。どうかしら? 持っていたとしたら、あなた達は永遠に勝てないわよ?」


 始原の魔女イズーナの心臓の欠片。それは全く消耗しないエスペラニウムのようなものである。魔法切れにならない限り永遠に体を再生出来るシャルロットがそんなものを持ったら、本当に不死身になってしまうのだ。


「お前、自分で急所を晒していると気づいてねえのか?」

「急所? 一体何を言っているのかしら?」

「要は、その心臓を抉り出せばいいんだろう。そしてお前はさっき、俺の太刀から逃げた。ということは、まあ大方普通に心臓がある辺りに、そいつが埋まってるんだろう?」

「……チッ。ええ、その通りよ。大正解。私の体の中から心臓を抉り出せば、勝てるかもね」

「そんなことしなくても、首を切り落とせばいいんじゃないか?」

「さあ? 試してみれば?」

「言ってくれるじゃねえか」


 ――しかし、面倒なことになっちまったなぁ……


 心臓とは言うものの、更にその欠片である。そんな小さいものを戦っている相手から抉り出すというのは至難の業だ。首を切り落とすというのも、シャルロットが回避しようと思えば回避されるだろう。この魔女を殺し切るのはどうやら難しそうだ。


「と、殿! 反撃に向かった隊が突破されました! このままでは……」

「あら、私と決闘している場合じゃなさそうね」

「――そのようだな。お前達もなかなかやるじゃないか」


 ヴェステンラント軍は防塁を駆け上がり、その迎撃に向かった部隊をも突破し、防塁の後背に回りこもうとしている。これでは防衛線の崩壊は必至だ。今回はヴェステンラント側が一枚上手だったらしい。


「あなた達を足止めしていなかったらどうなっていたかしら」

「さあな。戦はやってみないと分からんよ」

「あらそう。まあいいわ。私は仕事を果たした。もう帰る」

「そうか」


 シャルロットは黒い翼を広げ、遥か彼方に消えた。


「お、追わなくてよろしいのですか?」

「追ったところで鬼石の無駄だ」

「そ、それで、我らはどうすればよいのですか……?」

「ああ……そうだな。防塁は捨てる。皆、逃げるぞ。ここで犬死することはねえ」

「はっ!」


 誰も昭弘の命令を疑うことはなく、直ちに撤退が開始された。この勝負はヴェステンラント軍の勝ちである。


 〇


「はははっ、やれば出来るじゃない!」

「ええ。上陸作戦はほぼ完璧に成功しましたね」


 ヴェステンラント軍は大八洲軍の反撃に備えて海岸に防衛線を構築し、同時に後続部隊の到着を待っていた。


「しかしドロシア、予想より大八洲軍の行動が早いようです。増援を待っていたら、その間に彼らは北部に行ってしまいます」

「確かにね。ならば、この戦力で出るしかないか……」

「はい。少なくとも大八洲軍の移動を妨げられるくらいには前進した方がいいかと思います」

「分かった。そうしましょう。海岸の守りを固めたら、街道まで前進して橋頭堡を築く。そして大八洲軍を迎え撃つわ」

「はい。分かりました」


 ドロシアの苦難はまだ続くようだ。

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