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馬韓國上陸作戦Ⅱ

「奴らの石垣は、粗方吹き飛ばしました!」

「いいわね。射撃止め!」


 石垣の防衛線に大穴を開けたところで、ドロシアは攻撃停止を命じた。が、それから数分後のことであった。


「殿下、大変です! 石垣が次々と組み上がっております!!」

「何? ……チッ。そう簡単にはいかないか」


 石垣は簡単な造りだ。低級の魔女でも簡単に組み上げることが出来るだろう。故に、遠くから破壊することに意味はないのである。


「ならば、奴らのエスペラニウムが尽きるまで撃ち続ければいいのよ」

「そ、そんなことをしたら、こちらのエスペラニウムが尽き果ててしまいます!」

「クソッ……。あれと真正面からぶつかるしかない、か」

「そのようですね。とは言え、一瞬でも造れる程度の防壁です。破れないことはありませんよ」

「そうね。ええ。強行突破よ。数の差で押し切るわ」


 準備砲撃は無意味であると断じ、ドロシアは総攻撃を決意した。幸いにして船をつける場所はいくらでもあり、大兵力を一気に投入することが出来る。


「全軍、上陸を開始しろ! 奴らの小賢しい石垣など、私達の力で押し潰してやれ!!」

「「おう!!」」


 かくして上陸戦が開始された。


 〇


「申し上げます。ヴェステンラント勢、一斉に上陸を仕掛けてくる様子にございます!」

「そうか。まあ、奴らの兵も大した数じゃあねえからな。それが妥当だろう」


 嶋津薩摩守は最前線の石垣のすぐ裏で指揮を執っていた。傍目から見たら雑兵らと区別が付かないほど、総大将らしくない司令部である。


「さあて、奴らはこの防塁を舐めているようだが、その恐ろしさ、思い知らせてやろうじゃねえか」

「「「おう!!!」」」

「敵の第一陣、乗り上げてきました!」

「よーし。槍を構えろ! 誰一人として、この防塁の後ろには通すな!!」


 エスペラニウムの消耗が大きい上、百姓の武器と認識されている槍。大八洲の武士はあまり使わないのだが、今回は大量に用意してある。


「敵が来ます!」

「まだまだ引き付けろ」


 ヴェステンラント軍は船を浅瀬に座礁させると、数千の兵士を一気に砂浜に降ろす。魔導兵達は鬨の声を上げながら一直線に防塁に向けて突撃する。それに対して嶋津薩摩守は一切の反撃を行わず、敵兵を防塁のギリギリまで引き寄せる。


 そして、敵兵の目の白と黒が見分けられる程に両軍の距離は詰まった。ヴェステンラント兵は背負った梯子を防塁に叩き付けようとする。


「今だっ!! 槍衾を作れ!!」

「「「おう!!!」」」

「殿!?」


 嶋津薩摩守は自ら槍を持ち、梯子を掛けようとした兵士を刺し殺した。それに続いて彼の家臣達も一斉に槍を突き出し、一切の隙間もなくならんだ槍先が魔導兵を次々と刺し殺す。


 ヴェステンラント兵達は彼らを睨みつけるおぞましい刃に、恐れをなして引き下がる。


「おいおい! お前らこんなもんか!? 嶋津薩摩守昭弘はここにいるぞ!」

「敵の総大将だぞ! 殺せっ!!」

「「おう!!」」


 昭弘が名乗りを上げると、褒美目当ての魔導兵達が死に物狂いで突っ込んで来た。が、防塁に近づいたヴェステンラント兵は片っ端から槍に貫かれて死んでいく。


「こんなもの、槍先に当たらねばいいだけのこと!」

「っ……!」


 魔導兵の一人が刺突を躱し、槍の柄を掴むと凄まじい勢いでぶん回した。思わぬ出来事に驚き、槍を持った武士は防塁の外に引きずり出されてしまった。


「死ねっ!!」

「クッ……」


 砂浜に叩きつけられた武士は斬り殺された。


「ほう? やるじゃねえか。そこのお前、こっちに来い!!」

「と、殿!?」

「望むところ!!」


 嶋津薩摩守は勇敢な兵士を呼び寄せる。


「手出し無用! 俺が一騎打ちをしてくれる!」

「舐めるな!」


 魔導兵は昭弘を殺さんと駆け寄る。もっとも、こんな一方的な状況を一騎打ちと呼んでいいのかは謎であるが。


「容赦はしないぜ!」


 昭弘は躊躇いなく兵士を突き刺そうと槍を突き出す。が、彼はまたも刺突を回避し、その柄をがっしりと掴んだ。


「ほう?」

「こっちに来い!」

「その手には乗らん」


 昭弘は槍を簡単に捨てた。


「ふん。武器を捨てるか」

「まあな。やっぱり武士の得物はこいつだぜっ!」

「何っ!?」


 昭弘は刀を抜くと防塁から飛び出し、兵士に斬りかかった。


「殿っ!?」

「うぐっ……あっ……」


 魔導装甲を叩き割られた兵士は即死であった。が、昭弘は防塁の外の砂浜に立っている。


「と、殿、早く戻ってください!」

「奴だ! 奴を殺せば大金だぞ!!」


 大八洲有数の大名がたった一人で目の前に立っているのである。ヴェステンラント兵達は血相を変えて彼に襲いかかった。


「馬鹿者め。俺がそんなヘマをするもんか」


 嶋津薩摩守はニカッと笑うと一っ飛びして防塁の後ろに戻った。その老体から想像も出来ない軽やかな動きであった。


「な、何っ!?」

「その馬鹿共を殺せ」

「「はっ!!」」


 昭弘に群がっていた兵士達は、彼の家臣達に一斉に刺し殺された。


「さあさあ、俺にかかってくる奴はいないのか!!」

「どうやら、そんな血の気の多い奴はおらぬようですな」

「つまらんな。そんな調子では、この防塁は落とせん」


 かくして、大八洲側は僅かに十人ばかりの犠牲しか出さず、ヴェステンラントの第一梯団を軽々と撃退したのであった。

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