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大河の戦いⅡ

「じ、ジハード様! このままでは一方的に大砲の的にされてしまいます!」

「そんなことは分かっている! すぐに水の魔女共に船を押し出させよ! 我々も魔法で対抗するのだ!」

「はっ!」


 魔女の数ではこちらが優位。焦らなければ魔法の押し合いで負けることはないのだ。ジハードの指示で魔女達は水流を操作し、ガラティアの船を動力船のような勢いで大八洲の軍船に叩きつけたのであった。


「よし! このまま敵船に乗り込むぞ! 槍は捨て、剣を持て!!」

「「おう!!」」


 ガラティア兵は白兵戦の用意を整え、大八洲の軍船に縄をかけ乗り込んだ。あちらこちらで刃がぶつかり合い、激しい戦闘が始まった。戦力はほぼ互角であり、練度もさほど変わりはない。どうやら大八洲側も多くの人命を失い、練度が低下しているようだ。


「戦況は一進一退! まだいずれが勝つかは全く読めません!」

「そうか。であれば、不死隊を出して一気にケリをつける。不死隊、私に続け!!」


 ジハード率いる800余りの魔女達が一斉に飛び立ち、大八洲勢に襲いかかる――筈であった。


「て、敵の魔女です!」

「クッ……こうすることも読まれていたか!」


 ジハードらに呼応して大八洲の飛鳥衆が姿を現した。しかも数は不死隊より多い。


「ど、どうされますか!?」

「ここまでして引き下がる訳にはいかん! 不死隊、突撃! 蹴散らせ!!」

「「おう!!」」


 コホルス級の魔女をこんなところで消耗するのは愚策だが、敵もそれを出してきた以上、決戦に応じるしかあるまい。大八洲人もそれを望んでいるようであった。兵士達が激しく打ち合うその上空で、魔女達の戦いが始まる。


「……戦力は不利。であれば私が突破口を開く他にはな――っ」


 その瞬間、ジハードの眼前スレスレを一本の剣が通り抜けた。


「今の一撃、私を殺せたというのに殺さなかったな。誰だ?」

「そのような卑怯な真似は好むところではございません。正々堂々と戦いましょう」


 そう言ったのは黒衣の落ち着いた少女。彼女が誰であるのかはすぐに分かる。


「長尾の朔か。大八洲最強の武士がお出てとは、恐れ入る」

「わたくしも、あなたのようなお方と戦えて嬉しく思います」

「ふん。格下としか見ていない癖に」

「武士たるもの、戦う意思がある相手ならば、全ての力を出し切るものにございます」

「そうか。ならば、思う存分戦わせてもらおう!」


 戦いの火蓋は切って落とされた。ジハードは手の中にナイフを作り出し、朔の胸元に向けて一切の躊躇なく投げつけた。が、朔の胸に当たったナイフは甲高い音を立てて弾き返された。


「その威力では、わたくしを貫けませんよ?」

「クッ。鎧など、小賢しい真似を」

「戦場に立つのであれば、武具は最高のものを用意しなければなりません」

「ならばっ!」


 ジハードも切り札を出す。懐に隠していた超大口径の拳銃である。そして朔がそれを認識するより早く、彼女は引き金を引いた。


「うぐっ……」


 弾丸は朔の魔導装甲を一撃で貫き、脇腹に風穴を開けた。


「これならば効くようだな!」

「銃に頼るなど、恥ずかしくはないのですか……?」

「先程お前が言ったではないか。武具は最高のものを使うと!」


 ジハードは立て続けに引き金を引くが、朔は血を垂らしながら縦横無尽に飛び回り、その攻撃を回避する。


「銃は、魔法では操れませんからね。当てるのは難しいでしょう」

「……そのようだな」


 ナイフは魔法で制御出来るが銃弾はそうもいかない。ジハードの射撃の腕では三次元的に動き回る朔を仕留めるのは無理なようだ。


「それに、立て続けに当てなければ、この程度の傷は治ってしまいますよ?」

「チッ……。流石はレギオー級。だが、どうしてお前のようなものがこんなところにいる?」

「あなたは多くの武士にとっては大きな脅威でございますから。わたくしが足止めをせよと、伊達殿に頼まれたのでございます」

「足止め、か」


 本気で戦う気のない相手すら仕留められないことに、ジハードは甚だ不愉快であった。が、戦場で集中を乱した者はすぐに死ぬと、感情を抑え込む。


「であれば、私もお前を足止めするとしよう。お前のような邪魔が入らなければ、我がガラティアの精兵は負けん」

「見ものでございますね」


 戦いは完全な乱戦に突入した。この状況では個々の兵士の練度が勝る側が勝つだろう。ジハードと朔はお互いに邪魔をされないよう、足止めし合うのであった。


 ○


「陛下、混戦に持ち込まれてしまいました。無念ですが、この状況では我が方が不利であるかと」

「……そうだな」


 ジハードは勝利を信じているが、アリスカンダルはそうではなかった。長槍を扱うことを主に訓練された兵士達は、剣の扱いに長けた武士に接近戦では勝てないのだ。それは相性というものであって、練度や指揮でどうこう出来る問題ではない。ガラティア軍が総崩れになるのは時間の問題であった。


「だが、退くことも出来ん。我々には勝って敵の船を奪い取るしか選択肢がないのだ」

「そ、それは……。しかし、ジハードがとっとと撤退させておけば、こんなことにはならなかったのですがね……」

「あの状況では、仕方がなかったさ」


 アリスカンダルは諦めきった顔をしていた。

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