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渡河作戦Ⅱ

「進めっ! 奴らの矢など恐れることはない。ことごとく蹴散らしてくれよう!」

「「「おう!!!」」」


 ジハードの号令でファランクスは橋を渡り始めた。横に40人ばかりが並んでも余裕のある巨大な橋である。その側面には不死隊が同伴し、敵の攻撃に備える。そして数十パッススほど前進したところ、ついに大八洲勢が攻撃を開始した。


「敵の射撃です!」

「防壁を張れ! 矢の一本とて通すな!」

「「はっ!!」」


 予想通り大八洲兵は対岸から射撃を仕掛けてきた。それに対し、ジハード達魔女はファランクスの脆弱な側面に鉄や土や木の壁を作り出し、ことごとく食い止める。正面からの矢はファランクスの長槍が片っ端から叩き落とした。


「よし。これなら行ける。一気に橋を渡り切るぞ! 臆するな!!」


 大八洲の作戦は完全に失敗。鉄壁の守りを誇るファランクスに弓矢など通じはしない。と、ジハードが確信していたところ――


「ジハード様、軍勢を止めてください!!」


 大慌ての魔女が一人、ジハードの許に駆けつけた。尋常ではない何かが起こったのは察せられる。


「わ、分かった。止まれ!!」


 ファランクスは直ちに一時停止した。


「で、何があった?」

「橋の下に爆弾が仕掛けられております! それもたくさん!」

「何!? ――そうか。この橋を爆破して兵士を河に叩き落とそうという魂胆か。実に奴ららしい」

「ど、どうしましょう……?」

「爆弾など取り外せばいい。水の魔女を出撃させろ。火薬など濡らしてしまえば使いものにならん」

「はい!」


 暇を持て余している水の魔女に仕事だ。魔女達は橋の下に向かい、そこに仕掛けられた爆弾――とは言うものの火薬を紙で包んだだけのもの――に水をかけ、橋から取り去り河に投げ捨てた。


「爆弾はもう見当たらないとのこと!」

「残りの魔女を全て投入し確認に当たらせろ。1つでも爆弾が残っていたら大変だからな」

「はっ」


 爆弾が残っていないことを厳重に確認し、橋の安全は確保されたのであった。


「ふん。大八洲もこんなものか」

「あ、危なかったですがね。もしも気付いていなかったから……」

「気付けたからいいのだ。さあ、進むぞ! 大八洲人に目にもの見せてやれ!」

「はっ!」


 大八洲の策を見抜いたジハードは気を大きくして前進を命じた。


 〇


「眞田殿! 爆弾が、爆弾が取り払われてしまいました!」

「ふははっ、そうか。ガラティアの武士も、舐めたものではないな」

「さ、眞田殿! 必勝の策が見破られたのですよ!? どうなさるおつもりか!」


 橋を落としてガラティア兵を河の底に沈め壊滅させる。それが眞田信濃守の策であると、誰もが知らされていた。ただ一人の男を除いては。


「まあまあ、皆様、落ち着かれよ」

「菅助殿! これがどう落ち着いていれれるのか!」

「これは、敵も味方も欺く為の、言わば偽りの策。本当の策は、まだ潰されてはおりませぬ」


 山本菅助の隻眼が微笑んだ。


「い、偽りですと? それは一体……」

「まあまあ、見ておれば分かる。しかと見物しておるがよい」

「は、はぁ……」


 眞田信濃守の本当の策が発動する。


 〇


 大八洲の策略をことごとく跳ね除け、意気揚々と歩を進めるガラティア軍。だが、彼らの視界に信じられないものが映った。


「な、何だあれは……」

「河が、水が、押し寄せて来ている……!?」


 視界の先にある河が急に高くなった。大量の水が河に押し寄せ、小さな津波と化しているのである。


「じ、ジハード様!! 水が、水が押し寄せて来ます!」

「何だと!? そ、そんな、馬鹿なっ……」


 この大河を持ち上げるほどの水だ。魔女が何人いても食い止められはしない。ここに来た時点でガラティア軍は詰んでいた。


「は、早く兵を退かせろ!!」

「無理です! 間に合いません!」

「水が来ます!!」

「な、何てことだ……」


 ジハードが考えを巡らせていると、水はあっという間に押し寄せた。兵士達は橋の残骸と共にゴミのように流され、跡形もなくなった。そこには橋も兵士も、何もなかった。ただ濁り切った河があるだけである。


「へ、兵士達を救出しろ! 急げ!!」

「ジハード様、それに意味があるとは……」

「一人でも生き残りがいるかもしれんだろ! とにかく急げ!!」


 ほとんどの兵士は鎧の重さで溺れ、瞬く間に死んだ。運良く岸に流された者だけが生き延び、ジハードの命令は、徒労に終わってしまったのであった。


「クソッ! 大八洲人共めっ!」

「じ、ジハード様、どうか落ち着いてください……」

「と、とにかく、陛下にご報告しますね?」

「……ああ、そうしてくれ」


 〇


「ははっ、まったく、何てことをしてくれるんだ、大八洲人は」

「へ、陛下……?」


 アリスカンダルはその報告を受け、薄気味悪く笑っていた。


「先鋒の1万がほぼ全滅。この一瞬で、我が国の魔導兵の10分の1が失われたという訳だ」

「そ、そう、ですね……。すっかりしてやられました。それに橋が落とされ、対岸に渡ることも出来ません」

「そうだな。まあ、最初に裏切ったのは我々の方だ。これもまた、当然の報いなのかもしれんな」


 ガラティア軍は今や、河を越えて進軍する手段を失ってしまったのである。

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