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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第七章 ブルークゼーレの戦い

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戦役開始

 ACU2309 8/24 ルーア王国 アルゲントラトゥム


 ブルークゼーレの南方200キロパッススほど。地球ではアルザスロレーヌなどと呼ばれ独仏の争奪戦の舞台となった場所であるが、ヴェステンラント合州国はその資源の重要さに気付いていない。


 それ故、あえて侵攻する意味も薄いこの地域については、主戦線であるとは考えられていなかった。


 しかしながら、そんな油断をしていた兵士を襲うものが。


「な、何だこれ?」


 魔導探知機には無数の光点が浮かび上がっていた。その意味を彼は理解しかねた。


「何だ? 見せてみろ」

「ああ」

「な……」


 愕然として、言葉も動きも止まる。これは無数の敵兵が接近していることを示す合図なのだ。あまりにも見慣れない数だが、間違いない。


「敵だ……」

「何だって?」

「敵が来るんだ! それもすごい数! 早く警報を出せ!」

「――わ、分かった!」


 急いで魔導通信機を起動し、司令部に連絡を付ける。しかし、その次の瞬間――


「砲撃だ!! 伏せろっ!!」


 空を焼き尽くさんばかりの火球が塹壕線を襲った。隠れ遅れた者は焼け死に、辛うじて塹壕の中に退避出来た者も、運が悪ければ球の直撃を受けて死んだ。


 生き残っている者も、死体の焼ける匂いと熱風に、その場で固まっているしかなかった。


「何でこんなことに……」

「さっさと司令部に伝えるんだ! このままじゃまずいぞ!」

「あ、そ、そうだな。今から伝える!」


 ○


 ACU2309 8/24 アルル王国 ブルークゼーレ基地


「閣下! アルゲントラトゥム周辺の防衛線が猛烈な攻撃を受けているとのことです!」


 ザイス=インクヴァルト司令官の元に、血相を変えた伝令が走りこんできた。


「もっと具体的に説明したまえ」

「はっ。敵はおよそ2,000のケントゥリア級魔導士を用い、アルゲントラトゥム正面の塹壕線に砲撃を行っているとのこと。現地からは救援要請が多数出ております」

「ふむ。そうか」


 司令官はそう言うと、おもむろに煙草に火をつけ吹かし始めた。


「か、閣下?」

「まあまあ、落ち着きたまえよ、君。なあ、シグルズ君?」

「ええ。焦る必要はありませんね」

「え、な、どういう……」


 今回はザイス=インクヴァルト司令官やシグルズがおかしいのではなく、司令部の要員は皆落ち着いていた。混乱しているのは南からの報告を真に受けた伝令だけであった。


「塹壕は砲撃に耐える為に造られているんです。砲撃くらいで突破されはしませんよ」

「そ、そうなのですか……?」


 ザイス=インクヴァルト司令官はシグルズの説明に続けて楽しそうに頷いた。この辺りで伝令の兵士もようやく落ち着いてきた。


「し、しかし、敵の攻勢があるのなら、即座に救援部隊を出すべきではないでしょうか?」


 ここからアルゲントラトゥムまでは、軍用の蒸気機関車を使えばものの3時間で行くことが出来る。決して無理な相談ではないし、実際そういう準備も出来ている。


 だが増援を送るべきかどうかは別の話だ。


「シグルズ君、どう思うかね?」

「また僕……まあ、そうですね――これは陽動である可能性があります」

「どうしてそう考える?」

「理由、ですか……」


 正直に言おう。勘である。


 まあ一応、シグルズの頭には第一次世界大戦や第二次世界大戦のことが横切っていたが。と言うのも、両方の大戦で大規模な攻勢が行われたのがいつも低地地方だったのである。


 それが果たしてこの世界にも適用出来る法則なのかは分からないが。


「まあ、その、軍人としての直感と言いますか……」

「直感、か。まあ君の直感とやらの鋭さはローゼンベルクからも聞いているが――まあいい。私も同じことを考えていたからな」


 まさか正解だったとは。やはり異世界だろうと人間が考えることは大して変わらないのだろうか。


「それはまた。しかし、どういう理由でそうお考えに?」

「君とは違い、ちゃんと考えた結果、合州国が取るべきもっとも妥当な作戦が低地地方――つまりはここへの侵攻であろうとの結論を得たのだ。陽動であるとの確信は私にもないが、もっとも可能性が高い危険に予防策を立てるのが軍人というものであろう?」

「もっともです」

「では、そういうことだ、諸君。ヴェステンラント軍はすぐにここに攻勢をしかけてくるだろう。守りを固めたまえ」


 ヴェステンラント軍が陽動を意図していたとする。その目的はブルークゼーレ基地の兵力を薄くすることだ。つまり、ここが空になるまでの時間は待つ筈だ。


 これは使える。敵が確実に黙ってくれているこの時間で万全の準備を整えられる。


 ○


「シグルズ君、少しいいか?」


 ちょうど人もはけてきた頃、ザイス=インクヴァルト司令官はシグルズを呼び止めた。


「はい。何でしょう」

「先程、合州国が取るべき妥当な行動だの何だのと言っただろう?」

「はい。仰っていましたね」

「あれは嘘だ」

「……はい?」


 ――だったらあれは一体全体何だったんだ?


「文字通りの意味だ。私はそんな考察などしていない」

「で、ではどうしてこの攻勢が陽動だと分かったのですか?」

「分かってなどいないぞ?」

「はい?」


 ますます分からなくなってきた。一体この人は何を言っているのだろう。カイテル参謀総長すら元気にやっているのに、耄碌する歳でもあるまいが。


「私はただ、君の直感を信じてみただけだ」

「はい!?」

「何を驚いている。君の直感は当たると私は聞いているぞ?」

「いや、まあ、これまではそうでしたが」


 とは言ってもそう回数が多い訳でもないのだが。


「安心したまえ。これでもしアルゲントラトゥム方面に敵の主力が来た場合でも、責任を取るのは私だ。君には何の被害も及ばないだろう」

「そ、そうですか……」


 今更引き返すことも出来ない。


 シグルズはハーケンブルク城伯軍の宿営地に戻り、機関短銃の訓練などで気を紛らわせていた。自分が言ったことで大軍が動いていると知らされると、途端に気が重くなった。


 さて、吉と出るか凶と出るか。

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