表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
759/1122

渡河作戦

「申し上げます! 先鋒、穴山隊が交戦を始めたとの由!」


 ヴェステンラント軍は相変わらずファランクスを前面に押し出した戦術を採る。その針鼠のように突き立てられた槍は大八州の矢すら簡単に叩き落し、その攻撃を全く寄せ付けなかった。


「それでよい。適当に応戦させた後、すぐに城門から退かせよ。誰も死なぬように戦うのだ」

「はっ……し、しかし、本当によろしいのですか? 安東城の城門と城壁であれば、ガラティア相手に耐え抜くことも能うかと思われますが……」

「儂の言葉は変わらん。敵に怪しまれぬ程度に戦って、城門は捨てよ」

「はっ」


 眞田信濃守の不可解な命令が撤回されることはなく、城門の守備兵はガラティア兵が接近すると早々に引き上げたのであった。


 ○


「ふむ。敵の反撃が止んだようだな」

「そのようです」


 皇帝アリスカンダルとイブラーヒーム内務卿は最前線から少しだけ距離を取ったところから指揮を執っている。当然、大八州側からの射撃がピタリと止んだのはすぐに分かった。


「これは一体、どういうことなのでしょうか。我らに恐れをなして兵が逃げたのか……」

「いいや、それはあり得ぬよ。これは我々を城の中に引き入れようとする罠だ」

「わ、罠、ですか?」

「そうだ。何をする気かは分からんが、またしても隘路で我が軍勢を打ち倒そうと試みているのであろう」

「な、何と……それでは城に攻め込めないではありませんか」

「なら城は落とせないじゃないか。我々にはこのまま城門を破って攻め入る以外の選択肢はないのだ」

「た、確かに……」


 罠が仕掛けられているのは明らか。だがそれでも、ガラティア軍は潮仙半嶋に攻め込む為、この城を落とさなければならないのだ。


「まあ、余計なことは考えるものではない。破城槌を用意せよ。城門を打ち破り、軽装兵とファランクスで突入だ」


 大八洲側からの妨害はなく、簡単に城門は破られた。そして長槍を持った兵士と短剣を持った兵士が並んで突入した。大八洲勢の奇襲に備える為の部隊をしっかりと用意しているのである。


「警戒を最大にしながら進め。家々の合間には気を付けろ。決して気を抜くな」

「はっ」


 兵士達は隠れ場所になりそうなところか少しでもあれば虱潰しに制圧し、極めてゆっくりと進軍していく。が、いつまで経っても敵兵の一人も見つからなかった。ヴェステンラント軍にとっては僥倖であるが、拍子抜けでもある。


「陛下、先鋒が大河に到着しました」

「そうか……。結局、何も現れなかったのだな」

「敵は一体何を考えているのでしょうか。これではまるで、城の半分を明け渡しているようです」

「そうだな。とは言え、川を前にして戦うというのは兵法の常道だ。そうおかしいことではないのではないかな?」

「そ、それはそうですが、それにしても……」


 安東城は中心を流れる大河によって二分されている訳だが、大八洲勢は何の抵抗もせず、河より西側を放棄してしまったのである。


「全軍、大河に到着しました。いかが致しましょうか?」

「陛下! 河の向こうに敵勢が見えるとのこと! その数はおよそ5千!」

「ほう? それが狙いか」


 河を渡る手段は、船を使うか、或いはその中央に一本だけ架かった大橋を渡ることである。そしてその橋の先に大八洲の武士が勢揃いしているというのだ。


「敵は、橋を渡ろうとする我々を狙い撃ちにしようとしているのでしょうか」


 イブラーヒーム内務卿はこの状況から推察出来る当然の帰結を述べた。


「そう見えるな。とても理に適った作戦だ。我が兵は隠れるものもなく、前と左右から大量の矢に貫かれるのだから」

「ど、どうされますか?」

「案ずることはない。ファランクスであれば、矢は防げる」

「しかし、側面からの射撃には、ファランクスは無力です」

「それについては、不死隊に守らせよ。敵が弓でしか攻撃出来ないのならば、不死隊で十分に防げるだろう」

「さ、流石は陛下。すぐにジハードに伝えます!」

「ああ。但し、慎重は期すべきだ。まずは橋の前に陣を敷き、その後、対岸に攻め込む」

「はっ!」


 いよいよ両軍が全面衝突する時がやって来た。


 〇


「ジハード様、ここら辺の地面を焼いてくださいませんか」

「ん? どういうことだ?」


 顔を白い布で隠した少女、不死隊長ジハードは地上の兵士に呼び止められた。


「それがですね、ここら辺の地面がぬかるんでおりまして、柵を立てられないのです」

「表面だけではなく、地面の奥までぬかるんでいるのか」

「ええ、そのようです」

「そうか。河の水が染み込んだのか……まあいい。とにかく、地面を乾かそう」

「ありがとうございます」


 魔女達は地面を火の魔法で焼き、杭を打ち込める程度には乾かした。何となく違和感はあったが、ジハードは特に気にしなかった。魔法の力を使い、劣悪な地面であったが、ガラティア軍は1時間程度で簡易的な陣地を設営した。


『準備は整ったか、ジハード?』

「はい、陛下。いつでもいけます」

『それはよい。ではこれより、渡河作戦を開始せよ』

「ははっ!」


 不死隊が側面を護衛しつつ、ガラティア軍主力は巨大な橋を渡り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ