ノエルの反攻作戦
ACU2314 6/26 ブリタンニア王国 第十一砦
「こんなところで君が出てきてしまっていいのか、クロエ?」
「機甲旅団を足止めすることは、私達にとって大きな意味があります」
砦を眼下にクロエとシグルズは睨み合っていた。確かにクロエが第88機甲旅団を足止めすることが出来れば、ゲルマニア軍の電撃戦を封じることは出来る。
「西側から僕達の20万の兵力が進軍している。それは放置していいのかな?」
「そちらはただの歩兵師団でしょう? 恐るるに足りませんよ」
「歩兵師団と言っても今では全ての師団が戦車を保有しているけどね」
「全体の移動速度は歩兵の足と同じでしょう?」
「ゲルマニア軍の編成をよく分かってるじゃないか」
確かに戦車があっても歩兵が完全に機械化されていなければ、電撃戦のような機動は不可能だ。とは言え、進軍が遅いだけで十分な戦力であることに変わりはないが。
「さて、無駄話はこのくらいにして、どうします? 私達で戦いますか?」
「別にその必要はない。僕は君をここに引き止めておければそれで十分だからね」
「なるほど。私もあなたをここに拘束出来れば十分なので、戦う必要性はありませんね」
互いに互いが戦場で暴れ回るのが嫌なだけであって、決闘をする意思はないのであった。
「だが、いいのか? 君がいなければ、地上では僕達の方が圧倒的に優位だ。総攻撃を仕掛ければ砦も突破出来るだろうけど?」
「それはどうでしょうか」
クロエは魔法の杖を取り出した。
「? 何をする気だ?」
「こうします」
クロエは瞬時に数百の剥き出しの刀身をつくりだした。シグルズは身構えるが、それらが彼に向かって飛んでくることはなかった。それらは城門のすぐ前に針山のように突き刺さったのである。
「歩兵を阻むか……。そういうことをされると、君を排除する理由が出来てしまうんだが?」
シグルズは機関砲を造り出してクロエに向けた。取り回しがいいように単装砲を獲得してきている。
「そうですね。とは言え、こんなことくらい戦いながらでも出来ますが」
「だから排除するんだ」
「ほう」
シグルズは機関砲で撃ち、クロエは剣を投げ飛ばし、決闘が始まった。が、クロエは鋼鉄の盾で砲弾を防ぎ、シグルズは飛んできた刀身を軽々と回避した。
「そんな弾丸では私の魔法は破れませんよ?」
「ほう? じゃあ、貫けるものを用意しようか」
シグルズは某ドイツの虎戦車の主砲、8.8cm砲を造り出す。
「おやおや、随分と大層なものですね」
「これでどうかな?」
魔法で装薬に点火、巨大な砲弾がクロエの盾に直撃し、粉々に打ち砕いた。しかしクロエはひらりと回避し、悠々と空を舞っている。
「攻撃が見え見えですね。それでは当たりもしませんよ」
「そうか……。そういう改良が必要なのか」
いつも通り、決着は着きそうにない。
〇
一方その頃。
「ノエル様、兵が集まりません!」
「は? どういうことだ? 暇な奴らだけ集めればいいんだが」
「そ、それが、ブリタンニア王国側から、防衛線を放棄することに強い反対がありまして、街道警備の部隊を動かせないのです」
「何だって? そいつは困るぞ」
西側の街道を警備する兵士をかき集めて決戦を挑もうとしていたところ、一時的にでも敵を内陸に大きく引き入れるノエルの作戦に、ブリタンニア人が反発しているらしいのである。
「マキナ、こういう時はどうすればいいんだ?」
「それはもちろん、ブリタンニア人と交渉する他ないでしょう。彼らに作戦の価値を認めさせることが出来れば、自ずとノエル様に従う筈です」
「そうか。じゃあ頼んだ、マキナ」
「私はそういう仕事には不向きですので他の方を当たって下さい」
「む、そうか」
そうして適当な人物を国王の許に送り込んでみたものの、何の成果も得られなかった。どうやらこの臨時首都を危険に晒すことが彼らには受け入れ難いらしい。
「――チッ、守ってもらってくる癖に邪魔しかしない連中だな」
「それでしたら、いっそのこと武力で脅してみるのはどうでしょうか?」
ゲルタは特に躊躇いもなくとんでもないことを言う。
「そ、それはマズいだろ。なあ?」
「はい、クロエ様の許可なくしては許容出来ません」
「そういう問題じゃないと思うんだが。とにかく、今でどれくらい兵力を集められる?」
「はい、3,200程度です」
「流石に足りねえなあ……」
敵は半分だけでも10万。いくら重騎兵であっても不安が残る。
「ノエル様、ここはやはり砦を建設し、堅実な防衛戦を行うのが妥当かと思われますが」
マキナはやはりそちらの案を好んでいるようだ。
「だがなあ、それじゃあ勝てないんだ」
「敵の武器弾薬が尽きるまで耐え抜けば、我々の勝利です。それを目的とするのが最も堅実かと思われますが」
「……いいや、やっぱり決戦だ。この山がちな地形を使えば、奴らを返り討ちにすることくらいは出来る筈だ」
「ノエル様がどうしてもと仰るのなら、このマキナもお手伝いしますが」
「ああ、頼む。やってやろうじゃないか、な?」
かくしてヴェステンラント軍は起死回生の決戦を挑むことになったのである。