ゲルマニア軍の上陸
ACU2314 6/26 ブリタンニア王国 高地地方西海岸
シュトライヒャー提督率いるゲルマニア艦隊は高地地方の西に2カ所から上陸を仕掛けようとしていた。提督は旗艦ブリュッヒャーで指揮を執り、アトミラール・ヒッパーはもう一方の艦隊を護衛している。
「提督、海岸に1,000から2,000程度の敵守備隊を確認しました!」
「蹴散らしてしまえ! 戦艦の力を見せつける時だ!」
「はっ!」
海岸に陣地を構えて迎え撃とうとするヴェステンラント軍に対して、ブリュッヒャーは容赦なく砲撃を開始した。6門の主砲から放たれる榴弾は砂浜と大地を抉り、数百の魔導兵が吹き飛ばされた。
「魔導反応消えず! どうやら地下に隠れているようです」
「やはりな。まずは徹底的に炙り出すぞ。見える限り端から端まで、砲弾で耕してやれ!」
「はっ」
執拗な砲撃が続く。ヴェステンラント兵は地下壕を掘って潜伏していたが、流石に戦艦の主砲の直撃を受ければ耐えられず、跡形もなくバラバラになった。とは言え、完全にヴェステンラント兵を殲滅することは出来なかった。
「魔導反応、未だ残っております」
「位置は分からんのか、位置は」
「申し訳ありません。おおよその位置しか分からないもので……」
「まあいい。で、敵の残りは?」
「およそ500です。かなり減らすことは出来ましたが、これ以上は困難であるかと」
「そうだな。砲弾の無駄のようだ」
海岸線はすっかり穴ぼこだらけになっており、これ以上どこを砲撃すればいいのかという状況だ。やはり砲撃だけで敵を制圧するのは不可能なのだ。
「まあ、そこまで敵を減らせれば問題はない。強襲揚陸艦を出せ」
「はっ!」
以前にシグルズとライラ所長が開発した強襲揚陸艦。ゲルマニアは現在これを4隻保有している。この内の2隻が艦隊の中から姿を現した。戦艦より前に出て、ゆっくりと海岸線に近づく。
「上陸艇、発艦せよ」
強襲揚陸艦の前面が大きく開く、内部から小型の鉄船が次々と繰り出される。その上には戦車と40名程度の兵士が載せられ、急速に砂浜へと距離を詰める。そして砂浜に乗り上げ、船の前面が開かれると、戦車を先頭に兵士達が上陸を開始した。
「敵の攻撃のようです」
「うむ、それは覚悟の上だ」
どこに隠れていたのかヴェステンラント兵が現れ、弩で兵士達を斉射する。多くの兵士が隠れるものもなく矢に貫かれ、戦車も次々と炎上してしまう。だが兵士達は飛び交う矢の中勇敢に突撃を仕掛け、兵力差を活かして一気に守備隊を制圧したのであった。
「第一梯団3,000、上陸を完了しました。損害は戦車8両、300名ほどです」
「うむ。許容範囲内の犠牲だ。港を設置し、主力部隊の上陸を開始せよ」
これもブリタンニア島上陸の戦訓であるが、ゲルマニア海軍はどこでも展開出来る人口港を用意している。動力もないただの浮かぶ鉄の塊であるが、物資を上陸させるにはこれで十分だ。ブリュッヒャーに曳航されて港は海岸に乗り上げ、輸送船団の兵士と兵器が上陸を開始した。
「およそ10万か。ヴェステンラント軍はこれに対抗してくるだろうか」
「我々は海の専門家です。陸のことは分かりませんよ」
「それもそうか」
「しかし、ヴェステンラント軍の拠点は陸続きの街道にしか整備されていないようです。海から攻め込む道には砦の一つの整備されていないらしいですよ」
「おお、そうなのか。であれば、一気に押し切れるんじゃないか?」
「恐らくは」
シュトライヒャー提督は後のことは陸軍に任せることしか出来なかったが、この作戦に大きな可能性を感じていた。
○
ACU2314 6/26 ブリタンニア王国 クレイグ・ファトリグ
「ゲルマニア軍が西より2ヶ所上陸して来ました!」
「その数はおよそ10万ずつ!」
「ついに、来ちまったか」
ノエルは冷や汗を垂らす。いくら戦略には疎い彼女であってもこの状況がかなり絶望的なことだけは分かった。
「ノエル様、海側には全く拠点がありません。ゲルマニア軍を食い止める手段はないものかと……」
「だったら、こっちから打って出る。兵力をかき集めて、ゲルマニア軍を叩き潰す。それしかない」
「ノエル様、それは――」
マキナは不愉快そうな声を挟む。
「何だ?」
「我が方から打って出るのは危険が大き過ぎるかと。順当に拠点を建設し防御に徹するべきかと思いますが」
「そんなの時間稼ぎだ。いずれ負ける。私達の方から奴らを潰しに行かないとダメだ。海から来た奴らは補給もないだろう」
「それは、まあ」
確かに陸続きの東側と違って、上陸を仕掛けて来た西側の部隊の補給は貧弱である。一度打撃を与えれば撤退する可能性は高い。
「2つの方向から敵が迫ってるんだ。今は兵を分散させない方がいいんじゃないか?」
「……確かに、ノエル様の仰ることにも一理あるようです」
ゲルマニア軍は全く防御の整っていない2方面から攻め込んで来る。これを撃退するのにこちらから積極的に攻撃するというのは現実的な策だ。無論、決戦に敗北すれば全てダメになる危険性はあるが。