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大攻勢Ⅱ

「申し上げます! 第十三砦、陥落したとのこと!」


 その報告は魔導通信によって直ちにクロエに届けられた。


「……はい? ついさっき戦闘を開始したと報告があったのですが?」

「そ、それはそうなのですが……」

「まさか、たったの二時間程度で陥落したと?」

「そのようです……」


 クロエとしては最新の知見を取り入れた要塞で、少なくとも3日間くらいは耐えられると思っていた。それがほんの数時間で陥落したと言う。全く以て想定外だ。


「どうやら、計画を見直す必要がありそうです。第十二砦にもう援軍を送ってください。どうせ彼ならばすぐに攻めて来ます」

「はっ!」


 第十三砦の一つ奥にある第十二砦。ここにゲルマニア軍が攻め寄せて来るのは明白。クロエは事前に手を打っておくことにした。が、その数時間後であった。


「殿下、第五砦に敵軍が襲来しました!!」

「なっ……そっちの道にも敵が?」

「はい。そのようです」

「まあ確かに、機甲旅団は3つはありましたね。それぞれで暴れ回っているということでしょうか。……舐められたものです」


 クロエも大分何が起こっているのか把握出来てきた。彼女を混乱させるのは結局のところ機甲旅団であり、そしてどうやら機甲旅団は1個だけでヴェステンラント軍の砦を突破し得る戦力を有しているようだ。


「クロエ様、いかがされましょうか?」

「ああ、マキナ、いたんですか」

「はい。援軍を両方の道に差し向ければ、どちらも負ける可能性があります。しかし片方を完全に捨てる訳にもいきません」


 マキナは素っ気なく言うが、なかなか酷い話である。


「つまり、どうしようもないんじゃないですか」

「必勝の策などはありません」

「はあ……。決めるのは私、という訳ですか」

「はい。全ての決定権はクロエ様に帰属します」

「そう言われましてもね」


 防衛線はもう築かれている。後は兵力をどう配置するか。敵は2方面から圧倒的な速度で攻め寄せて来る。片方に戦力を集中させるか、両方に分散させるか、それが問題である。


「…………どの道、この臨時首都まで攻め込まれたら終わりです。片方を捨てるなんて選択肢は論外です」

「それでは兵力を分散させますか?」

「ええ。但し、片方はスカーレット隊長に守ってもらい、もう片方は時間稼ぎに徹することとします」

「……恐れながら、スカーレット隊長は近頃失敗することが多いです。信用されてもよろしいのですか?」


 マキナは珍しく個人批判などをする。クロエは驚いたが、今回はちゃんと信じられる理由がある。


「ブリタンニアでの作戦は、どれも最初から無理のあるものでした。最初から勝ち目の薄い作戦を立てた私の責任です。しかし今回は、勝てる見込みが十分にあります。そういう状況ならば、スカーレット隊長は必ずや期待に応えてくれるでしょう」

「……そうですか。殿下がそう仰るのなら、その通りにしましょう」

「不満ですか?」

「あまり一人を贔屓にすることは、古今東西で家中の不和を招くものです」

「ええ、心得ていますよ」


 クロエはザイス=インクヴァルト大将の攻勢に対して可能な限りの対応を取ったと言えるだろう。


 ○


 ACU2314 6/23 ブリタンニア王国 第五砦


「シグルズからの報告通りだな。土の壁で道を完全に塞いでやがる」


 こちらの街道から攻め込むのはオステルマン中将率いる第18機甲旅団である。


「はい。戦車砲であれを破壊するのは不可能です。となれば、歩兵で制圧するしかないでしょう」

「そうだな。ま、それしかないんだ。とっととやっちまおう」


 オステルマン中将はエドウィンスバークでこれと同じものを相手にしているし、つい先ほどシグルズが別の砦を破った報告も受けている。どうすればこれを落とせるかはもう分かっているのだ。


「戦車で歩兵を守りつつ、全速力で城門を突破しろ。いいか、何があっても怯むなよ。ビビっている奴から死ぬからな」

「はい。そのように通達します」


 足を止めた者から死ぬ。これは真理だろう。


「全軍、突撃!」


 オステルマン中将は自分で戦いたかったが、ザイス=インクヴァルト大将に釘を刺されて、後方から指揮を執るだけである。


 戦車隊は榴弾砲で敵を牽制しながら前進、徹甲弾で城門を打ち破り、歩兵隊が一斉に雪崩れ込む。が、暫くすると砦に突入した兵士が逆に逃げ出して来た。


「おい、ハインリヒ、どうなってる」

「わ、分かりません。どうも情報が混乱していまして……」

「まあいい。一度立て直せ。城壁を撃ちまくっておけば向こうからは撃てないだろう」

「はい、承知しました」


 こういう時こそ冷静に、オステルマン中将は門の外で態勢を立て直すように命じた。同軸機銃と小銃で城壁を撃てば、流石のヴェステンラント兵とてそう簡単に射撃は出来ない。戦況は一旦落ち着きを見せた。


「さて……中で何があった?」

「どうやら敵の魔導兵が我々を待ち構えていたようです。向こうから打って出て来たと」

「なるほど。二度も同じ手には引っかからんという訳か」


 敵は白兵戦を前提に待ち構えており、返り討ちにされてしまったようだ。これは困った。

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