大攻勢
ACU2314 6/23 ブリタンニア王国 クレイグ・ファトリグ
「殿下、ゲルマニア軍が動き始めました!」
「もう来ましたか……。各城塞、砦には一層奮戦するように伝えてください」
ゲルマニア軍が動き始めた。高地地方の通じる2本の街道からそれぞれ、クロエや国王のいるクレイグ・ファトリグに向けて進軍を開始したのである。
「さて、戦況は予断を許しません。情報はとにかく早く伝えるように――」
「で、殿下! 第十三砦より報告です!」
「おや、何でしょうか?」
クロエはこんなブリタンニアの田舎の地理など分からない為、各拠点には分かりやすく番号が振ってある。
「たった今、第十三砦にゲルマニア軍が襲来、戦闘状態に入ったとのことです!!」
「んなっ、そんな馬鹿な。ついさっきゲルマニア軍が動き出したのでは……?」
「い、いえ、間違いなどはありません! 第十三砦は救援を求めてきております!」「……分かりました。では一番近い、第三駐屯地より援軍を向かわせてください。明日には着くはずです」
「はっ!」
どんな状況にも対応出来る。クロエにはその自信があった。
○
「クソッ。何て堅い砦だ」
「これがエドウィンスバークで確認された土塁のようだな」
シグルズ率いる第88機甲旅団は歩兵師団を置き去りにして最速で前進。あっという間にヴェステンラント軍が構える最初の砦に到達した。砦は細い道を完全に塞ぐ土塁を中心に構成されており、迂回することも出来ない機甲旅団にとっては真正面から突破する以外に道はない。
シグルズは威力偵察に戦車隊で攻撃を仕掛けたが、土の壁は全く壊れる気配もなく、ヴェステンラント側の反撃で既に数両の戦車を失ってしまった。
「し、シグルズ様、どうするのですか……?」
「考え中だ。とは言え、単純な作りなだけに落とすのは簡単ではなさそうだね」
単純ということは隙が無いということだ。シグルズがよくやる小賢しい作戦は今度ばかりは通用しなさそうである。
「師団長殿、時間を取られる訳にはいかない。ヴェステンラント軍は必ず、すぐに援軍を送って来るだろう」
「ああ、確かにな。それは問題だ」
砦の規模自体は小さなものだ。援軍を前提としているのか、或いは完全に時間稼ぎの為だけのものなのか。いずれにせよ、時間を取られることはヴェステンラント軍の――クロエの思う壷であることは間違いない。であれば、迅速にこの砦を落とさねばならない。
「し、しかし、素早く落とすとは言っても、一体どうすれば……」
「方法なら、ある。結局のところ、早さっていうものは、損害と反比例するものだからね」
「と、言いますと……?」
「損害を顧みずに全力で突撃すればすぐに落とせるってことだよ」
「そ、それは、大変ですね……」
「とは言え、機甲旅団の任務はまだまだ残っている。ここであまりにも大きな損害を受けるのも、好ましくはないな」
「そうだなぁ」
時間と兵の損失は負の相関関係にある。が、機甲旅団は今どちらも欲しい。何とも悩ましい状況である。
「よし、決めた。時間と損害を同時に抑えることは出来ない。まずはどちらを優先させるべきか決めよう」
シグルズは決めた。悩んでいる時間こそが一番無駄な時間である以上、直ちに結論を出すしかない。真っ当な論理的な帰結だろう。
「であれば、優先すべきは時間だな。我々が壊滅しても、他の部隊が敵の首都まで落としてくれるだろう。我々は敵を混乱させることに尽力すべきだ」
「……そう、だな。幕僚長の言う通りだ。これより総攻撃を仕掛け、一気に敵の砦を落とす。全軍、戦闘配置!」
損害を顧みない突撃。シグルズはそれを決断したのであった。
「戦車隊及び歩兵隊、突撃を開始せよ!」
機甲旅団は攻撃を開始した。装甲車は後方に待機し、戦車と歩兵が並んで全速力で突撃する。今回、シグルズは後方から指揮を執ることにしていた。
「敵軍が攻撃を開始しました!」
「怯むな。何があろうと敵の防壁まで辿り着くんだ」
「はっ……!」
こんな山間部に弩砲を運び込むことは出来なかったようであるが、弩からの攻撃だけでも十分な脅威である。歩兵はそれを防ぐ手段が全くなく、戦車も上から狙われると撃破される可能性がある。
たちまち兵士達は矢に貫かれ、戦車も次々と炎上していく。だがシグルズに退く気は全くなかった。もう決めてしまったのだから。
「やはり敵の兵力は少ないようだ。我々の突撃を食い止められる火力はないと見える」
「ああ、そうだ。戦車隊、徹甲弾で城門をぶち破れ!」
土壁には吸収されてしまう徹甲弾だが、鉄の城門は数発で完全に破壊することが出来た。車両が入れるほどの大きさはない、ほんの小さな扉である。
「歩兵隊、突撃せよ! 敵を制圧するんだ!」
歩兵は狭い門から砦に突入。突撃銃や機関短銃を用いて迅速に敵を制圧していった。ただの魔導兵相手ならば今や接近戦に持ち込んだ方が有利なのである。激しい戦闘の末、銃声が止んだ。
「周辺の魔導反応が消失しました! 私達の勝利です!」
「全軍、よくやってくれた」
「損害はさして大きくないようだ。完勝と言ってもよいのではないか?」
かくして第88機甲旅団はあっという間に砦を制圧し、機甲旅団の脅威をヴェステンラント軍に知らしめたのであった。