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エドウィンスバーク陥落Ⅱ

「ノエル様! 敵がこちらに迫っております!!」

「何だと!?」


 エドウィンスバーク北部を敗走するヴェステンラント軍。その側面にゲルマニア軍の機甲旅団が迫っていた。


「敵は機甲旅団です。我々の足では、とても逃げきれません……」

「クッソ……」


 ヴェステンラント軍には騎兵もいるが、多くは歩兵である。故にその移動速度は人間が歩く速度がやっとなのだ。完全に機械化された機甲旅団の前には逃げることすらままならない。


「迎え撃ちましょうか……?」

「今の状態では勝てない。却下」

「し、しかし、それではどうなさるおつもりなのですか?」

「そんなの分かるか!」


 状況は絶体絶命。ノエルには全く勝てる未来が見えなかった。


「ノエル様、こうなれば、騎兵だけを逃がしてその他は降服させるしかありません」


 ゲルタは言った。


「半分以上を見捨てるのか?」

「はい。戦って全滅するよりはよほどその方がいいです。重騎兵さえ生かしておけば、何とかなります」

「それはそうかもしれんが……」

「ノエル様! 敵はまもなく攻撃してきます! 一刻も早く決めなければならないのです!」

「お、おう、分かった。……重騎兵だけを逃がすぞ! 馬に乗れ! 他の者はゲルマニア軍に降伏して構わん!」


 ノエルは決定した。重騎兵だけを逃がし、他は見捨てると。馬に乗れる者は馬に乗り、空を飛べる者は空を飛び、歩兵らを置いて全速力で敗走するのであった。


 ○


「師団長殿、どうやら敵は降服するらしいぞ」

「何? 本当か?」

「間違いありません。敵は降服を申し出てきています」

「奴らがそんな素直になるのか……。まあいい。降伏するのならば丁重に扱え。危害を加えたりするなよ」

「はい!」


 第88機甲旅団は捕虜の収容を開始した。が、すぐに分かったことがある。


「シグルズ様! 更に北に多くの魔導反応があります! しかもかなりの速度で離脱しているようです!」

「何? ということは――」

「騎兵だけ逃がして歩兵は捨てた、ということだな。薄情な連中だ」

「そういうことだよな」


 シグルズはすぐにノエルの思惑に感付いた。最も厄介な敵はまんまと逃げおおせようとしている、ということに。


「今すぐ騎兵を追うんだ。機甲旅団なら追いつける」

「で、ですが、シグルズ様、捕虜を護送しなければなりません」

「あ、そうか」


 ノエルは考えていなかったが、彼女の作戦には思わぬ効果があった。歩兵を捕虜に取らせることで、ゲルマニア軍の動きが拘束されるのである。ゲルマニア軍がもっと大軍勢であったら大した影響は受けなかっただろうが、人数としては6,000人程度の機甲旅団にとっては大きな足枷である。


「クソ……重騎兵をまんまと逃がす訳には……」

「師団長殿、それは無理だな。捕虜を今すぐ殺せば不可能ではないが」

「それは――いや、ダメだ。そんなことは許されない」


 シグルズは結局、降伏して来た兵士達の対応で動くことが出来ず、ヴェステンラント軍の精鋭部隊にはまんまと逃げられてしまったのであった。かくして、エドウィンスバークは完全にゲルマニア軍の支配下に入った。


 ○


 ACU2314 6/12 ブリタンニア王国 高地地方 クレイグ・ファトリグ


 ノエルが王都防衛を行っている間にクロエが何をやっていたかと言うと、北部山岳地帯に国王や大貴族達を護送し、大規模に防備を整えていた。山岳地帯一帯を要塞化し、ゲルマニア軍の侵攻に備えようという大計画である。


「クロエ殿、食糧の備蓄も心許ない。早いうちに兵を減らしてくださらなければ、とても戦いどころではありません」

「ええ、分かっています。なるべく早く本国に兵士を返します」

「頼みますぞ……」


 ブリタンニア最北部の高地地方。この辺りは総人口が50万人程度であり、5万人を支える負担はとても担えない。ヴェステンラント軍は兵力を減らす必要があった。


「主要な街道の要塞化が終われば、少数の兵士でも十分に時間を稼ぐことが出来ます。その工事が終わるまでもうしばらく待ってください」

「分かりました。1日でも早く作業が終わることを期待しております」


 山深いこの土地。防備を整えれば機甲旅団の攻撃すら防ぐことが出来ず筈だ。


「クロエ様、ご報告です。エドウィンスバークは陥落、ノエル様は北に向けて敗走したとのことです」


 前触れもなく現れたマキナは、エドウィンスバークの戦いの報告をする。


「そうですか。兵力は逃がせたのですか?」

「重騎兵、コホルス級の魔女達は逃がせたようです」

「それなら十分です。寧ろ兵力削減になりますから」


 実のところ歩兵をゲルマニア軍に押し付けられたことは、クロエにとっては渡りに船であった。


「ノエルには高地地方に向かうように伝えてください。平野部はもう放棄します」

「承知しました。そのように伝えます」


 マキナは颯爽と姿を消した。


「クロエ殿、先程は時間稼ぎと仰りましたが……」

「おっと、それは失礼を。この堅固な山々であれば、必ずやゲルマニア軍を撃退することも出来ますよ」


 ブリタンニア王国本来の大義であったブリタンニア島再統一は、今や空文と化していた。

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