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エドウィンスバーク陥落

「ノエル様、申し上げます! 南方より侵入した敵軍は、我が軍の防衛線を突破! ここに迫っております!」

「……そうか。分かった。下がれ」


 市内に侵入した機甲旅団を撃退するのは完全に失敗した。彼らは今や全く自由に王都を闊歩している。


「ノエル様、敵軍がここに襲来するのも時間の問題です。背後から攻撃されれば、この城壁は完全に無意味です」


 ゲルタはそう告げる。壁の反対側など、兵士達も兵器も丸見えの丸裸である。機甲旅団に背後から攻撃されればひとたまりもなく壊滅するだろう。


「……そうだな。よし、撤退だ。エドウィンスバークは放棄! 全軍、北門を通って脱出しろ!」

「恐れながら、王都を捨てられるのですか……?」

「ああ、捨てる。無理なもんは無理だからな」


 かくしてヴェステンラント軍はエドウィンスバークを放棄、撤退を開始した。


 〇


 ACU2314 6/10 エドウィンスバーク 王宮


 一方その頃、第88機甲旅団は敵のいない不気味なほどに静まり返った市街地を抜け、王宮に到着していた。


「さて、国王が捕まるかな」

「別に捕まえられなくてもいいんだ。あの軟弱な国王をビビらせることが出来れば、それで十分だよ」

「なるほど」


 国王だけではなくブリタンニア王国が惰弱な政権であることは誰の目にも明らかだ。そこで、いつでも王宮を襲撃することが出来る力を示し、彼らの戦意を挫くのが、シグルズの作戦である。


「シグルズ様、突入の用意が整いました!」

「よし。全軍王宮に突入。抵抗する者以外は傷付けず、必ず丁重に確保せよ。作戦開始!」


 人質を確保するのも目的のひとつだ。無抵抗の人間には決して危害を加えないことを厳命し、シグルズは第88機甲旅団の兵士を王宮に突入させた。


「我々は外で待機か。つまらんな」

「戦争に面白さを求めないでくれ……。まあ、何か緊急事態があったら僕達も突入するがな」

「敵はどう出るか」


 やがて各小隊から目標の建物を制圧したとの報告が立て続けに入る。報告は最初から最後まで、そのようなものだけであった。


「シグルズ様、これで王宮を完全に制圧したことになります。何の成果もありませんでしたが……」

「そんな馬鹿な。隠し通路でもあるかもしれない。特に1階を重点的に捜索させるんだ」

「はい!」


 ダキアでは王宮に仕掛けられた隠し通路から何度も要人の脱出を許している。ここにもそういう仕掛けがあるのかとシグルズは全力で捜索を行わせたが、それらしきものは全く見つからなかった。


「本当に、もぬけの殻なのか……」

「これは流石に意外だな、師団長殿」

「まったくだ。ここは敵の王都の筈なんだがな」


 結局、王宮からは何も見つからなかった。ただ無駄に広い建物があるだけで、中にはロクな調度品も人間の一人もおらず、第88機甲旅団は結果的に全く無意味に時間を空費してしまった訳だ。


「ど、どうなっているのでしょうか……。国王は一体どこに?」

「師団長殿、これは推測だが、敵にとってエドウィンスバークは捨て石だったのではないか? ここで時間を稼ぎ、更に北で抵抗を行うつもりなのかもしれない」

「そうだな。そうとしか考えられない。やられた……」


 エドウィンスバークをあえて落とす意味はなかったということだ。今回はヴェステンラント軍に一本取られたらしい。


「とは言え、ここは経済的に見ればブリタンニア第二の都市だ。ヴェステンラント軍とて戦争を継続することが困難になるだろう」

「北部は山岳地帯だしな。ヴェステンラント軍の数万程度の兵力ですら支えられない可能性が高い」


 魔法で食べ物を作ることは出来ない。既に輸送船を大量に撃沈されているヴェステンラント軍は、食糧については現地の傀儡に頼るしかないのである。ヴェステンラント軍の兵力は5万前後であり、これまではブリタンニア王国でも支えることが出来た。


 しかしエドウィンスバークなどの平野を奪われれば、残るは北部の山岳地帯のみ。断固として抵抗を続けるには理想的な土地だが、収穫は期待出来ない。5万もの人間を養うことは、恐らく不可能だろう。


「シグルズ様、敵軍が大規模に移動しています! 東の防衛線を放棄しているようです!」


 その時、ヴェステンラント軍の大移動をヴェロニカは探知した。


「分かった。敵はエドウィンスバークを捨てるようだね。で、敵はどういう風に動いている?」

「エドウィンスバークの北部を通って西に抜けようとしているようです」

「なるほど」


 東と南はゲルマニア軍に押さえられている。北回りで西に脱出しようとするのは妥当な判断だ。


「となると……僕達なら仕掛けられるな」


 シグルズは市街地の地図を眺めながら悪魔的な笑みを浮かべる。


「師団長殿もそう考えるか」

「ああ。オーレンドルフ幕僚長はどう思う?」

「私達に損害が出ない範疇でなら、襲撃を仕掛けるのはありだろう」

「そうだな。ここで損耗しては意味がないな。深追いはせずに奴らを襲撃しよう」


 ヴェステンラント軍は横に伸びて大急ぎで撤退している。そしてその脇腹を突ける位置に第88機甲旅団はいる。これは殴りかからざるを得ないだろう。

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