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エドウィンスバーク攻防戦Ⅱ

「敵の動きはずっと見ていた筈だ。南の森から敵が来るなんてあり得ないって話だったよな……?」

「お、恐れながら、それは何とも……」

「ノエル様、まずは現状を精確に把握しましょう。敵の兵力、戦力、分かっている限り報告を」

「はっ。敵の兵力は1万に満たない程度。しかし多数の戦車を有しており、その数は500を超えているものかと」

「機甲旅団……」


 その量の戦車を保有している部隊は機甲旅団しか存在しない。これまで1個の機甲旅団しか確認されておらず、残りはここまでの戦いで損耗して動けないものかと思われていたが、まさかこんな手品のような方法で現れるとは、夢にも思わなかった。


「ゲルタ、一体何がどうなってるんだ?」

「この状況で考えられるのは、ゲルマニア軍の機甲旅団が森の中を突破して攻め寄せて来たとしか」

「あんな森の中を戦車が通れるのか?」


 未開発の原野や森林が残るブリタンニアでは、街道以外を通過するのは難しい。車両ともなれば猶更だ。その筈だったのだが、どうもゲルマニア軍はヴェステンラント軍の予想を完全に覆してきたようだ。


「ブリタンニア人の協力があれば、戦車が通行可能な道を通り抜けることも可能かもしれません」

「クソッ。こっちにもブリタンニア人が味方してるだろ」

「それは……。ともかく、敵は来ました。これが事実です。すぐに対処をしなければなりません!」


 敵がどうしてそこにいるのか追求している暇はない。現実に起こっていること全てなのだ。


「ノエル様、東側以外の城壁は、今までの城壁のままです。これでは機甲旅団の攻撃を撃退出来るとは……」

「申し上げます! 敵勢、城門を突破!! 市内に侵入しております!!」

「は、早過ぎるだろ……。偵察は何をやってたんだ!」

「落ち着いてください、ノエル様。すぐに重騎兵を向かわせましょう。敵はそう多くはありません。落ち着いて戦えば、勝てます」

「わ、分かった。すぐに重騎兵を向かわせろ! 奴らを追い払え!」


 すぐにおよそ3,000の重騎兵が機甲旅団を撃退しに向かった。


 ○


 その機甲旅団というのは当然、シグルズ率いる第88機甲旅団である。深い森を通ってエドウィンスバークに奇襲を仕掛け、敵が混乱しているうちにほとんど抵抗を受けず城壁の内側に侵入することに成功していた。


「シグルズ様、魔導兵が数千、急速にこちらに向かっています!」

「やはり来たか。全軍、陣形を整えろ! 敵を迎え撃つ!」


 市街地に侵入した機甲旅団は街路を塞ぐように戦車を並べ、敵を迎え撃つ用意を整えた。


「重騎兵相手に市街戦か。我が国始まって以来のことではないか?」


 オーレンドルフ幕僚長は微笑みながら言う。


「言い方が大げさだな……。確かに市街戦では距離を取って迎撃することが難しい。その点では不利だな」

「うむ。それが分かっているのなら結構だ」

「まったく、君は僕の部下なんだから、もう少しそれらしく口をきいてくれ」

「部下だからこそ忠告したまでだ」

「はあ……」


 確かに市街戦が有利なのはヴェステンラント軍の方だ。白兵戦に持ち込まれたら機甲旅団に確実に犠牲が出るのだから。それに懐に入られれば戦車も使えない。


「敵軍接近! 距離300パッスス!」

「そこまで来ても見えないか……」

「だから言っただろう?」


 敵の馬が駆ける音は聞こえるが、その姿を捉えることは全く出来ない。市街戦は何度か経験があるが、重騎兵を相手にするとこれがかなり腹立たしい。


「……あ、来ました!!」


 曲がり角の先から数百の重騎兵が姿を現した。


「撃ち方始め! 敵を近寄らせるな!!」


 道を綺麗に埋めるように配置された戦車隊。その同軸機銃が一斉に火を噴き、たちまち重騎兵の刈り取っていく。今回の敵は盾を持っていないようで、思いの外簡単に死体を積み上げていた。


「この調子だ。このままいけば――」

「シグルズ様、増援です! まだ来ます!」

「そう簡単にはいかない、か」


 ヴェステンラント軍もそう簡単に諦める気はないようで、死体の山を飛び越えて際限なく兵士を投入してきた。機関銃でも押さえ切れず、黒い鎧の兵士が陣地に迫る。


「歩兵隊、敵を追い返せ!」


 まだ突撃銃を持った兵士達は何もしていない。彼らはシグルズの命令と同時に射撃を開始し、接近する魔導兵を対人徹甲弾にて次々と貫いていった。


「ん? シグルズ様、横から、横から来ます!!」

「何!?」


 ヴェロニカがそれに気づいた時には、陣地の中に突如として現れた魔導兵が暴れ回って装甲車を次々と破壊していた。爆発音と爆炎が指揮装甲車にも押し寄せる。


「どうやら、建物の中から回り込まれたようだな」

「……そのようだ。歩兵隊、侵入した敵を排除せよ! 情けは不要だ!」


 こんな小細工は機甲旅団には通用しない。歩兵はすぐに態勢を整えると魔導兵を囲い込み、逆に魔導兵を追い詰めて撃滅、侵入された通路を封鎖したのであった。


「さて……これなら勝てるかな」

「ああ。これなら勝てる。奴らも焦っているようだな」

「ふう。全軍、気を抜くなよ!」


 やがて千を超える死体を積み上げたところで、ヴェステンラント軍は攻撃を諦めた。ゲルマニア軍に出た損害は300程度に過ぎなかった。

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