エドウィンスバーク攻防戦
ACU2314 6/7 エドウィンスバーク
「ほう。随分と面白いことになってるじゃないか」
「はい。対戦車戦に、ここだけは備えているようですね」
早くもエドウィンスバークに到達したゲルマニア軍、合計30万。だが到着したエドウィンスバークは、これまでに見た他のどの城塞都市とも違う様相を呈していた。
「壁が低く、厚い。これでは徹甲弾ですら有効だとなるか怪しいものです」
「しかも素材は土と来た。城壁を破壊するのはまず無理だろうな」
エドウィンスバークを守る城壁は低く厚い土壁である。例え魔法の援護がなかったとしても破壊することは困難、増してや魔法で修理が常に行われるとなれば、最早破壊は不可能だと言える。ヴェステンラント軍としては初の近代的な要塞、それがエドウィンスバークなのだ。
「閣下、いかがしましょうか。これでは城門を強行突破するくらいしか取れる手段がありません」
「そうだなあ、ハインリヒ。ならそうするか。全軍で城門に総攻撃だ」
「大きな犠牲が出ることは覚悟の上、ですか」
「そうだ。城攻めとは、本来そういうものだからな」
「確かに、これまで我々は楽をし過ぎたようです」
城攻めは大きな犠牲が出るものだし、そうでなければ城というものに存在意義がない。
「迷っている暇はない。用意が整い次第、全軍で総攻撃を仕掛けるぞ。但し機甲旅団は温存だ」
「はい。承知しました」
かくしてゲルマニア軍の歩兵師団は、東門への総攻撃を開始した。
〇
一方、城を守るは赤の魔女ノエルであった。先の戦いで左腕を吹き飛ばされた彼女ではあるが、魔法で傷口を塞ぎ、早々に戦場に復帰している。
「申し上げます! ゲルマニア軍、総攻撃を開始しました!」
「来たな。全軍、城門には指一本触れさせるな!」
「はっ!」
今回は戦車対策も万全だ。ノエルには守り切れるがあった。ノエルはいつものように最前線に足を運び、厚い城壁の上に陣を敷いた。城壁の上には兵士達を守る土と鉄の壁があり、魔導兵はそこに開けられた狭間から弩の狙いを定める。
「敵戦車隊、接近してきます!」
それと同時に数十の重い爆音が響き渡る。戦車は城壁への砲撃を開始したのだ。たちまち砲弾が城壁に飛来する。
「殿下、お下がりを!」
「大丈夫だ。そうだろう、ゲルタ?」
「は、はい。理論上は耐えられる筈です」
「だったら大丈夫だ。私は動かん」
腕を吹き飛ばされてもノエルの勇敢さは相変わらずであった。と、その時、恐らくノエルの目の前の防壁に徹甲弾が着弾した。激しい振動はノエルの足元を揺らす。
「っ……」
「た、耐えた……」
土壁の後ろに鉄の壁を貼り付けたこの防壁。ゲルダの想定通りの防御力を発揮することが出来たのであった。
「よーし。反撃だ! 弩砲、放て!」
城壁の下部には複数の弩砲が巧妙に隠されて配置されており、ゲルマニアの戦車に密かに狙いを定めている。ノエルの号令と共に、一斉に矢が放たれた。
「敵戦車、撃破5です!」
「いい調子だ。このまま撃ち続けろ」
矢の半分は戦車の装甲に突き刺さって止まってしまったが、もう半分は燃料槽まで貫き、戦車を炎上させた。
「敵の勢い衰えず、止められません!」
「弩砲だけじゃ無理か。歩兵隊も撃ち方始め! 戦車の上を狙えよ!」
戦車を貫く新式弩。城壁の上から一斉に射撃を開始する。矢は戦車の上から降り注ぎ、比較的装甲の薄い上部を貫く。
「撃破8! これならいけます!」
「そのまま気を抜くなよ。撃ち続けろ!」
数十の戦車が炎に包まれ、数百の死体を野に晒し、ゲルマニア軍の勢いはついに挫かれた。
「ゲルマニア軍、撤退しています!」
「よくやった。やっぱり事前の準備は大事だな」
一先ずヴェステンラント軍は、ゲルマニア軍に対抗し得る力があることを彼らに示したのであった。
「ゲルタ、こんな感じでいいんだよな?」
「はい、ノエル様。城壁は事前の想定通り機能しています」
「ならよかった。流石だよ、ゲルタ」
「お、お褒めに預かり、光栄です」
この低く厚い城壁を考案したのはゲルタである。自然科学への知識と思考力があってこその設計だ。
「これなら勝てると思うか?」
「それは分かりません。ゲルマニア軍が犠牲を顧みずに突撃してくれば、ここも突破される可能性があります。そうなったら、防衛線はもうありませんから、負けです」
「そうか。なら何としてもここを守らねえとな」
「はい、その通りです」
急ごしらえの為、この城壁はこれだけだ。突破されれば後はない。ヴェステンラント軍は当然のことながら、守備隊1万のほとんどを東門に集中させていた。
〇
3日後。
「ゲルマニア軍、撤退していきます!」
「再び我が軍の勝利です!」
「喜ぶのはそこそこにしとけよ。ゲルマニア軍の戦力はまだ全く減っていないぞ」
ノエルは今回は冷静であった。ゲルマニア軍は攻撃と撤退を度々繰り返しているものの、損害の合計は1個師団分にも満たない。本気で落としにかかっているとは思えないのだ。
その時だった。
「殿下! 一大事です! 南門より、敵軍が襲来しました!!」
「何? 馬鹿なっ!!」
道は1本しかない筈。ゲルマニア軍が南から現れるなどあり得ないことだ。