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エボラクム防衛戦Ⅲ

「ど、どうするおつもりですか、大佐殿」

「赤の魔女には傷を治す力はありません。お供の魔女も大した能力はないでしょう。であれば、一撃で致命傷を与えれば撃退出来る筈です」

「い、一撃で致命傷……」

「ええ。ですので、この銃を使います」


 ヒルデグント大佐はずっと腰に提げていた回転式拳銃を取り出す。


「このリボルバーの威力は、手足の一つや二つ簡単に吹き飛ばせるものです。これを当てれば、私の勝ちです」


 突撃銃や機関短銃、機関銃や機関砲などの自動火器は発射の反動を利用して自動で装填を行う。その為、想定された規格から外れた弾薬を使うことは故障の元である。しかしそういう装置とは無縁なリボルバーならば、銃が物理的に耐えられる範囲において装薬の量を自由に調節することが出来る。


 そして、ヒルデグント大佐お気に入りの回転式拳銃は彼女が目一杯火薬を注ぎ込んだ特殊な弾薬を使い、他の銃器にない圧倒的な破壊力を有しているのだ。まあそのせいで反動が大きく、連射は出来ないのだが。


「さて、一度きりの逆転の機です。やりますか……」

「大佐殿……」


 ヒルデグント大佐は装甲車の側面から僅かに顔と銃口を出し、ノエルを狙う。ノエルは落ち着きのない様子で飛び回っており、狙いを定めるのは容易なことではなかった。


「外したらここがバレて、私達は黒焦げにされるでしょうね」

「そ、そんな縁起の悪いことを言わないで下さいよ……」

「自分への発破です」


 目に垂れ落ちるほどの冷や汗をかきながら、ヒルデグント大佐は慎重に照星と照尺をノエルの体に重ね合わせた。


 ――動きが止まった!


 ノエルが動きを止めて滞空したと見るや、ヒルデグント大佐は引き金を引いた。


「よしっ! 当たった!!」


 弾丸はノエルの左腕を貫いた。否、貫いたというより、命中した場所が破裂したと表現するのが正しいだろう。ノエルの腕は肘から先が軽々と吹き飛んでいた。


 ○


「な、なに……が……」


 ノエルはただ呆然と、半分が失われた自らの左腕を眺めていた。どす黒い血が滝のように流れ落ちているのが見えているのに、彼女の頭はその意味を全く理解出来なかった。


「ノエル様っ!!!」

「…………」


 ノエルはすぐに気を失って地面に落ちた。ゲルタはその体を抱え上げ、一目散に空に向かった。


「こんなに血を失っては命の危険が……早く本陣に連れ戻さないと……」


 ノエルとゲルタは逃げ帰った。総司令官を失ったことにより、既に大損害を負っていた軍勢もまた攻勢を停止せざるを得ず、都市の外で包囲する構えに戻ったのであった。


 ○


「ふう……どうやら、我が軍の勝利のようですね。私達は大きな犠牲は払いましたが、敵を撃退することに成功しました! この勝利を祝いましょう!」

「「おう!!」」


 エボラクムに勝鬨が響き渡った。もうヴェステンラント軍が攻めてくることはないだろう。後一歩のところでゲルマニア軍は耐え抜き、エボラクムを守り抜いたのだ。とは言え、ヒルデグント大佐本人は喜んではいられなかった。


「損害は? どれほどですか?」

「はい。第89機甲旅団だけで、およそ1,300の兵を、失ってしまいました。第11師団については、まだ集計中です」

「そうですか。壊滅的な損害、と言わざるを得ませんね。勝利にはこれくらいの代償が必要だったのでしょうか」


 ヒルデグント大佐の斬り込み戦術。これは盾で完全武装した重歩兵を撃退する最も有効な作戦だった訳だが、当然ながら白兵戦を最も得意とする魔導兵に白兵戦を挑むことになる為、ヒルデグント大佐並みの体術が無ければ死ぬか殺すかは運次第なのである。


 3分の1の兵が失われれば全滅とよく言われる。定数6,000の機甲旅団から見ると、1,300の損害というのは全滅の手前であったと言わざるを得ないだろう。共に戦った第11師団も、時間稼ぎの為に同じくらいの犠牲を出していると見込まれる。


「これでは第89機甲旅団は暫く動けませんね……無念です」

「そうですね。まあ仕方ないでしょう。機甲旅団は戦う度に壊滅する部隊ですから」

「それでよいのでしょうか……?」

「私達は帝国の先槍です。損耗して取り換えられるのは自然なことです」


 確かに機甲旅団の損耗率は帝国の他の部隊と比べてかなり際立ったものがある。ヒルデグント大佐はそういうものだと割り切っていたが、部隊の練度を維持する為にもそれは好ましくないことだ。


「大佐殿! 第88機甲旅団から通信です! まもなくエボラクムを包囲する敵軍に攻撃を開始するとのこと!」


 シグルズ率いる第88機甲旅団は完全に機械化されているという長所を活かし、最速で到着していた。


「やっと来てくれましたか。とは言え、戦闘になるとは思いませんが」


 ヴェステンラント軍もまた壊滅的な損害を被った。そこに外から五体満足の部隊が殴り込んで来ては、戦いにならないだろう。


「あー、問題ありませんよね、大佐殿?」

「ええ、問題ありません。存分に暴れ回って下さいと、ハーケンブルク少将に伝えてください」

「はっ!」


 第88機甲旅団は戦闘を開始する。

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