エボラクム防衛戦
エボラクムを取り囲む城壁。その城門のそれぞれに塹壕と戦車が配置され、ヴェステンラント軍の攻撃を待ち構えている。
「敵軍来ます!!」
「ついに来たか……」
木製の城門が叩きつけられ、大きく手前に歪む。そして数度殴られた後、ついに閂は破壊され、扉は破られた。
「撃てっ!!」
ヴェステンラント兵が姿を見せた瞬間、戦車砲の榴弾と機関銃の弾丸が扉の外に叩き込まれる。
「クッ……盾か」
しかしその攻撃は、彼らの黒い盾によって阻まれた。盾を地面に置いて並べ、魔導兵達はその後ろに隠れている。その盾をずるずると地面に擦らせながら、一歩一歩距離を詰めてくるのだ。
「あ、あれでは我々の攻撃が……」
「狼狽えるな!! あの盾は魔法の盾。撃ちまくればすぐに破れる! 機関銃手、戦車隊、攻撃の手を緩めるな!!」
「「はっ!!」」
攻撃は続く。1秒で20発近い弾丸を叩き込むゲルマニア軍の機関銃が一斉に盾を狙い撃つ。そしてついに、盾も破れた。その後ろに黒い鎧を纏った重歩兵の姿があった。それを皮切りに立て続けに盾が破壊されていく。
「よし! この調子だ! 撃ちまくれ!」
「中佐殿! 敵が再び盾を繰り出しています!」
「何っ!?」
盾が破壊されるとすぐに、魔導兵は次の盾を繰り出し、壁の穴を埋めた。どうやらこの戦術の為にわざわざ大量の盾を造って持ち込んでいるらしい。
「敵の接近を阻止出来ません!」
「クソッ……! カルテンブルンナー大佐に繋げ!」
この都市の最高司令官はヒルデグント大佐である。師団長の少将もいるのだが、数々の武功を立てている彼女の方が適任であるのは、誰も疑わなかった。
『――なるほど。状況は理解しました』
「そ、それで、我々はいかにすれば……」
『死守と最初に命じた筈なんですが――』
「お、お待ちください! この状況では無意味な犠牲を出すだけ――」
『ええ、分かっていますよ。有効な武器もないのに死守とは、無意味と言わざるを得ませんね。撤退を許可します。後のことは機甲旅団に任せてください』
「はっ! ありがとうございます」
ヒルデグント大佐は何かをやる気らしい。ともかく、通常の武器しか持っていない兵士達に出来るのはここまでだ。
「我々は後退する! 第2防衛線まで撤退せよ!!」
「はっ!」
戦車と兵士は亀のように固まる魔導兵に牽制射撃を行いつつ、防衛線を放棄、市街地に撤退した。
「あれは……大佐殿か!?」
「そ、そのようですね」
撤退する途中、ヒルデグント大佐が歩兵を率いて最前線に向かうのとすれ違った。
「た、大佐殿! 一体何をなさるおつもりなのですか?」
「陣地に引き籠っているだけでは勝てません。こちらから打って出なければ、敵を撃退することは出来ませんよ」
「う、打って出るとは?」
「まあ、見ていれば分かりますよ。ご心配なく」
「は、はあ……」
突撃銃を点検しながら、彼女は去っていった。
〇
「さて、ではやりますか」
「はい……」
家々の陰に隠れながら、ヒルデグント大佐率いる1,500程度の歩兵はヴェステンラント軍を襲撃する機会を伺っていた。ヴェステンラント軍は臨戦態勢なものの、ゲルマニア軍が逃げ帰ったことで気が緩んでいるように見える。
「我々は既に敵を半包囲しています。問題ありませんよ」
「そう言われましても、普通の兵士は魔導兵に殴りかかろうねんて思わないものですよ」
「そうでしょうか? まあ私が命令するから関係ないんですけど」
「それもそうですね」
「では行きますか。全軍、突撃!」
「「「おう!!!」」」
突撃銃を装備する第89機甲旅団の歩兵達は、突撃銃を乱射しながらヴェステンラント軍およそ800の左右より一斉に襲いかかった。
「白兵戦に持ち込むのです! 距離を取っては殺されますよ!」
「「はっ!」」
ヴェステンラント軍が混乱から立て直り反撃を開始するまでが勝負。ヒルデグント大佐は全速力で彼らの盾の元まで駆け抜けた。
「今度の盾は軽くてあしらいやすいですねっ!」
「な、なんだこいつ!?」
大佐は盾を払い除け、盾と盾の間に突撃銃の銃口を差し込んだ。そして容赦なく引き金を引く。至近距離で対人徹甲弾を浴び、盾を持っていた重歩兵はたちまち倒れた。
「こいつ!」
隣の魔導兵がすぐさま斬りかかろうとする。
「その程度は読めますよ?」
ヒルデグント大佐は拾った盾で魔導剣の一撃を防いだ。そして盾を相手に押し付けて剣を封じつつ、突撃銃を甲冑に押し付けんばかりの勢いで魔導兵を撃ち殺した。
自らの命も顧みず戦うヒルデグント大佐に兵士らは士気を上げ、密集陣形を保とうとする魔導兵達は益々混乱の局地に叩き込まれるのであった。
「おや、逃げるのですか」
「く、クソッ!」
やがてヴェステンラント軍の撤退の合図が鳴り響き、彼らは命からがらと言った様子で城外に逃げ去った。ヒルデグント大佐は逃げる彼らの背中を撃って数人を殺したのであった。
しかしこれは局地的な勝利に過ぎない。
「大佐殿! フランク少将閣下より通信です! 多方面で防衛戦が食い破られつつあり、救援を求むとのこと!」
「やはりそうですか。これは、よくないですね」
やはり対人徹甲弾なくしては、防衛線を維持するのもままならないようだ。