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干渉する大天使

 ACU2314 6/2 見たことはある場所


 シグルズは目覚めると、地平線の果てまで広がる草原の真ん中に立っていた。何度かここに来たことがある。最初に転生する時、転生した後も何度か夢の中でここを訪れた。


 ――ということは。


 シグルズは彼がそこにいることを期待して振り返る。案の定、古代人みたいな質素な格好をした好青年がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。


「やあ、人の子よ。元気にしていたかい?」

「ええ、僕は元気ですよ、ルシフェルさん」


 何だか世界を滅ぼしそうな名前をした、大天使と名乗る青年ルシフェル。シグルズを転生させたと思われる男である。


「それで、どうして僕を呼び出したんですか? 特に変わったことがあったとは思いませんが」

「いやいや、変わったことならあったよ。まず、君がゲルマニアにもたらした技術は、既に1944年頃のものに到達しつつある。一つ前の世界大戦の水準に達したということだね」

「確かに、そうですね。まあ一部だけですが」


 ゲルマニアが量産体制に入った突撃銃。これが地球で発明されたのは1944年、第二次世界大戦の終盤だ。銃器に関してはほんの6年程度で19世紀の水準からこの水準にまで到達したと言える。


「一部だけで結構だ。君は僕達の予想以上によくやっているよ」

「それはお褒めの言葉ですか?」

「もちろんさ。そもそも君を送り込んだ目的がそれなのだから」

「では、ありがとうございます。で、お褒めの言葉をくださる為だけに僕を?」

「それもあるけど、それだけではない。君には1つ教えたいことがあるんだ」

「はあ」


 何との回りくどい言い方である。


「それは何です?」

「この戦争の原因についてだ。この戦争は、ある一人に存在によって起こされたんだよ」

「なるほど……。それは、誰だと?」

「君も何となくは知っているだろうけど、ヴェステンラントのルーズベルト外務卿、彼が全ての原因だ。この戦争について責任を負う唯一の存在だよ」

「なるほど。あまり驚きはありませんね。ルーズベルトなんて名前ですから」


 ルーズベルトという名前を持った人間でロクな人間はいない。偶然ではあるのだが、人類に大きな不幸が降りかかる時、その原因は常にルーズベルトという名前をしたアメリカ大統領だった。だから何となく、シグルズにもその気がしていた。


「君はそういう類推をしたのか。面白いことを言うね」

「まあ、全く合理的はありませんがね」

「そう思うだろう? ところがね、これには理由があるんだ」

「理由、ですか?」


 シグルズは少々ふざけて言っただけだったのだが、ルシフェルはやけに真剣な眼差しをしている。


「ああ。どんな時代にもルーズベルトは必ず存在する。人類に争いをもたらし、人類を苦しめる為にね」

「はあ……」


 ――そういう比喩か?


「比喩ではないよ」

「え」

「ルーズベルトとは言うが、彼は僕と同類の大天使さ。今は仮に彼をルーズベルトと呼ぶことにするけど、彼は古代の昔からどの世界にも存在し、誰かに成り代わり、人類に災いをもたらす役目を担ってきた。例えば……有名なところだと、古代中国の桀紂とか煬帝とか、ノルマンディー公ギヨーム2世とか、イランのティムールとか。日本では麻原彰晃なんて変わり種もやっていたね」

「な、なるほど……」

「だが、彼の力にも限界があった。人前で変な力を使う訳にはいかないからね。結局は大きな流れを変えることは出来なかった。だから彼は自分の思い通りに動く戦争の為だけの国を建てることにしたんだ。もう想像が付くんじゃないかな?」

「それは……アメリカ合衆国、ですか?」

「そうだ。あの国はそもそも、破壊と殺戮を行う為だけに、ルーズベルトの手によって創られた国なんだ。つまり、初代大統領のワシントンもまた、ルーズベルトだということだね」

「はあ……」


 あまりにも唐突な話で全く現実味がないが、理解は出来る。つまるところルーズベルトという存在は歴史上の好戦的な支配者として振る舞い、世界に争いをもたらしてきたらしい。


「まあ、何となく分かってくれればいいさ。そして、彼のことをずっとルーズベルトと呼んでいる理由だが、もう説明しなくても分かるかな?」

「大東亜戦争の引き金を引いたルーズベルトもまた、そのルーズベルトだと?」

「そうさ。そのルーズベルト、第32代アメリカ大統領は、彼の歴史の中で最も成功したんだ。知っての通り、彼の手によって数千万人のアジア人が殺されたからね」

「そして、今ヴェステンラントで外務卿をやっている奴も……」

「そうだ。彼もまた、人類に惨禍をもたらして来たルーズベルトなのさ」


 どうやら日本最大の仇敵が海の向こうにいるらしい。しかもその時の名をそのまま名乗って。


「それで、どうして今になってそんなことを?」

「簡単さ。ゲルマニアがヴェステンラント大陸に攻め込むのも現実的な選択肢に入ってきているからね。君にはルーズベルトを殺す為、そちら側になって欲しいんだ」

「あなたも戦争を拡大させたいんですか?」

「これはあくまで調整さ。ヴェステンラントはもう少し弱らせないといけないからね。要件はこれだけだ。これからも頑張ってくれよ?」

「はあ…………」


 そして気付けば朝になっていた。

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