突撃銃対魔導兵Ⅱ
シグルズは自ら突撃銃を片手に魔導兵を狩って回り、スカーレット隊長は自ら剣と盾を持ってゲルマニア兵を斬殺して回る。戦況は一進一退、双方の損害は増すばかりであった。
「シグルズ様、このままで大丈夫なのでしょうか……」
ヴェロニカは不安そうな尋ねる。負けそうという訳ではないが、勝てる気もまたしないのである。
「正直言って分からない。だが、重騎兵を相手に正面切って戦えるのは、突撃銃を持っている僕達だけだ。何とかするしかないよ」
「そ、そう言われましても……」
「師団長殿、何か決め手が欲しいのは確かだ。何かないのか?」
「そう言われてもな……」
今更何も出来ることはない。兵士の練度と士気を信じるだけだ。と、その時であった。
「そこにいるのはハーゲンブルク少将か!!」
力強い女性の声が轟く。
「こ、これは……」
「スカーレット隊長か」
――であれば、これは好機か。
「そうだ!! 僕はここにいる!!」
シグルズは戦車の陰から身を乗り出して、その声の主に堂々と呼びかけた。
「し、シグルズ様!?」
「そこか! 今こそ決着を付ける時! 覚悟っ!!」
シグルズの存在を認めると、スカーレット隊長は数十の家臣を連れて突撃してくる。それらは皆盾を持っている。
「ど、どど、どうするんですか!?」
「やることは同じさ。総員、迎え撃てっ!」
シグルズは彼女らを容赦なく撃った。斉射によってスカーレット隊長の供回りの盾は次々砕かれ、鎧を貫かれて倒れた。が、スカーレット隊長本人が持つ盾は傷付く気配すらなかった。
「ほう。あいつ、やるではないか」
オーレンドルフ幕僚長は呟く。
「敵を褒めてどうするんだ……」
次第に銃撃はスカーレット隊長に集中する。しかしそれでもなお、彼女の魔法の盾を貫くことは、ついに出来なかった。
彼女の兜の僅かな隙間からの視線が、シグルズを捉えた。
「そこか!」
「き、来ますっ!」
スカーレット隊長は戦車をひとっ飛びに飛び越え、シグルズを真っ二つに切断する勢いで斬りかかった。
「覚悟っ!!」
「師団長殿、任せてくれ」
「っ!?」
スカーレット隊長の渾身の一撃は、シグルズには届かなかった。彼女の剣は何かに阻まれ、衝撃で彼女の腕に激痛が走る。
「クッ……」
敵陣の真ん中に踏み込んでいたのを思い出したスカーレット隊長は、バネに弾かれたようにすかさず距離を取ると、シグルズを睨みつけた。
「よくやってくれた、幕僚長」
「これが仕事だ」
シグルズとスカーレット隊長の間に立ち塞がるは、魔導剣を片手に持ったオーレンドルフ幕僚長。
「またお前か」
「それはこちらの台詞だ。司令官を名乗るのであれば、指揮を放棄して自ら戦おうなどとはするな」
「その台詞は僕にも刺さるんだが……」
何度も戦ってきたこの二人。お互いの力量は大体把握している。完全に止めを刺せるほどの実力差はないことも。
「師団長殿、この馬鹿は私が相手をする。師団長殿は他の場所の督戦に行ってくれ」
「分かった。死なないでくれよ」
「あ、ちょっと待て! 逃げるのか、シグルズ!?」
シグルズが早々に立ち去ろうとすると、スカーレット隊長が大声で呼び止める。
「君と戦わなければならない法はどこにもない!」
「最高司令官同士が戦うべきだとは思わないのか!」
「そんな前時代的なやり方に興味はない!」
「卑怯者が!」
「勝手に言ってろ!」
一通り罵詈雑言を言い交わしたが、シグルズはスカーレット隊長の相手をしてやる気はなかった。旅団長としてたった一人の敵兵を相手している暇はないのだ。が、シグルズはとある卑怯な策を思い付いた。
「ヴェロニカ、僕は行くけど、幕僚長と戦っているスカーレット隊長を背後から刺して欲しい」
「え、ええ? そ、そんな、卑怯ですよぉ……」
「前時代的なやり方に興味はないと言ったけど、あれは嘘だ。スカーレット隊長をやれば敵の士気は落ちる。それが勝利への近道だ」
「い、いいんですか……?」
「ああ。頼んだよ」
ヴェロニカはゴクリと唾を呑み、静かに頷くと、物陰にひっそりと隠れた。シグルズは部下達を率い、戦場へと駆け出した。
「さて、オーレンドルフ大佐、貴殿を討てば我が軍の勝利が近付く。今日こそは殺させてもらおう」
「殺せるものならば殺してみろ」
「言うじゃないかっ!」
スカーレット隊長はオーレンドルフ幕僚長の雑な挑発に乗せられるまま斬りかかる。二太刀三太刀と斬りつけるが、オーレンドルフ幕僚長は簡単にその斬撃を受け止めた。
「真正面から受け止められるとは、今度の剣は魔導剣のようだな。ゲルマニア人が魔導剣など使っていていいのか?」
「思想は関係ない。使えるものなら何でも使う。それが戦争というものだ」
「……そうか。貴殿がその気であるのなら、私も遠慮なく戦える」
「これまでは本気でなかったとでも?」
「さあな。ともかく、行くぞ!」
「ああ、来い」
スカーレット隊長はオーレンドルフ幕僚長を殺すべく攻勢に出る。対してオーレンドルフ幕僚長は、彼女が斬りつけて来たのを受け止めることだけに専念していた。そんなことをしていたら当然、スカーレット隊長の体力だけが一方的に消耗されていく。
「スカーレットの意識が大佐殿だけに向いている……今なら……!」
そしてついにヴェロニカが動き出す。