突撃銃対魔導兵
「し、シグルズ様!?」
シグルズを追い、ヴェロニカは魔導通信機を抱えて慌てて装甲車を飛び出した。オーレンドルフ幕僚長もそれに続く。
「あんなロクでもない連中と真正面から戦えと言うんだ。僕達が手本を示さないとね」
「は、はあ……」
「では行くぞ! あ、ヴェロニカは通信担当だから後ろで待っていて」
「は、はい!」
シグルズは少数の護衛を連れて最前線へと駆ける。既に最前線ではヴェステンラント軍が第一防衛線を突破し、陣形の内側に入り込んでいた。
ある者は兵士に斬りかかり、ある者は戦車の側面を弩で撃つ。ゲルマニア兵は突撃銃で反撃しているが、いまいち効果は上げられない。
シグルズの目の前に数人の騎兵があった。彼らはシグルズを認めると、他の一切に優先して彼に向けて突撃してきた。シグルズの顔は随分有名になったらしい。
「遮蔽物に隠れろ! そして撃てっ!」
「「はっ!」」
シグルズ達は炎上する戦車の後ろに素早く身を隠すと、突撃してくる騎兵を突撃銃で一斉に撃った。騎兵は弩で反撃するが、馬の上からの射撃など恐れることはない。魔導兵の鎧を数十の徹甲弾が叩きつける。
やがて、先に倒れたのは重騎兵の方であった。
「うむ。やったな、師団長殿」
「ああ。破壊されても戦車は戦車だ! 遮蔽物として使い、騎兵を狩れ!」
「「おう!!」」
流石にヒルデグント大佐のような魔導兵に殴り掛かるのは無理だが、野戦であれば十分距離を取って戦える。落ち着いて距離を取り冷静に射撃を行えば、重騎兵相手にも互角の戦いを演じることができるのだ。
「ヴェロニカ、今のを全軍に伝えてくれ」
「分かりましたっ!」
「しかし師団長殿は魔法を使わないのか? 師団長殿の魔法なら重騎兵とて簡単に殺せるだろうに」
「そんなことをしたらクロエとかノエルがやってくるからね。それは面倒だ」
「なるほどな」
レギオー級がその魔法を使えば相手のレギオー級が出てくる。それはシグルズにとって不利益の方が大きいだろう。まあ多少筋力を強化する魔法くらいは使っているのだが。
「さて、僕達はこのまま敵を狩りに行こう。味方を景気づける為にもな」
「そうだな。こんな乱戦では指揮も何もあるまい。兵を勢いづけた者の勝ちだ」
大将のように後方でふんぞり返っている訳にもいかないのが旅団長とか師団長である。たまには自ら銃を取らなければならない。かくして第88機甲旅団は更なる乱戦に突入するのであった。
○
「スカーレット隊長、敵の抵抗激しく、我が軍の損害は大きくなっています!!」
「突撃銃なるもの……思ったより強力だったな」
先のブリュッヒャーの戦いで突撃銃の威力はそれなりに把握したつもりであったが、このような平野であっても重騎兵に対抗し得る威力を持っていることは想定してなかった。いや、そうとは思いたくなかったのだ。
「ど、どうされますか? このままでは貴重な重騎兵が……」
「敵を削れるのなら損害は気にせんでもいい。が、このままではそれも覚束なさそうだな……」
「それでは……?」
「どうしたものかな」
状況は正面衝突。戦術で工夫出来ることはない。であれば個人の戦い方を変えるしかないだろう。
「ふむ、馬がほとんど役に立っていないな。寧ろ目標が大きくなって的にされている」
「は、はあ」
「であれば、こうしよう。総員、馬を捨てよ! ゲルマニア軍の銃激から身を隠しつつ、敵に斬り込め!!」
弩も遮蔽物に隠れた敵を相手には命中率が低過ぎる。スカーレット隊長は馬を捨て、撃破したゲルマニア軍の戦車に隠れながら接近するように命じた。つまるところゲルマニア兵のような戦い方である。
「これで少しは状況もよくなるか」
「さ、さあ」
「では、ここはもっと勢いをつけよう。私が出る。皆、続け!!」
シグルズと同じ発想を以て、スカーレット隊長は馬に乗り戦場へと駆け出した。
「た、隊長!?」
「ついて来られる者だけついて来い!」
「はっ!!」
スカーレット隊長自らの参戦である。戦場に辿り着くと彼女と家臣達は馬から降り、撃破した戦車の陰に姿を隠した。機関銃や突撃銃の銃弾がそこら中を飛び交う戦場の、唯一の安全地帯だ。
「ゲルマニア軍は、こんなものをいつの間に……」
「我々が怯えていても仕方がない。さあ、行くぞ!!」
「は、はいっ!!」
黒い重鎧は機動性を損ねるものではない。スカーレット隊長は魔法で盾を作ると、それだけを片手に弾丸飛び交う戦場に繰り出した。魔導兵達も慌てて彼女に続く。
「敵は前方の戦車の陰か。行くぞ! 突撃っ!!」
「はっ!!」
各々が盾を掲げ、スカーレット隊長率いる20人程度の部隊は敵に向かって走り出した。それに気づいたゲルマニア兵は直ちに突撃銃と同軸機銃で射撃を開始する。
「あいつは生きているのか。だが、これで終わりだっ!」
スカーレット隊長は弩を構えると、側面を晒す戦車の後部に矢を放った。そして次の瞬間、戦車は爆発、炎上した。同軸機銃からの射撃はすぐさま止んだ。
「さ、流石は隊長!」
「この程度造作もない。敵兵を仕留めるぞ!」
「「おう!!」」
突撃銃の射撃によって数名が撃ち殺されたが、スカーレット隊長はついに戦車に到達した。そして隠れていたゲルマニア兵らを斬り殺したのであった。