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ベダ決戦Ⅱ

「……僕達は、動かない。ここで待機する」


 シグルズはゲルマニア軍の端で動かないことを決めた。


「ほう」

「敵の行動には何か裏がある気がする。それに即応する為にも、僕達は待機しておくべきだ」

「了解した。ではそうしよう」


 かくして第88機甲旅団は戦闘に加わらないことになった。が、中央では戦闘が激化している。


「シグルズ様、友軍前衛が敵前衛と接触した様子です!」

「力ずくで突入したか。これは厳しいぞ……」


 敵味方が入り乱れる戦闘になれば焼夷弾は使えない。それに接近戦に適した機関短銃の配備は一般の師団にはまだ進んでおらず、歩兵の5人に1丁程度の割合だ。敵に主導権を握られつつあることは否定出来ない。


「それでも救援には行かないのか?」

「ああ、行かない。本当にその必要があるのなら、大将閣下から命令がある筈だ。そうでないのなら、動かなくてもいい」

「まあいいだろう。確かにこれが敵の全てとは考えにくいからな」


 今はヴェステンラント軍が勢いを持っているが、それも長くは続くまい。あの単純な突撃でゲルマニア軍を壊滅させることは不可能だ。故に彼らには別の策がある。そうシグルズもオーレンドルフ幕僚長も判断した。


 そして次の瞬間であった。


「し、シグルズ様! 大変です! 敵が右から来ます!!」


 ヴェロニカの魔導探知機に数千の敵影が映った。


「敵の兵力、距離は?」

「へ、兵力はおよそ五千! 騎兵です! 距離は400パッスス程度です!」

「近いな、師団長殿」

「ああ。だがこの時の為に待機していたんだ。全軍、戦闘用意」


 敵は突如として現れた。魔法を封鎖して森の中に身を潜め、ここぞと言う時に突撃して来たのだろう。最近のヴェステンラント軍がよくやる作戦だ。


 シグルズはまず指揮装甲車のハッチから頭を出して、敵を自らの眼でよく観察する。


「あれは……重騎兵か。しかも盾を持っている。中央にいる筈じゃなかったのか?」

「どうやら中央には重騎兵はいなかったようだな。我々は偽装に引っかかったらしい」

「そうか……。ただの黒く塗った鎧だったってことか。そんな馬鹿げた策に……」


 自己主張の強いヴェステンラント各大公国は、それぞれの鎧を自身の色に統一している。クロエの軍隊は白であり、ノエルの軍隊は赤だ。その中で重騎兵は禍々しい紫がかった黒であり、ゲルマニア軍はそれで判別していた。


 今回はこれを逆手に取られ、ただの黒く塗った鎧を重騎兵だと勘違いさせられたのであった。


「まあいい。全軍、主砲、撃てるだけ撃ちまくれ!」


 まず主砲は通常の榴弾砲で斉射。重騎兵に、しかも魔法の盾を持った連中には効果は薄い。しかし相手も人間であり、目の前で大地を抉る爆発が起こればビビる。そうして隊列を乱すのが狙いだ。


 数千の榴弾が叩き込まれるが、死んだ重騎兵はほんの数十である。彼らは全く怯まず、一直線に馬を駆けさせる。


「ぜ、全然効いてません、シグルズ様!!」

「そうだろうね。これは前座だ。本命と行こう。全車、同軸機銃、撃ち方始め!!」


 今回の本命、主砲のすぐ横に取り付けられた2丁の機関銃。当然そこに装填されているのは対人徹甲弾である。敵が有効射程に入るやすぐ、シグルズは全ての戦車に攻撃を開始させた。


 戦車に搭載することで安定性と精確さを手に入れた機関銃は数十万の銃弾で重騎兵を薙ぎ払う――筈であった。


 弾丸は彼らの盾に遮られ、弾き返された。


「思ったより硬いな」

「き、効いてません!」

「大丈夫だよ。あの盾は魔導装甲の応用だ。暫く撃ち続ければ――ほら」

「あっ、割れた」


 盾は魔法が切れた瞬間、薄氷のように簡単に割れて落ちた。20発程度は徹甲弾を吸収しただろうか。そう、その程度だ。


「その調子だ! 撃ちまくれ!」

「この調子で敵を食い止められるか……」


 盾は次々に崩れ、重騎兵もまた次々と馬から落ちる。対人徹甲弾の効果はやはり覿面であった。しかし、敵の勢いを完全に殺すことは出来ない。数百の死体を晒しながら、彼らは全く止まることを知らずに突撃する。


「流石にこれだけでは止められないか……。っ!」


 その時、目の前の戦車が数量、勢いよく上がる炎に包まれた。


「敵軍、射撃を開始しました!」

「真正面からでも貫かれる、か」


 基本的には正面装甲であれば重騎兵の矢でも跳ね返せるが、運が悪いと貫かれる。こればかりはどうしようもない。


「こちらも反撃だ。歩兵隊、撃ち方始め!」


 歩兵は戦車の陰から突撃銃で射撃を開始する。威力で機関銃には及ばないが、取り回しのよい武器だ。とは言え、これも決定打とはなり得ない。この間合いでは機関銃の方が遥かに効果的だ。


 重騎兵を削り切れないうちに数十両の戦車がやられ、機甲旅団もまた兵士を損耗していく。


「どうやら敵は諦める気はなさそうだぞ、師団長殿」

「そのようだな。僕達をどうあっても滅ぼしたいらしい」

「ど、どうするのでしょうか……?」

「せっかく突撃銃があるんだ。乱戦に持ち込まれても今の僕達は戦える」

「な、なるほど?」

「じゃあ、戦場に行こうか」


 シグルズは突撃銃を片手に指揮装甲車を飛び出した。

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