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共闘する両国

「申し上げます! ヴェステンラントにガラティアと合力する動きあり!」

「何? まさか、あの馬鹿どもがそのような……」


 明智日向守は伝令からの報告に少々動揺していた。領土獲得しか興味のないガラティア帝国と人種差別主義者のヴェステンラント合州国が手を組むとは、全く考えていなかったのだ。


「あなたが思うほど彼らは馬鹿ではなかったようね」

「そのようです。ガラティアもヴェステンも一長一短。その短きを突いて戦っておりましたが、両者が合力すればそれも叶いますまい」

「もうお手上げって?」

「いいえ。それはございません。手を組んだとて所詮は烏合の衆。付け入る隙はいくらでもありましょう。それに、敵がわざわざ集まってくれるのなら、私が一度に相手出来て楽になります」


 ヴェステンラント軍は既に城門を一枚突破している西門に兵力の多くを移動しつつある。西から六万以上の大軍で一気に攻め込む魂胆だろう。それは脅威だが、同時に有能な武将を一方に集中させられる。


「言うじゃない。じゃあそっちは任せるわ」

「はっ。しかし、敵が西からしか攻めて来ぬ以上は、曉様もご出馬なされるのがよろしいかと思いますが」


 曉は平明京の総司令官として本丸にどっしりと構えていたが、その必要もないかもしれない。


「そう。ならそうしましょうか。私が直々に軍勢を率いるわ」

「はっ。なれば必ずや勝てましょう」

「別にそんな持ち上げなくてもいいわよ」


 かくして攻防は次の弾丸へと突入する。


 〇


 ACU2314 2/24 平明京


「敵勢、動き出しました!」

「来たか。皆、船の用意をせよ!」


 ガラティア、ヴェステンラント連合軍が早くの攻撃を開始した。前線から少々後ろの本陣で、明智日向守は指揮を執る。曉は一応総大将ということになっているが、実質的な司令官は明智だ。


 今回も前回と動揺、水堀を船を用いて移動し、縦横無尽に敵を襲撃する作戦を採る。敵が接近戦に強かろうと弱かろうとこの作戦は有効だ。大八洲側が戦いの主導権を握ることが出来る。


「――まだだ。敵を十分に引き付けてから打って出る。断じて姿を見せるな」

「はっ!」


 平明京の各地に隠された船着場。武士達はそこで、出陣の時を今か今かと待ちわびている。


「申し上げます。敵勢、四番門に迫っております」

「この辺りが潮時か。打って出ます。曉様、よろしいですね」

「ええ。好きになさい」

「はっ。皆の者、一気呵成に攻め掛かり、敵を根切りにせよ!」


 武士は出陣した。各所に隠された軍船が一斉に水堀に飛び出し、魔法を使って一気に増速し、敵軍の間隙に向かって突っ込む――その筈であった。


「あ、明智様! 水堀が、水が低くなっております!!」

「何?」


 明智日向守は陣所から出て水堀の様子を確認する。


「何だ、これは……」


 報告の通りであった。水堀の水位はみるみるうちに低くなり、大八洲の喫水の浅い軍船であっても航行が困難なほどになってしまう。


「そうか、ヴェステンラントの小細工か。姑息な」


 明智日向守には思い当たることが一つだけあった。ヴェステンラント軍を率いているのは土の魔女ドロシア。彼女が率いる魔女隊が何らかの細工を行い、水堀の水を外に流したのだろう。


「すぐに皆に伝えよ! 船は今や役に立たぬ。即刻、三の丸に戻れと! また、関を降ろせ! 水を流してはならぬ!」


 かくして軍船による奇襲は失敗し、水堀が一層失われてしまった。


 〇


「ふははは! 見たか! これがヴェステンラントの土木技術よ!」


 ドロシアは上機嫌に、本丸を向いて笑う。明智日向守が読んでいた通り、これはドロシアが事前に仕込んでいた作戦なのだ。


「よくやってくれた。これで我々に対する脅威は一先ず取り除かれたな」


 アリスカンダルは冷静に礼をいった。


「しかし陛下、未だ城壁の内側には水が残っております。ドロシア殿のやり方では時間がかかり過ぎます」


 イブラーヒーム内務卿はそう指摘する。確かにドロシアの策は長時間に渡る工事が必要であり、そうポンポンと繰り出せるものではない。


「ふむ、そうだな。それについてはどう思う?」

「ご安心を。既に水の流れは平明京から流れ出る方向に変わっています。今は堤防を築き水を堰き止めているに過ぎません。これを破壊すれば、全ての水堀を空堀にすることが出来ます」

「なるほど。攻め込めば攻め込むほど、堤防も破壊して回れるということか」

「そういうことです。水が滞留した時には、私達が再び水を外に流すように水路を作ります」


 平明京の水堀は水路も兼ねており、それ故にほとんどの水堀が直接繋がっている。水運には便利だが、一度水が抜けるような経路を作ってしまえば、全ての水が流出してしまうのだ。


 そして堤防は当然ながら、最前線より後方に作らざるを得ない。ガラティア軍が堤防を破壊していけば、水堀は全く機能を失うのである。


「さあ陛下、敵が奇襲を仕掛けてくることは最早ありません。攻撃を始めましょう」

「そうだな。全軍、前進せよ!」


 かくしてヴェステンラント、ガラティア軍は進攻を開始した。

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