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皇御孫命救出作戦

「伊達殿、いずれにせよ、天子様を平明京からお救い申し上げなければ、何も始まりません」


 朔は言う。大八州皇國の君主である治天下あめのしたしろしめす皇御孫命すめみまのみことは未だに平明京にあるのだ。


「そうだな。天子様は大八州の主。天子様がいらっしゃる以上、唐土を捨てることは出来ぬか」


 実権はなく儀礼的な存在であるとは言え、皇御孫命は対外的には大八州の君主であり、彼が平明京にいる限り、中國を捨てることは出来ないし、曉は大八州の正統を主張し得る。


「はい。晴虎様も仰っておりました。天子様がいらっしゃれば例え山深くの寒村であろうと大八州であり、天子様がおらずんば、例え地上の全てを手に入れても大八州ではないと」

「うむ。何としてでも平明京から天子様を救わねばならぬ。が、そう簡単ではないぞ。海にはヴェステンラントの軍船がうようよしているし、平明京は海に近いとは言え、ひとっ飛びで行けるような距離ではない」


 カムロデュルムほど海に近ければ飛鳥衆で奇襲を仕掛けることも出来たであろうが、平明京までとなると流石に鬼石が持たないだろう。


「とは言え、大軍を率いて平明京に攻め込む訳にもいかないでございましょう。やはり飛鳥衆で奇襲を仕掛けるしかございませぬかと」

「出来るのか?」

「わたくしが行ってまいります。大名の方々には、腕の立つ飛鳥衆をお貸し頂きたい」

「そうかそうか。ではお前に任そう。皆々には助力を頼みたい」


 唯一の現実的な作戦が少数精鋭による平明京奇襲であることは、誰の目にも明らかであった。故にそれ自体に反対する者はいなかったが、飛鳥衆を提供することには皆が消極的であった。まあそれは仕方のないことだろう。


 最終的に朔の率いる二百程度の軍勢が平明京襲撃部隊として組織された。そして内地の諸問題は晴政に任せ、朔は直ちに中國へ出撃した。中型の関船を二隻用意し、平明京に付近に密かに上陸する計画である。


 ○


 ACU2314 1/17 平明京近郊


 船で移動すること五日。上陸してから歩くこと三日。朔が率いる飛鳥衆達は平明京に無事到達した。彼女らは平明京の周辺に身を潜めている。


「かつては住み良い京としか思っておりませんでしたが、いざ敵となると、難攻不落の城そのものにございますね……」


 平明京は船が通れるほどの水路が多数張り巡らされ、見た目にも輝くばかりに美しく、水運によって商いも盛んな都市である。実際その城下町の人口は二百万を超え、ブルグンテンなどと並び世界で最大の人口を誇る都市の一つだ。


 しかしながら、ここは同時に巨大な要塞でもある。多数の水路は橋を落とせばたちまち多数の水堀となり、敵の進軍を徹底的に拒む。水路で分けられた島にはそれぞれ小規模な城と言うべき規模の砦が建設され、近付く敵を尽く打ち払う。


「どうするの? 兵は大して警戒しているようには見えない。一気に本丸を落とすことも出来なくはないと思うけど?」


 伊達家から派遣された生意気な侍大将、桐は朔に問う。


「確かに出来ないことはないでしょう。もう少し攻め口を探りますが、そうすることになりましょうね」

「早く決めてよね。あまり長居は出来ないんだから」

「ええ。そのつもりにございます」


 空を飛べる彼女らは水堀など無視出来る。本丸まで一気に飛び込むことは可能だ。だが、道中の砦と交戦した場合、大きな犠牲が出ることも予想される。城内に飛鳥衆もいるだろう。作戦を決めかねていると言うより、朔は単に決断を下せなかった。


 と、その時であった。


「通信……? 怪しい……」


 朔の持つ魔導通信機に何者かが通信を掛けて来た。遠く内地にいる味方ではない。この近辺に朔の使う周波数を知っている人間がいるということだ。つまり掛けて来たのは上杉家の中枢に近い人間、平明京にある敵方の誰かであろう。


「――ここでわたくしに通信を掛けて来るのは、誰にございますか?」

『明智日向守にございます。朔様、お久しゅうございますな』

「明智殿? ……あの謀反の時以来にございますね。あの時は大変お世話になりました」


 朔を相手に見事な狂言を演じて伊達が謀反を起こしたと騙した張本人。それが明智日向守である。


『あの時は申し訳なく思っております。ただ私の役目は我が主を守ることにございました故』

「そうですか。それで、曉の家来であるあなたが、わたくしに何の用でございますか?」

『朔様、あなたと一度お話がしたく思います。平明京の二の丸にお越しくださりはしませぬか?』

「そう言ってわたくしを謀殺するおつもりですか?」

『まさかそのような。もしも左様なことがありますれば、私があなた方と内通していたと公にすればよろしいかと』

「それでは釣り合いが取れませんね。所詮はただの家老であるあなたと左大将であるわたくしとでは」


 曉は明智を失っても構わないが、内地の勢力にとって朔が失われるのは非常に困る。明智日向守の提案は交渉として成立していないのだ。


『それは重々承知のこと。されど、私は大八洲のことを案じてこのような申し出をしております。信じてくだされとしか、今は申し上げられません』


 明智日向守にしては珍しい低姿勢。だが朔は到底彼の言葉を信じられなかった。

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[一言] 明智といえばやっぱり・・・・・・
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